第3話 四コマ漫画

 メモのサイズはある程度自由がきくんだけど、人間達が広告でよく使うサイズでいいか。A4サイズとか言われる大きさだ。


「一度見た人がもう一度見たいと思うようなのがいいな」


 俺が提案すると、二人は合点がいかない様子だった。

 四コマ漫画みたいな連載作品とかどうだ? 冒険者が来るたびに新らしい四コマ漫画が読める。

 これだけでリピーターになってくれるとは思わないけど、何もしないよりはマシだと思うんだよな。


 俺は二人に四コマ漫画を例にして、メモに書きたいことを説明する。


「なるほどねー。夜叉くん、いいアイデアだわ」

「我輩、よく分からないでござる」


 猫はまだ理解できてないみたいだけど、完成版を見せればきっと分かると思うから、今は放置しておくか。

 

「よし、まずはみんなで絵を描いてみようか」


 俺達は紙と鉛筆を準備して、それぞれ思い思いに絵を描いてみる。

 しかし……ダメだ。ユキもクロも絵心が無さすぎる! これじゃあ何を描いているか分からないな。


 俺が二人の絵を覗き込んでため息をつくと、ユキに俺が描いた絵を掴みあげられた。

 

「夜叉くん……これ、猫?」


「いや、クロを描いたつもりなんだけど……」


 俺とユキの会話を聞いて、クロがどれどれと俺の絵を見て来る。

 あ、うなだれて床に手をついてしまった。そんなに落ち込むことないだろ! こっちが落ち込むわ!

 

「ええと、絵は中止だ! これじゃあ描かない方がマシってことが分かった」


「ん、じゃあ、続きものの物語とかどうかな?」


 ユキ! それだよ。よおし。

 

――三十分経過……


 な、何も思いつかねえ。俺が物語を書くとか無理だろ。クロは頭を使い過ぎて倒れたからベッドに寝かせて来たし、期待のユキも手が止まって全く動いていない。


「ユキ……」


「夜叉くん、こうなったら算数の問題でも書くわ……」


「それは、やんない方がいいだろ!」


「うーん、物語を書く方程式が分からないわ……」


 いや、ユキ……物語と方程式は別物だからな。これはあかん。あかんでえ。俺達じゃあ無理だ。

 と、そこへ俺のジーパンを引っ張る誰かが。俺の今の恰好はせた青色のジーンズにTシャツというラフな格好なんだけど、Tシャツではなくジーパンを引っ張るとは、背の低い妖怪かな?

 

 俺が後ろを振り返ると、俺の腰ほどの身長もないおかっぱ頭の少年が立っていた。少年は蚊取り線香のマークが入ったえんじ色の甚平を身に着けていて、年齢は十に満たないくらいに見える。

 彼は座敷童で、戦闘の役には立たないけどダンジョンのメンテナンスや掃除に大活躍してくれている縁の下の力持ちだ。

 

「座敷童、どうした? カレーならそこにあるぞ」


 食事を食べに来たのかと思って、俺はカレーの位置を指で指し示すが、彼はフルフルと首を横に振る。

 ん? 座敷童は俺にメモを差し出して来た。

 

 何々……こ、これは! 四コマ漫画か!

 ええと、内容は妖怪たちが運営する温泉宿に人間のお客さんが訪れて、四苦八苦するコメディみたいだな。しかし……絵がうまい!

 

「ユキ……これを」


 俺は座敷童から受け取った四コマ漫画が描かれたメモをユキに手渡す。

 受け取ったユキは切れ長の目を見開き、驚きで表情が固まる。

 

「こ、これをあなたが?」


 ユキが座敷童に目をやると、彼は無言でうんうんと頷きを返す。

 

「座敷童、今後四コマ漫画の連載を頼んでもいいか?」


 俺は座敷童の頭をナデナデしながら彼に問うと、彼は笑顔で首を縦に振る。

 思わぬところで、漫画家が見つかってしまった! すごいぜ。座敷童。

 

 俺は座敷童に礼を言うと、ユキに頼んで彼から受け取った四コマ漫画を複製してもらう。とりあえず……百枚くらいでいいか。

 四コマ漫画の下部には、「ダンジョンでは、戦闘ではなく、みんなが楽しめるアトラクションを準備してます。お楽しみに」と宣伝も入れておいた。これで完璧だ!

