0 少女

 男から逃げだした少女は、住み込みの仕事を始めた。安い賃金で重労働を強いられた。外国人労働者が大半を占めている。職場の責任者は労働者に対して非情だった。

 体力を失っていた少女は、数週間もしないうちに仕事中に倒れた。

 職場の人間たちは、気絶して破水した少女を何時間も打ち捨てていた。構っていることができないくらい忙しいのと、責任者すら少女を無視していたためだった。

 そのために少女の子供は死んだ。



 

 少女が目覚めると、そこは病院だった。どうやって病院に運ばれたか、全く記憶にない。

 少女は周囲に目をやった。

 ベッドの脇にひたむきな目で自分を見つめる男がいた。それは、少女を愛してくれている男だった。

 瞳に涙が溢れた。

「どうして、あたしがいる場所がわかったの?」

 少女は素直に訊ねてみた。

「常連の一人がおまえを見たと聞いて駆けつけたんだ」

 男は毎日少女を探していたらしい。酒場の客から、少女の行方を聞いて駆けつけた時には、既に遅かったという。危うく死にかけた少女を病院に連れていき、意識が戻るまでそばにいたのだ、と男は語った。

 それを聞いて、少女は逃げるのをやめようと思った。

 男の愛と向き合い、過去の自分から逃げるのをやめ、立ち向かおうと心に誓った。

 パパやママとのことも、自分なりに決着をつけたいと願った。

 そうでないと、少女はいつまで経っても、男のまえに堂々と立つことができない。対等になることができない。男の愛にこたえることができないのだ。

 少女の話を、男は静かに最後まで聞いた。

 支離滅裂になりがちな話だったが、男は少女の決意を汲んでくれた。

 だったら結婚を両親に知らせるために、少女の実家を訪れよう、と男は持ちかけた。

 幼い頃から自分を苛み続けた恐怖と、少女は立ち向かうことにしたのだった。

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