#84  たんさく

「ほんとに良い景色! やっぱりゴコクにして良かったですね!」 

 浜辺で心地よい風を受けながら、ミライが歓喜の声を上げた。

「ですねー! 最近ここにも来れてなかったし!」

 隣にいたアスカが、風に揺られるくせっ毛を抑えながら答える。

「ラッキービーストのお陰で、久しぶりに話せたフレンズさんもいましたし。動物の生態どころか、どこにどのフレンズさんがいるのかまで完璧にデータが入ってるなんて、凄いです!」

 ミライは、足元にいるボスの頭をなでた。

「これならお客さんにも提供できそうですね!」

「そうですね、問題もないし──」

 アスカがそう言いかけたところで、二人の無線が突然、ビーッビーッと音を出した。

「えっ?!」

「な、何でしょう!?」

 無線機からは、男性の冷静な声がした。『こちら、危機管理センター。ゴコクで謎のセルリアンが発生。ゴコクで謎のセルリアンが発生。付近で異常事態が発生しているスタッフは、その状況を直ちに送ってください。また、複数の客が混乱状態にあるため、付近のスタッフは対応をお願いします。詳細が分かり次第、また伝えます。以上』

「せ、セルリアン…?」

「謎って…」

 顔を見合わせて首を傾げる二人の元に、一人のフレンズが上空から飛んできた。

 

「ガイドさーん!!」


「…あら?」

 ミライが顔を上げる。続いて、アスカもそのフレンズを見上げた。

「あれ、カワラバト? もしかして、セルリアンの件…?」

「そう! さっきまでホートクにいたんだけど、急いでここに来たんだ」

 突然やってきたフレンズ──カワラバトは、息を切らしながらアスカの隣に着陸した。

「カワラバトさんじゃないですか!」

 ミライは、少し明るい表情でカワラバトを見る。

「ホートクで何かあったの?」

 アスカの問いに、カワラバトは息を整えてから訳を話した。

「さっきゴコクで出たセルリアン、色んなフレンズに化けられるセルリアンらしいんだ」

「ば、化ける?!」

 アスカとミライは、声を合わせて驚愕した。

「そ、そんなセルリアン、今まで見たことあります…?」

「いや、見たことも聞いたことも…。」

 動揺する二人に、カワラバトは話を続ける。

「そのセルリアンをジャガーが捕まえようとしたみたいなんだけど、あと一歩のところで鳥のフレンズに化けて、そのまま空を飛んでホートクに向かって逃げていったらしいんだ」

 カワラバトの話を聞いた二人は、首を傾げた。

「ホートクに向かって…!?」

「セルリアンって、そんなに簡単に逃げ出しませんよね? むしろ、サンドスター欲しさにフレンズに襲いかかるんじゃ…。」

「ですよね…? そのセルリアン、言葉とかは話せるの?」

「そこまでは分からないなー…。私もその場面は見てなくて、ホートクにセルリアンが来て騒ぎになった時に、飛ぶのが速い私がアスカを呼んでくることになっただけだから…」

「あ、そういうこと…」

「アスカさん、ゴコク旅の続きはまた今度にして、ここはホートクに向かってください。私も、ボスを戻してからキョウシュウに向かいますので!」

 ミライの言葉に、アスカは強く頷いた。

「そうですね…また今度!」

 

 

 

 

