#55  かざん

 ヤイロチョウ。

 日本には夏に渡ってくる渡り鳥で、色取り取りの羽がとても美しい。

 高木からなる常緑広葉樹林に生息し、日光が遮られ下生えが発達しない環境を好む。動物食で、ミミズ、昆虫、甲殻類などを食べる。

 

 …と、フレンズ達に説明してやったのだが、ところどころ出てくる難しい単語が理解できなかったようで、ヤタガラスさんを含めた全員が首を傾げた。

 とりあえず、アキちゃんの本当の名前が分かったので、図書館に来てやるべきことは一つクリアした。だが、彼女の名前はアキちゃんで定着してしまっているため、呼び名は変えないことになった。アキちゃんも、それを強く希望していた。

 

 さて、私達は二つ目の議題に入る。

 ウグイスさんが、スザクさんを呼びたい理由を改めて説明した。

 議題が変わった途端、ハシブトガラスさんの機嫌は更に悪くなり、私にまでツンツンした態度を取るようになった。

 私達にヤタガラスさんを利用されるのが、そんなに嫌なのだろうか?

 

「私がスザクの元へ同行するのは一向に構わない。だが、一つ約束してほしいことがある」

 

 ウグイスさんの話を聞き終えると、ヤタガラスさんは真剣な顔で私達を見た。

 

「はっきり言って、スザクが花火を使わせてくれる確率はかなり低い。それに、奴が何のために花火を持っているのかも分からない。何か危険なことが起きそうであれば、すぐに中断する覚悟も持っておいてほしい」

 

 私達は、深く頷いた。

 スザクさんが強い、ということは、何度も聞かされてきた。

 それに私は、ボスが流した映像で、彼女の炎を見ている。

 

「ならば、スザクのいる火山まで案内しよう。あそこはかなり熱い。すぐに話をつけよう。それとハシブトガラス、お前は図書館の管理を続けてくれないか?」


 館外へ出るなり、ヤタガラスさんが振り返ってハシブトガラスさんに聞く。ハシブトガラスさんは軽く頷き、

「分かりました。」

 と、平然と答えた。

 

 スザクさんのいる山は、サンドスターが噴火している火山…ではなく、ホートクのはるか南にある、マグマが噴火する灼熱の火山だった。

 まさかこの地方にこんな場所があるとは…私はしばらく、呆然としていた。

 

「た、確かに熱いですな…」

 私を抱えながら、ウグイスさんがぼそっと呟いた。

「大丈夫?! もしあれだったら、私を降ろしても…」

「いえ、ご心配なさらずに。ここまで来て、フーカ様を降ろすだなんてことは致しません」

「あ、ありがとう…」

 

 まるで海外の活火山に来ているような気分だ。

 岩のすき間から出た煙が、空気をお構い無く蒸らす。その蒸気が、私達の体温を一気に上げた。

 

 熱い。

 

「あそこが山頂だ」

 

 先導していたヤタガラスさんが、火山の頂上に置かれた大きな岩を指さした。あそこに、スザクさんがいるのだろうか?

 

 岩の前に降り立ち、私はウグイスさんに礼を言ってから、額に張り付いた汗を服の袖で拭った。

 

「スザク! いるか?」

 岩に向かって、ヤタガラスさんが声を張り上げる。

「お前に頼み事があって来た!」

 

 しかし、返事はなく、他のフレンズの姿も見当たらない。

 時間が経つにつれて、緊張感が高まった。


「も、もしかして、無視…?」

「いや、どこかに出掛けてるって可能性も…」

「スザクは、ここから出ることは滅多にない。絶対にいるはずだ」

「なら、何で出てこないのでしょう…?」

 

 ヤタガラスさんはしばらく岩を眺めてから、呟くように答えた。

「もう少し、待ってみることにしよう」

 

 

 

 

 

 

 十五分は経っただろうか。

 私達は根気強く、スザクさんが現れるのを待っていた。

 しかし、彼女は一向に現れず、時間が経てば経つほど、蒸気の熱さが私達の体力を容赦なく削っていく。

 

「…スザクさん、本当にどこかに出掛けてるんじゃ…? 今日は諦めて、また明日来れば…」

「いえ、私は待ちます」

 私の言葉を、ウグイスさんがすぱっと遮った。

「もし断られたとしても、私はスザクさんに頼みたいのです」

 

 ウグイスさんの決心は固いようだった。アキちゃんもまだ諦めモードには入っていないようで、大きく頷く。

 四人の中で唯一余裕そうな顔ぶりのヤタガラスさんも、

「きっと、そろそろ現れるはずだ」

 と、頷いた。

 三人の根性に、私は帰るという選択肢を失った。もう、服が汗でびしょびしょになりそうなのに…。

 人間は、実に弱い生き物であるということを実感する。

 帰ったら、アリツカゲラさんのログハウスでシャワーを浴びさせてもらお…


 

「甘いことを言うでない!」

 


 突然、背後から聞き慣れない声がした。

 私達は、驚いて一斉に振り返る。

 

 燃え上がる炎のように赤い尾羽を持ったフレンズが、眉を吊り上げて立っていた。

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