第23話
手のひらがごわりとした麻布をつかんでいた。
いつのまにか眠っていたのだ。
シェングは体を起こした。
竜の夢だった。今、この心にわだかまる煩悶すら馬鹿馬鹿しく思えるほどの悠久。
この苦しみが、他愛もないものに感じていた。
シェングは夢の余韻を懐かしむように笑った。目など覚めなければよかったのに……
隣に目をやるとカイヨウはいなかった。
まだ太陽が辺りを照らしている。
空気がかすかな生臭い匂いを含んでいる。
彼女は立って、船室の小窓を上げて、外を眺めた。
内陸で生まれ育ち、海を見たことがなかった。
川の流れが黄土の水をしぶかせ、すそを広げている。
幾隻もの船が帆を広げ、順風満帆、悠々と川上へ川下へと滑っていく。あざやかな朱塗りの船や箱がたの屋形を重ねた船、船首に鳥の意匠をこらした船。
彼女は我を忘れてその光景に見とれていた。
「起きてたのか」
カイヨウの声に彼女はすばやく振り向いた。
かれの顔を見ると、自然に唇はキュッとつり、微笑みを作り上げた。
かれは満足した様子で寝台に乱れる彼女の服を取り、自分の手で着せてやった。にこやかな顔で、彼女の襟元をただすと、そっと耳たぶに口を寄せた。
「もうすぐ海だよ」
優しく彼女の肩を抱き寄せ、甲板へ連れていき、かれは思い切り潮の薫りを吸い込んだ。
「海だ」
指さす先に、船室の小窓からはよく見えなかった、黄色く濁った水平線が見えた。
水のへりが徐々に盛り上がり、小島をも飲み込み、空へと果てしなく広がっている。
潮を含む海の風はベタベタと湿っていた。
「ここまで上がってこれる内海船は小さいほうなんだよ。私のは、ほら、右手の入り江に泊めてある。あの東洋風の外海船がそうだ」
かれはすべてを手にしたとでも云うように、相好を崩して彼女を抱き寄せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます