#98  くらやみ

「ケパブではありません。『ぺぱぷ』です」

「ぺ、ぺぱぷ…?」

「ペンギンズ・パフォーマンス・プロジェクト……略して『ぺぱぷ』なのです。英語で『PPP』と書きます」

 

 非常に読みにくく、分かりにくい名前である。

 ペパプ…。ペンギンズ、ということは、ペンギンのフレンズがやっているアイドルなのだろうか?

 

「メンバーは、ロイヤルペンギン、コウテイペンギン、ジェンツーペンギン、イワトビペンギン、フンボルトペンギンの5人です。それと、マーゲイというネコ科のフレンズが、マネージャーを担当しています」

 

 ペンギンは聞いたことのある名前がほとんどだったが、マーゲイという動物は初めて聞いた。

 ネコ科のフレンズか…。そう言えば、ネコ系のフレンズにも会ったことがないな…。

 そもそも、鳥以外のフレンズに会う機会がほとんどないのだが。

 あ、この前会ったフェネック?さんは、ネコ科だったのかな…?

 

 ともかく、ペンギンのフレンズもマーゲイのフレンズも、どんな姿をしているのか全く想像がつかない。

 会った時のお楽しみ、ということにしておこうか。

 

 …と、思っていたら、博士が棚の上から写真立てを持ってきた。

 

「白と黒の服を着たこの5人が、PPPなのです。そして、この黄色い服のフレンズがマーゲイですね。残りの3人は、かつてこのログハウスを使っていたホートクのガイド達です」

 

 私とアキちゃんが、写真立てを覗き込む。

 そこには確かに、ペンギンのような配色がなされた服を着たフレンズが5人、楽しそうにピースをしていた。

 そして、端にいるマーゲイさんは、のぼせたような表情で鼻血を出していた。PPPが大好きなのだろう。

 ガイドの帽子を被ったヒトは3人とも女性だった。とても元気そうに笑っているが、アスカの姿はない。

 

 なるほど、ペンギンのフレンズはこんな格好をしているのか…。

 

「フーカが演劇メンバーと話し合いをしていた時に、マーゲイが広場にやって来たのです。フェスティバルでライブをやらせてほしいと頼まれ、受け入れたのですが…」

 

「あっ、そうだったんだ。どんな問題があるの?」

 

「PPPが出ると聞いて、歌とダンスを披露するメンバー達がやる気をなくしているようなのです」

 

 やる気を、なくす…?

 

「何で?」

 

「先程も言いましたが、PPPはパーク1のアイドルユニットです。ヒトがいた頃も、いない今も、絶大な人気を誇っています。歌、ダンス、トーク……全てのパフォーマンスにおいて、どのフレンズも勝てないものを持っています。そのPPPが出るとなると、自分達のパフォーマンスはただの前座になってしまう…そう思って落ち込んでいるのでしょう。もちろん、彼女達がPPPを歓迎していない訳ではないでしょうが」

 

 なるほど…。

 PPPというアイドルは、そんなに凄いのか。

 1度ライブを見てみたいものだが、これもフェスティバルまでのお楽しみにしておこう。

 

 私的には、本物のアイドルが来ようが何だろうが、自分達のやりたいことを精一杯やるべきだと思うが、彼女達の気持ちも分からなくはない。

 

 とにかく、博士に頼まれたからには断れない。

 まずは、ローテンションになっているであろうメンバー達の様子を見て判断しよう。励ませば何とかなる問題でもなさそうだが、どうにかするしかない。

 

 メンバー達は、広場から少し離れた場所で練習をしているそうだ。

 今回は、アキちゃんも同行してくれることになった。レースの準備が一段落したので、たまには私に同行したいのだという。

 

 

「今日はゆっくり休んで、明日からまた動き出しましょう。お疲れ様でした」

 

 寝室はその部屋です、と、ハカセが指差したのは、先程アキちゃんが出てきた部屋のドアだった。

 

 寝室には、大きな三段ベットがあった。写真に写っていたガイド達は、ここで寝泊まりをしながら働いていたのだろう。

 個性的なフレンズを相手にしたり、客のために険しい地形の中を動き回ったりと、大変だったんだろうなぁ…、と思いつつも、一番下の段の布団に潜る。

 

 アキちゃんは、レースの準備で疲れていたので、ここへ来るなりしばらく寝ていたのだという。三段目を使っていたようだが、眠気が覚めてしまったので、博士としばらく起きていると言っていた。

 

 私は心身共によろよろなので、先に寝かせてもらおう。

 

 私はすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 真夜中の広場は、人気がない。

 

 フレンズ達の声が響き合う昼間が嘘だったかのように、しんと静まり返っている。

 

 

 誰もいない──はずだった。

 


「こんばんは。お久しぶりですね」

 

 

 突然、ステージ前でフレンズの声がした。

 

「約束通り、来てあげましたよ?」

 

 声の主──リョコウバトは、ステージの壇上に向かって笑顔で話しかけている。

 

 壇上には、すでに1人のフレンズが立っていた。

 

 

「そんなに私を見下さないでくださいよー…。怖いですから」

 

「…何でフレンズの姿で来るの?」

 

 壇上にいるフレンズは、腕を組みながらリョコウバトを睨んだ。

 

「何でって…。何となくですよ。私には、『元の姿』というものがありませんから」

 

 睨まれているにも関わらず、リョコウバトはにっこりと愛想よく笑った。

 

「だってそうでしょう? まぁ、今はこのフレンズの姿でいることが多いですが…」

 

「スザクが間違えて封印したのは、リョコウバトだったのね」

 

「おっと、口が滑ってしまいました。まぁ、色々とあったんですよ、面倒なことが…。一番面倒なのは、今現在ですけどね。やりもしないお祭り騒ぎの準備を、嫌々やってあげているんですから」

 

「……………」

 

「あ、それよりも、私達が今話すべきなのは、フェスティバルの後の事についてですよね? フェスティバルを潰すのはいとも簡単です。問題は、ヒトがサンドスターを除去しにやってくるのを、いかに阻止するか…。ふふっ、まさか、私と手を組もうと言ってくるフレンズがいるとは思っていませんでした。物好きなフレンズもいるのですね」

 

「先に言っておくけれど、あなたと私は、やることは同じでも、考えている事は全く違うの。私は、パークのみんなを守りたいと思って話しているわ。あなたは違うでしょう?」

 

「そうですね…。確かに、考え方は違う…。──いや、一つだけ共通している考えがあるのでは?」

 

「………」

 

 

「ヒトの存在を嫌っている、ということですよ」

 

 

 

 リョコウバトは、またにっこりと笑った。



 ステージに立つフレンズの足輪が、月の光に照らされて銀色に光っていた。

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