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ??!」

 カワラバトに抱えられながら、アスカは悲鳴を上げた。

「ちょっ、速い! 速すぎ!!」

 カワラバトは、とぼけた声を出す。

「そう? 確かに、いつもよりちょっと速めに飛んでるかも」

「ちょっとどころじゃないでしょー!! 殺す気か!!」

「そうかなぁー?」

 さすが、水平飛行トップクラスの速さを持つ鳥…。アスカはその後も叫び続けながら、ホートクへ向かった。

 とてつもなく速い飛行のお陰で、アスカはすぐにホートクへ向かうことができた。

 降り立ったのは、客の立ち入りが禁止されている区域内。フレンズが一般の客を抱えて飛ぶことは禁止されているため、ここに着陸することが原則とされていた。

「どこに向かって逃げたの?」

「ひかり山の方に向かったらしいよ。ただ、今どこにいるかは分からないし…」

「だよね…。とりあえず、そのセルリアンを見たヒトに話を聞いた方が早いか」

「私もそう思うな。近くの浜辺に、セルリアンを見た子が残ってるかも……そこまで案内するよ」

「ありがと! 助かる!」

 アスカはカワラバトに続いた。

 フェンスを乗り越え、一般客ゾーンに入る。

 浜辺に行くと、数十人の客とフレンズが野次馬となって集まっていた。

「ガイドです! セルリアンを見たお客様がいらっしゃいましたら、挙手をお願いします!」

 人混みに向かって叫ぶアスカに、数人の客とフレンズが手を上げた。

「順番にお話を聞かせていただきたいです。…まずは、お客様から」

 アスカに指名されたのは、3人の家族連れだった。

「あ、はい。売店に行くためにここを通っていたら、同じ姿のフレンズさんが二人飛んできたので驚いて…。あ、あのフレンズさんです」

 父親らしき男性が指差した先には、不安気な表情をしたフレンズがいた。

「…パフィン?」

「そうでーす! ゴコクの新作じゃぱりまんを全種類食べたのでホートクに帰ろうと飛んでいたら、突然目の前にもう一人のパフィンちゃんが現れたんでーす! パフィンちゃんビックリして、もう一人のパフィンちゃんをここまで追いかけてきましたー!」

 名指しをされたパフィンは、口の周りに食べかすを付けたまま経緯を説明した。

「そ、そのセルリアン、どんな様子だった!?」

 アスカはパフィンに近づき、質問を投げかける。

「えーっとですねー…。ものすごく怯えていて、見ていて悲しいくらいでしたー…」

「…怯えてた?」

「はい……ジャガーさんが『そいつはセルリアンだ! 追いかけろー!』って言ったので必死に追いかけましたが、何だか追いかけるのも申し訳なかったでーす…」

 アスカは眉をひそめた。

「それ、本当にセルリアンなのか…?」

「パフィンちゃんは、どう考えてもセルリアンではないと思いまーす! 石もなかったですし」

「うーん…」

 アスカとパフィンの会話が落ち着いたところで、アスカは残りの目撃者にも聞き込みをした。

 しかし、どの客も先程の男性と同じく、瓜二つのフレンズを見て驚き、ここに残ったようだった。

 そのセルリアンは、やはりひでり山の方へ向かったらしい。

 今からひでり山に行くか、ゴコクに戻って聞き込みをするか…。

 アスカは迷ったが、ホートクチホーの管轄者である以上、ここの安全確保を最優先させるべきだと踏んだ。

 ただ、そのセルリアンが色々なフレンズの姿に化けられるとしたら、パフィンとは別のフレンズになってパークに溶け込んでいる可能性もある。となると、見つけ出すのはかなり困難だ。

 そもそも、姿を変えるセルリアンなどいるのか。謎があまりにも多すぎる。

「…情報提供、ありがとうございました。ここから先は我々スタッフが対応します。何か異常事態があった場合は、すぐに本部までご連絡ください」

 野次馬をばらけさせ、現状を危機管理センターに伝えてから、アスカはまた思考に浸った。

 その場に残ったフレンズ達が、口々とアスカに不安の声をぶつける。

「あれはセルリアンじゃないと思うよー?」

「でも、パフィンちゃんに化けるなんておかしくないですか?」

「石がないセルリアンとかいないのか?」

「そう言えば昔、タイリクオオカミさんに『ドッペルゲンガー』っていう子の話を聞かせてもらったけど…それじゃない?」

「何それ、こわーい!」

「うーん…」

 フレンズ達の質問をよそに、ひたすら頭を回転させる。

 何か良い手はないか…

 良い手…

 

「…あ!!」

 

 思いついた。

 アスカは、手をぽんと叩く。

「この手があった…!」

 すかさず無線機を手に取り、通信を行った。

「こちらアスカです。ミライさん、提案があります。どうぞ」

 返答はすぐに来た。

『こちらミライです。何でしょう?』

「今、どこにいますか?」

『まだゴコクにいます! 混乱したお客様の対応と聞き込みで、まだキョウシュウには行けそうにありません』

「了解しました。こちらは落ち着いているので、大丈夫です。その、提案というのが…」

『はい、何でしょう?』

 ミライの焦りの混ざった声が聞こえる。

 アスカは息を飲んでから答えた。

 

「ラッキービーストに、あるフレンズの居場所を調べてほしいんです」

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