第10話
シェングは目を覚ました。
清潔で気持ちのいいワラのうえに自分は寝ていた。
ゆうべ、納屋にいってそのまま眠ってしまったのだろうか。
肌寒い。何も着ていなかった。
体のあちこちが痛む。
何か忘れていることがあるのではないか。彼女はかたわらにいるはずの自分の息子をさがす。
ガバと身を起こし、あまりのことに思考が止まった。
狭い小屋の中にいた。粗雑な檻とも云えるような作りだった。
唇が切れ、ヒリヒリと痛む。ももの内側に鈍痛が走る。
愕然として、彼女は夢だと思っていたあの事柄を思い出した。悲鳴のような嗚咽がのどから盛り上がってくる。
死んでしまったほうがマシだった。
一体自分が何をしたと云うのか。死ぬはずの甥を養っていたためなのか。姉が身ごもったせいなのか。白痴の皇帝が生きたまま埋葬されたせいなのか。
彼女は声を押し殺して泣いた。
「どうした? 泣いてるのか?」
男の声がした。
彼女は顔を上げる。
「狼人間のつがいってのは、おまえか?」
小屋のすみの引き戸が開き、侏儒の男が覗き込んだ。
「おまえも狼女なのか?」
彼女は憤激して叫んだ。
「ち・ち・ち……!」
彼女はあわてて口を押さえる。言葉が出て来ない。
「ち・ち・ち……」
侏儒は軽蔑の目で彼女をねめると、ピシャリと引き戸を閉めた。
「あああ……」
彼女は何度ものどを引き絞り、たった一言「ちがう」と云おうとした。
しかし、彼女から言葉は失われていた。
しまいには小屋の薄い板張りが蹴りつけられ、どやされた。
彼女は当惑しながら、自分の体を見る。
母乳で膨れた乳房に生々しい歯型がついていた。
本当なら今頃、彼女の小さな息子が口に含んでいるはずだった乳房……!
彼女は気も狂わんばかりに叫んでいた。
「うるせぇぞっ!」
小屋がかしぐほど板張りが激しく蹴りつけられた。
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