0 少女

 少女が少年のアパルトメントに転がり込んで、数か月がとうとしていた。

 少女と暮らすようになると、少年はつまらない理由で仕事を辞めた。すごい曲を作って、くだらない大人たちを見返してやる、と少年はうそぶいた。しかし、毎日、ギターを弾いているか、酒を飲んでいるかのどちらかだった。

 少女は、自分の収入だけでは生活できないことに気付いた。しかし、少年は理解してくれず、仕事の話になると不機嫌になった。

 業を煮やした少女は、強い語調で少年に頼んでみた。

「ねぇ、仕事してよ。あたしだけじゃ、稼ぎが足りないから」

 それを聞いた少年は、不機嫌そうな顔をして少女を無視すると、部屋をでていった。少年は一週間帰ってこなかった。

 少女は悔やんだ。仕事をしてくれなどと、二度といわないことにした。

 ふらりと帰ってきた少年は相変わらずだったが、少女が昼夜問わず働くことで、少年を養った。

 少年はでかけたきり、次第に帰らなくなってきた。

 少女とよくつるむ仲間たちは、少女が浮気されている、と告げてきた。

 少女はそんな言葉など聞こえないふりをした。

 ある時、二週間も連続で勤務が続いた。少女は夜中にへとへとになって帰ってきた。

 寝室に入ると、少年と見知らぬ女がベッドで絡み合っているのを、目の当たりにしてしまった。

「誰、そいつ!」

 少女は少年に詰め寄った。

「うるさいな、誰だっていいだろ」

 少年はうるさがり、少女の頬を打った。

 少年の傍らの女は、それをにやつきながら見ている。

「にやにやしてんじゃねぇ!」

 少女は頭にきて、女の髪をひっつかんだ。

「ばか! やめろ」

 少年は女をかばい、少女を足でった。

 少女は床に転んだ。少年の傍らにいるのが、既に少女ではないことを悟った。悔しさに目のまえが涙でにじむ。少女は少年と女をののしった。

 少年に裏切られ、少女は着の身着のままで少年の家をでていった。

 酒を買って夜通し飲み続け、泥のように酔っ払ったたいで、自分の家に帰った。

 鍵もかけずに自分の部屋で寝てしまった。

 その夜、パパがきた。

 少女は暴れたが、抵抗はむなしかった。

 朝になると、少女は、もう二度と帰るものか、と捨てぜりふをき、家を飛びだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る