第12話 冒険者の接待

 俺のミラクルな囁きのお陰でハゲ頭が率先して少女をなだめて俺について来てくれた。二人はダンジョンの通路が光ゴケで覆われていて明るい事に少し戸惑っていたようだけど、驚くのはまだ早い。

 すぐに広場に到着すると、俺たちが作った白色のペンキで塗られたステージが二人の目に入る。

 

「こ、これがダンジョンなのか?」


 ハゲ頭は驚いたようにステージを指さす。

 

「看板に書いてあった通りだよ。妖怪たちは友好的で冒険者との戦いは望んでいないんだ。戦闘訓練なら受けてもいいけどね」


「このステージで何をするつもりなんだい?」


 ハゲ頭の質問に俺は自信満々で答える。

 

「ここでは、妖怪たちのダンスが楽しめるようになってるんだ。カラオケもあるから歌うこともできるぞ!」


「カラオケ!」

 

 突然少女のテンションが上がる。カラオケが好きなのかな? 俺はステージの前に置いているテーブル席へ二人を案内すると、飲み物を取って来ると二人に告げてステージの奥へと引っ込む。

 

 俺は全力疾走で地下三階へ戻ると、座敷童たちとユキ、クロに冒険者が来たと叫ぶ。


「看板を作っていたら冒険者二人がやって来たんだ!」


 俺が興奮したままみんなに教えると、見た目が人間そのものの座敷童と俺がまず冒険者の相手をして、ユキ、クロ、黒手くろてはステージ裏で控えることを決める。

 

「まだリハーサルも出来てないから、ダンスは難しいかもしれないわね」


 ユキが思案顔で銀髪をかきあげる。

 確かにユキの言う通りだ。ぶっつけ本番……衣装合わせもしてない状況でダンスはできないかもしれない。座敷童の衣装はまだ決まってもないしなあ。

 

「と、とりあえず飲み物を持って座敷童と一緒に行ってくるよ」


「了解! 後ろから見てるわ」


 俺は座敷童と共に、缶ビールとオレンジジュースを持って急ぎステージに戻る。

 ハゲ頭と少女はそのまま席に座って待っていてくれていたようで良かった……俺がいなくなった隙にダンジョンから出てしまわないか、少しだけ心配だったんだ。

 

「こんなものしかないけど、どうぞ」


 俺は手に持った缶ビールとオレンジジュースを二人に手渡す。

 

「ダンジョンでビールとは……安全かどうかもまだ分からないから、気持ちだけいただくよ」


 ハゲ頭はビールを物欲しそうな目で見つめながら、とても残念そうな様子だ。

 そうだよな……いまであったばかりの怪しい奴に「安全だ」と言われて「はいそうですか」とはならないよな。逆に無警戒にビールを飲んでくつろがれてもそれはそれで怖い。

 あちゃー。お茶にしておけば良かった。次からはそうしよう。あ、むしろここに売店を置くか。店員はユキとクロでいいだろ。


「そ、そうか……コーヒーやお茶もあるけど」


「また取に行かせるのも悪いからね。そこの少女は妖怪なのかね?」


 ハゲ頭は俺と一緒に来た座敷童に目をやる。少女じゃなくて少年なんだけどな……市松人形のような整った顔に女性用の着物姿で十歳くらいの少年だから、確かに初対面だと誰もが少女と思うだろうなあ。

 

「こいつは座敷童って妖怪なんだ。ステージでダンスを踊る練習中だよ」


 リハーサルまだだしこの二人には練習中と言っておこう。

 俺の言葉を受けて座敷童はペコリとお辞儀をする。


「か、かわいいー」


 少女は座敷童がお気に召したようだ。

 ハゲ頭は子供に弱いみたいで急に微笑ましい顔になって座敷童を見ている。


「ええと、マミ? さんだっけ。戦闘訓練……やる?」


「あたしはもうどっちでもいいや。この見て和んじゃったし……撫でていいかな?」


 座敷童! 凄いぞ! 冒険者の戦闘意欲を失わせるなんて。彼がうちのホープじゃないか?

 いや、むしろ座敷童に頼りっきりなのでは……ダンスも宝箱に置いたビラの漫画も座敷童が……


「あ、どうぞ。座敷童、大丈夫か?」


 座敷童は俺の言葉にウンウンと頷きを返すと、少女の元へトコトコと歩いていく。


「ありがとう!」


 少女は満面の笑みで、座敷童の頭をナデナデしてご満悦そうだ。

 そうだぞお。妖怪は安全!頭を撫でても大丈夫!

 何を思ったか我慢できなくなった少女は座敷童を抱き締めているじゃないか。大丈夫か? 座敷童……一応少年なんだけど、人間とはいえ年上のお姉さんに抱擁されたら……

 俺の心配をよそに座敷童は少しだけ頰を紅潮させたが、じっとされるがままになっていた。


「マミの小さい頃を思い出すなあ……」


 ハゲ頭が少し涙ぐむが、見ていて気持ち悪い。

 なんだかシミジミした雰囲気になってきので、お茶でも出すかとステージの裏にいるユキにお茶とお菓子を頼む。

 

「どうだ? 妖怪はモンスターと違うだろ?」


「少なくとも、この座敷童くんからは悪意を感じないね」


 ハゲ頭は目じりが下がりながら、座敷童と少女の様子を眺めている。この男……顔がもうすっかり父親になってるぞ。


「他にもいるんだけど、みんな悪い奴らじゃないんだ」


「そうかそうか……妖怪ってのは余り知らなかったがモンスターとは違うんだな」


 ハゲ頭! そこは知らなくても知らないって言ったらダメだろう! モンスターの一部に妖怪がいるって認識なんだろうか……モンスターどもめ! 必ず妖怪を冒険者たちに認識させてやるからな。

 

「もしよければここでゆっくりと冒険者仲間や一般の人と一緒にカラオケパーティでもしてくれると嬉しい」


「ほう。それは面白そうだ。ここに来るのは街から少しかかるけどピクニックと思えばいいか」


「うんうん。無料で使ってくれて構わないから。食べ物は……今のところ持ち込みになっちゃうけど」


 売店も必要かなあ。ああ、そうだバーベキュー施設かコンロを貸し出そうか。それならここで火を使うことが出来る。

 

「火を使っても構わないかね?」


「もちろんだよ。コンロやバーベキューコンロ、バーベキュー用のかまどとかもいずれ準備するよ」


「ほう。それは素晴らしい。キャンプも出来そうだな」


 ハゲ頭が乗り気になってきているぞ! 団体さん大歓迎だ! 一気にポイントが入る。宿泊してくれたらもっといい。おおお。燃えて来たぞお。

 

「あ、そうそう。ここには雪女という妖怪がいるから、氷は使いたい放題だよ。持ってきてくれた食べ物や飲み物を冷やすこともお手の物だ」


 居住スペースに冷蔵庫もあるけど、キャンプ感覚で来てくれる方がこちらの施設に優しい。いまはポイントの制限がきつくてホテルのような部屋を作ることは難しいからな。

 さりげに雪女がいることもアピールしておく……

 

「楽しそうね! カラオケもできるんでしょ?」


 座敷童をようやく解放した少女が話に割って入って来た。

 

「ああ。カラオケは自由に使ってくれ。ステージの上にあるだろ」


 俺はステージの上に置かれたテレビとカラオケセットを指さすと、少女は俺に目くばせしたので俺が頷きを返すと彼女はステージの上に登って行った。

 

「おお。すごいじゃないこれ! 最新式よ!」


 少女はステージの上にあるカラオケセットを手に取り感嘆の声をあげた。そうか、最新式だったのか。俺たちは誰も気が付かなかったがな……

 あ、少女がステージのウロウロし始めた……このままだとユキとクロに鉢合わせしてしまうじゃないか!

 

 俺は急ぎステージに登ると、少女に声をかける。

 

「せっかくだから、一曲歌って行かないか?」


「そうね。端末貸してもらえるかな?」


 端末、端末っと……確か曲を入れる機械だよな。俺はカラオケ用の端末を手に取り、テレビの電源を入れる。

 少女は俺から受け取った端末を手に取ると、曲を探しているようだ。そこへ、座敷童がパイプ椅子を持ってきて少女の足元に置く。気が利くじゃないか!

 

 少女が歌い始めたことを確認してから、俺はステージ裏へと足を運ぶ。そろそろユキたちがお茶とお菓子を持って戻って来ているだろうからな……

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