0 少女

「おい、こっちにこい」

 夜がやってきて、パパという名前の怪物が、少女の寝室に入ってきた。

 少女は部屋の扉を開ける音で目を覚まし、パパから隠れるように部屋の隅に駆け寄り、ちぢこまる。

 パパは少女を暗闇の中に引きずり込んで、いやなことをする。

 誰かに助けを請いたいが誰もいない。ママは酒臭い息をして、ソファで眠りこけている。

 少女がどんなに泣いても助けてはくれない。

 しかも、泣いたらもっと痛い目に遭わされてしまう。だから、人形を必死に握り締めて、こらえるのだ。

 そうすれば、泥水のようにゆっくりとだが、いやなことは流れ去り、パパもいなくなる。

 パパがどこかへいなくなれば、やっと少女は解放される。

 パパにいやなことをされた夜は鏡の部屋にいき、物語を紡ぐ。二人の女の子と男の子の物語を……。

 少女にとって、彼らは次第に親しみのある人物になってきた。

 エトゥワールだって部屋にかぎをかけられれば、少女と同じいやな思いから逃げられるのに。

 ジェルミが弱虫なのは、いろんなことが怖くて仕方ないからだとか。

 少女もリュメールのように自由にどこかへいってしまえたら……。

 そんなことを何時間も夢見た。

 彼らとともにいるような安心した気持ちになって、少女は眠りに落ちた。

 突然——。

 ママの怒鳴る声で少女は目を覚ました。

 食器を洗ってないとか、掃除をしてない、洗濯をしてないといって、ママが怒っている。

 少女は飛び起きると、姿見の部屋から駆けだして、ママのところへいく。

 しかし、怒鳴られてしまうということは、間に合わなかった証拠だった。

 不機嫌になったママが機嫌を直すことはない。少女はさんざんたたかれたあと、涙を我慢しながら、いいつけられた仕事をこなしていった。

 少女は仕事をしつつ、空想にふけって、心を慰めた。

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