0 少女

 少女は、両親が自分の結婚のことを喜ばないとわかっていた。

 案の定、パパは怒鳴り、ママは泣き叫んだ。

 どこの馬の骨かわからない中年の男を選んだといって、少女を二人してののしった。

 感情的になった両親は、ヒステリーを起こしたように、駄目だと繰り返すだけだった。

 男は冷静に説得した。少女を必ず幸せにすると誓った。

 けれど、両親はそのことが重要なわけではなかった。

 ただ一点。少女が自分たちの思う通りにならないことが不満のようだった。

「このあばずれが!」

 いきなり、パパが少女を殴った。

 ママはただ泣きわめくだけだった。

 男は少女を守ろうと、パパと少女のあいだに入った。

 パパが男を殴り始めた。挙げ句にうずくまった男を蹴り始め、男の頭に手近な鈍器を振り下ろそうとした。

「やめて、やめてぇ!」

 少女は必死で止めに入ろうとした。そこをママが羽交い締めにしてやめさせる。

「パパがあんたの将来を決めるんだ。こんな男のことなんか忘れちまいな」

「おまえはおれのいう通りにしてたらいいんだよ! こんなやつ殺しちまったほうがいい。そうすりゃ、ろくでもない親不孝なおまえにも、親の愛情ってもんがわかるだろ!」

 少女は両親の言葉にぞっとした。

 パパは床に這いつくばる男を蹴り続ける。

 このままだと男は本当に殺されてしまう、と錯覚した少女は、手元にあった灰皿をつかんだ。

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