I リュメール

 太陽の国の北方に広がる闇の森には、闇の王の城がある。

 城は黒い石を積まれて作られたように見える。いびつなアリ塚のようなでこぼこした外観が、城の外壁に刻み込まれており、不気味な様相をていしている。

 黒水晶細工の城の内部には、暗い影がたくさんある。そこには目に見えない悪霊や醜い魔物がすみついている。

 リュメールと赤い髪のエトゥワールは、赤子の頃から城で暮らしている。

 二人を育てたのは目に見えない侍女たちや、小さな魔物。

 彼らを支配するのは闇の王だった。

 闇の王の名前は、オプスキュラという。

 リュメールとエトゥワールだけは、闇の王の名前を知っている。小さな魔物たちから教えてもらったのだ。

 オプスキュラは、魔物たちの言葉を借りるならば、闇そのもの。歩くあとから泥のような闇がこぼれる。肌は漆黒、その顔も仮面に隠れ、拝むことすらできず、汚くいやしい魔物たちを足蹴あしげにする。

 そんな恐ろしく乱暴なオプスキュラが、エトゥワールの将来の夫なのだった。

 

 太陽が昇ると、闇の城は寝静まる。エトゥワールも、寝台にまるまって寝入ってしまう。リュメールはかごの中でおとなしくしている。小鳥でいる昼間は、エトゥワールのそばにいる。

 夜になって、ひとの姿に変身したリュメールは、籠から抜けだすと、城内の回廊や部屋を通り、庭へ飛びでた。

 こずえから漏れる月明かりが、灰色に沈む庭に差し込んでくる。それは白い炎のように地面から揺らめき立つ。

 リュメールはその白い光を踏みしだいて飛び跳ねた。少女は芝生の上に寝転がる。

 寝転がって辺りを見回すと、白い石の乙女たちが、リュメールを心配そうに見下ろしているように感じる。

 闇の城の庭には白い石でできた噴水と、アラバスタ細工の美しい乙女たちの像が飾られている。像の瞳に感情はないが、もとは生きていたのだということがうかがえる。

 なぜそんな像が飾られているのか、リュメールは知らない。恐らくエトゥワールも知らないだろう。生まれた時からここにあり、これからもここにたたずみ続ける魂のない像。

 なぜ乙女たちが生気をなくして、硬い石となり果てたのか、リュメールにはわからなかった。

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