第5話 体臭

 誘拐されこの部屋に監禁され数日が過ぎた。


 数日というのは時計もない部屋なので、実際何日経過したか分からないからである。

 たぶん四日目だ。三回寝たことで、単にそう思っているだけなのだが。


「誘拐犯から何の連絡もないが……外はどんな状況なんだろう……」

「……」


 そんなことを訊かれても響香には何も答えることができない。

 なんの情報もなく、閉鎖されたこの空間に閉じ込められている以上、外がどういう状況なのか考えることもできない。ただ両親は心配しているだろうな。とか、早く家に帰りたい。など、そんなことしか頭に浮かばない。


 何故なら、トイレこそもう何度も一緒に行って慣れてはきた(慣れるとはいえ、まだまだ恥ずかしい)が、ここに閉じ込められてからというものお風呂に入っていないのだ。

 年頃の女性にとって、毎日のお風呂は必須である。四日もお風呂に入らないなど気が狂いそうなほどだった。現に体臭もきつくなり、汗臭さがほんのりと香り始めている。

 もう限界である。


「クンクン……少し体臭がきつくなってきたな……」

「──!!」


 その言葉に響香はビクリと体を硬くする。

 ──臭い? 私が?

 そう思ったが、早合点だった。進一郎は自分の脇の辺りの匂いを嗅ぎそんなことを言う。


「頭も痒くなってきたし……なあ響香ちゃん。風呂に入らないか?」

「……」


 進一郎の言葉に響香は返事ができない。

 そうはいっても一五センチの鎖で繋がれている以上、一緒にお風呂場に行かなければならないのだ。そこで入浴し体を洗うなんて、到底考えられない。

 そう響香は思うのだった。


「大丈夫だよ。交代で入ろう。僕は絶対に見ないからさ。何だったら目隠しをしてもいい。というより小学五年生ぐらいの時は一緒に入ったじゃないか。そう変わらないだろ?」

「な! ぜ、全然違うよ! 小学生の頃と今を混同しないでよねっ!!」


 しかしお風呂の誘惑には勝てない。

 髪の毛も少しごわごわしてきているし、下着だって洗濯したかった。四日も同じ下着を穿いていたことなんてない。新記録である。



 響香は意を決しお風呂に入ることにするのだった。

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