第4話 ポイント!

 ポイント……世知辛いがポイントが無ければ食事さえままならないんだよな。暗いダンジョンを明るくしないといけないことが分かってしまったし、ポイントがあ!

 

「ユキ、ダンジョンって暗いよな」


 俺が問いかけると、未だに呆れた様子のユキは半眼で俺を見つめながら投げやりな様子で応じる。

 

「私達には関係ないけど、人間の冒険者は暗いと何も見えないわね」


「そうなんだよ! せっかく楽しめるアトラクションを作っても彼らは何も見えん」


「……確かに……盲点だったわ……」


 ユキは銀色の髪をかきあげ、額に手を当てる。するとブツブツ何やら呟きながら、電卓を叩き始め、鉛筆をノートに走らせ始めた。

 何を書いているのか気になったから、彼女の後ろから覗き込むと……数式がいっぱいだー! 俺は見なかったことにして、ユキの着物から見えるうなじを横から眺めていた。

 彼女は銀髪をポニーテールにしているから、うなじが良く見える……うなじっていいよな?

 

「夜叉くん、さぼってないでそこに座る」


 キラリとユキの目が光った気がした! 計算のスイッチが入った彼女は周りが見えなくなってしまう。

 

「いい、夜叉くん。まずこれを見て」


 ユキはノートを俺に差し出すと、鉛筆で俺が見るべき場所を指し示す。ええ、何々……

 

<ゆきちゃんのすてきなリスト>

・光ゴケ 一メートル当たり 一ポイント

・蛍光灯 六十センチサイズ 一ポイント

・HIDランプ 四百ワット 三ポイント

・鬼火 三体 一ポイント

 

 おお。ダンジョンを照らすアイテムが並んでいる! さすがユキだ。

 

「いろいろあるんだな」


「まだまだあるけど、比較的ポイントの低いものを選出したわ」


 ユキは机に乗り出して、俺の手元にあるノートに鉛筆を走らせる。彼女が乗り出すと、純白の着物から彼女の胸の谷間が……無い。残念ながら谷間は無い。まあ分かってたことだけど。

 クロもユキも胸に関しては同じだな。変に納得している場合じゃない。

 俺が関係ないところを見てトリップしようとしていたのには訳がある。ユキが……四つの明かりの利点を話していて、光量とかルーメンとか言ってて意味不明なので俺は現実逃避していたってわけだ。

 

「ちょっと、夜叉くん。聞いてる?」


「お、おう」


 聞いてないけど、「聞いてる」と答えないとよろしくないことは自明の理だからな……三分くらいユキが語ったところで彼女は乗り出した体を元に戻した。

 

「分かってくれたと思うけど、光ゴケが一番よ」


「そうだな」


 俺は分かってないが、ユキに同意する。そうか光ゴケか。光ゴケは任意の時間に、点灯と消灯を決めることが出来るが、切り替えは一日一回限りという弱点がある。

 今から点灯しますよ、これから消灯しますよってことは出来ない。その分リーズナブルだそうだ。ポイント当たりの照らす範囲が一番広いということだ。

 

「ダンジョンの入口から広場までなら何とか照らせるわね」


「広場も幾つか壁を取っ払わないと、狭いし入口から広場までは曲がりくねってるしなあ」


「そうね。壁を取る分にはポイントはかからないわ。撤去は夜叉くんしかできないから頼むわね」


「おう」


 ダンジョンの構造をいじることが出来るのは、ダンジョンマスターたる俺だけだ。アイテムならユキでも作成可能なんだけどね。もちろん、俺もアイテム作成はできる。最近は全てユキに任せているけどねえ……


「でも夜叉くん、広場に何を作るの?」


「んー。今のところポイントもないから、広場にステージでも作っておこうかな。そこでパフォーマンスを行えば良いかもしれない」


「パフォーマンスね。いい案だと思うわよ。冒険者を二時間は中に留まらせるよう、工夫した方がいいわね」


「二時間……」


 あ、ユキの地雷を踏んでしまったようだ……また切れ長の目を半眼にして俺を睨みつけている。いや、知ってるって、俺だって……長い間、意識することがなかったから、少しだけ忘れていただけだってば。

