第3話 登校

駅のホームでよく聞こえる「駆け込み乗車はご遠慮下さい」なんて、守ってられるほどの余裕なんてなかった。


ずっと走りっぱなしで、少しでも足を止めていたら、きっと電車は待ってくれていなかっただろう。乱れている呼吸を無理に整えようとすると同時に、ドア付近の少し寄りかかれる隅っこに体を預けた。休日以外に電車を使う機会なんてほとんど無かったから、こんなに静かな冷たい空間で、私の荒い息だけが響いているような気がして、恥ずかしくなった。母に、無事に電車に乗れたという連絡をした後、ケータイに入れてあるゲームをして気分を紛らわそうとしていた。


目的の駅に着く頃には呼吸も整って、乗車している高校生のほとんどが、叶望学校の制服を着ている人達で溢れていた。ほとんどの女子生徒はスカートを折っていたけど、真新しい制服を身にまとっていた一部の生徒達は、教科書通りの様な真面目な服装をしていた。多分私と同じ1年生かな、とか考えながら何となく見回していたら、目的の駅まで着いた。


人の流れに乗って、歩いていく。この駅を降りたら、学校まで乗せてくれるバスに乗る。バス前には横断歩道があって、そこを越えたらバスへと乗れる。

横断歩道の信号が赤になっていて立ち止まっていたら、数ヶ月前の受験のことを思い出した。

(懐かしいな…なんていう月日も経ってないけど。受験の日、この道で転んじゃって、周りの人からは哀れんだ目で見られて、点滅していた信号は赤になって、目の前でバスが行っちゃって、次のバスに乗ったは言いものの受験の時間ギリギリに会場に着いてって………散々な目にあったって絶望したんだっけ)

今だからこそ笑い話になるけれど、当時の必死さも思い出してクスッと笑ったら、信号は青へと変わっていた。


待ち時間もなく、すんなりバスに乗ると、ここに来て初めて座れた感動と自分の足を労りつつ、イヤホンを装着した。

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普通って何だっけ? 影瑠(えいる) @ri-pauda-

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