6 ジェルミ

 アーキシェルが身ごもった。懐妊の知らせは瞬く間に国中に知れ渡った。

 跡継ぎの誕生は、新しい王の誕生と同様に喜ばしいことであった。

 ジェルミが太陽の王となる日が間近に迫った。ジェルミとて誇らしくないはずはない。しかし、不安のほうが大きかった。

 太陽の王になれば、もはや妃とともに過ごすことはできない。太陽の塔に閉じ込められ、政務と国の繁栄を祈る身になる。

 味けない人生だと初めて思った。あれほど父王にあこがれたというのに。

 金色の仮面をかぶり、豪奢ごうしゃな服を着て、ひとびとにあがめられることを、あれほど望んだというのに。

 いまは、妃とともに静かに過ごしたいと願っている。

 激しい恋も身を焦がす愛もいらぬ。

 平凡で平坦へいたんな、何事もない穏やかな生活、妃の歌声、何もかもが、どんな宝よりもいとおしかった。

 アーキシェルも、浮かない顔つきをしている。何やら悲しんでいるようだった。

 妃の大きなおなかをジェルミは優しく撫でる。愛おしげに。別れがたい思いを載せて、撫で続けた。

 アーキシェル自身も太陽の王の風習はわかっている。わかった上で婚姻もしたが、もう二度とジェルミと愛を語れないことを思うと悲しいのか、最近は泣いてばかりだ。

 けれど、月は満ち、無情にも別れの時はやってくるのだ。

 陣痛が始まると、ジェルミは部屋を追いだされた。

 部屋の外で、ジェルミは心もとなく、赤子の誕生を待った。

 朝日が昇るとともに産声が上がった。

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