 俺はユキに分かってますと態度で示すが、彼女の表情は変わらない……

 

「わ、分かってるってユキ! 冗談じゃないか」


 俺は慌てて彼女に手を振るが、ダメだ。まだ表情が変わらない……

 

「じゃあ。説明してみて、夜叉くん」


「お、おう……」


 俺は恐る恐るユキに冒険者とポイントについて説明を始める。

 ダンジョンに冒険者が入ると、一人につき一ポイント獲得できる。冒険者がダンジョンに二時間留まると更に一ポイント獲得、四時間留まるともう一ポイント……といった風に冒険者が長くダンジョンに留まればポイントが入ってくる。

 

「うん。忘れていたわけじゃないんだ。良かったわ」


 ユキは腕を組んでうんうんと頷く。彼女の動きに合わせて銀色のポニーテールも上下する。

 

「わ、忘れているわけじゃないじゃないかあ」


 やべえ。つい棒読みになってしまった。幸いユキに気が付かれておらず事無きを得たが……

 

「ステージで何をするのかは、これから考えるとして……ステージをどうやって作るかね」


「アイテムとポイント次第だけど……」


「そうね。低ポイントで作るなら……」


 ユキはノートを手に取り、ステージの候補となるアイテムを記載していく。どれどれ……


<ゆきちゃんのすてきなリスト> 

・コンパネステージ 一メートル四方 三ポイント

・つづら(九十九針入り) 一ポイント

 

「つづら……そして九十九針……」


 ダメだ。「つづら」はダメだ! 俺は宝箱の形に拘って来た。せめて宝箱だけは人気ダンジョンのような宝箱にしようと……つづらにしたら不人気イメージが更に先行してしまうじゃないか。

 

「夜叉くん。見れば分かるけど……つづらを選ぶわよ。つづらは一メートルかける五十センチで高さが四十センチある直方体だし、上に乗っても問題ないわ」


「ええ……」


「つづらは宝箱の一種だから、中身を取らない限り消えないし、コンパネステージより頑丈だから」


「わ、分かった……せめてペンキで色をつけようよ……」


「それはいいアイデアだわ! つづらは地味な色だし、ペンキの量は計算するからね」


 わーい……でもやっぱり「つづら」でステージを作るのね。作るっていっても、「つづら」を並べるだけだけどな。

 

「じゃあ、ユキ。ペンキの色は考えておいてくれないか? 俺は壁を取っ払ってくる!」


「分かったわ。つづらと光ゴケは広場で出すからね」


「了解! クロに光ゴケの設置を頼むか。じゃあ、また後で」


 俺が立ち上がると、ユキは俺の肩を掴むと再び座らせる。彼女はそのまま乗り出してきて、俺の耳元に口を近づけると俺の耳元で囁く。

 

「夜叉くん……一つお願いがあるの……」


 ユキが急にしおらしい態度になるものだから、俺が戸惑ってしまう。

 

「なんだろう?」


「えっと……えっと……これ……」


 ユキは顔を赤らめながらノートを差し出してくる。どれどれ……

 

<おやつがたべたいな……>

 と書かれた下にリストが書いてある。


<ゆきちゃんのすてきなリスト>

・氷飴 百個 一ポイント

・ドライフルーツ 苺 二十個 一ポイント

・すいか 二個 一ポイント


 ユキの書いたおやつリストが余りに微笑ましくなり、俺は口元が緩んでしまう。こんな時まで低ポイントをリストしてくるあたり彼女らしい。

 氷飴だと保管もできるし、ステージを見に来てくれた冒険者に配るのもいいかもしれないぞ。

 

「ユキの好きな物でいいよ。あと、氷飴は俺も一セット欲しいな」


「……うん」


 ユキは真っ赤になってうつむいてしまった。その姿が可愛くて俺は彼女の銀色の頭を撫でてから、ダンジョンの入口へ向かう。


※ユキちゃん可愛い。

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