 

「ユキ、ありがとう。宝箱をダンジョンの入口に置いてくるよ」


 俺はユキに礼を言って、四コマ漫画が描かれたA4サイズのメモを持ち、入口へ向かう。

 

 宝箱を肩に担いで入口に到着した時、バッタリと冒険者の二人組に会ってしまった! めったにダンジョンへ訪れない冒険者が、このタイミングで来るとは悪意を感じるよ……

 

 ダンジョンの外は登り階段になっており、冒険者達は階段を降りて俺のダンジョンの入口まで来る。ダンジョン内部は明かりも無く暗闇だけど、俺達妖怪は暗闇でも明るくても視界に変化はないので問題はない。

 しかし、冒険者達は人間だから暗いところだと何も見えない。入口までは日が差し込んでいるから、冒険者達はダンジョンの入口で明かりをつけるんだけど……最近は懐中電灯を使う場合が多いな。

 

 お金持ちの冒険者は特別なゴーグルを使うみたいだけど、そのゴーグルを使うと暗闇でも見えるらしい。

 

 話は逸れたが、俺は冒険者にバッタリと会ってしまった。宝箱を右肩に担ぎ、左手には四コマ漫画の描かれたA4サイズのメモを持ったまま……ちゃんとメモは百枚ある……

 

「や、やあ」


 てんぱった俺は気さくに冒険者の二人組へ声をかける。

 懐中電灯も持たずに、宝箱とメモを持つ俺は冒険者たちからしたら不審人物そのものだろうな……

 

「な、何者だ……」


 冒険者の二人組のうち背の高い方が戸惑った様子で俺に声を返す。もう一人は腰の剣に手をかけている。

 

「た、宝箱をここへ運んでたんだよ……それだけだ」


 いくらなんでもこのセリフは無いだろ俺! 

 

「そ、そうか。中身は取らないのか?」


「い、いや、中身……見るか?」


 俺は宝箱を床に置き、開く。

 俺に話かけた冒険者が懐中電灯を取り出して宝箱の中身を照らす。

 

「中身がないじゃないか……奇妙な宝箱だな」


「そ、そうなんだ。中身が無いのに消えない宝箱……中にはこれが入っていた」


 俺は背の高い方の冒険者へA4サイズのメモを一枚手渡す。

 彼はメモを受け取ると、メモに何が書かれているのかをすぐに読み始める。ここはまだ入り口だから、彼らでも懐中電灯を使わずとも読めるみたいだな。

 

「アトラクションの準備中ってどういうことだ……」


「このダンジョン、娯楽施設に改装するのかもしれないね」


 俺はいけしゃあしゃあと冒険者に言うが、内心ドキドキしている……

 

「そ、そうか。四コマ漫画は面白いな」


 冒険者はあっけにとられた様子で踵を返し、ダンジョンから出て行った……

 へ、平和的に終わったが、余りに突拍子もない出来事に遭遇したからそのまま帰ったに過ぎないだろうな……

 

 俺は冒険者達が見えなくなったことを確認すると、宝箱を階段の正面に設置しなおして、メモを宝箱の中に丁寧に置く。

 冒険者に会って一つ重大な事実に俺は気が付いてしまった。

 

 「人間は暗闇だと何も見えない」ということに……ダンジョンで楽しんでもらうためには明かりが必要だ。ポイントは足りるんだろうか……

 ユキに聞かないとだな。

 三階の居住スペースに戻った俺は待っていたユキに冒険者と会った出来事を伝えると、既に彼女は知っていたようで逆に俺が驚いた。


「ユキ、何で分かったんだ?」


「夜叉くん……冒険者が来るとポイントが増えるのよ……」


 ものすごく呆れた顔でユキが言い放つ。

 そ、そうだよな。ユキがダンジョンのポイントを管理していたんだった。


※うーん。迷走してるなあ。これは……ネタが……

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