#56  すざく

「スザク、やっと現れたか」

 ヤタガラスさんが、小さな溜め息をついた。


「ふん。どうでもよい頼み事であるなら、すぐに帰るだろうと思ったのじゃ。しばらく待ってみたが、そこまで我を必要とすることがあるのか?」

 

 やはり、スザクさんは私達を試していたらしい。

 博士の言う通り、そう簡単に力を貸してはくれなさそうだ。ヤタガラスさんを頼るしかない。

 スザクさんは、目線をヤタガラスさんから私に移した。

 

「そのヒトを人間界に戻す方法などは、知らんぞ」

 

 えっ?

 もしかして、スザクさんは私の存在を知っていた…?

 

「? 何だスザク、フーカのことを知っているのか?」

 ヤタガラスさんが、私の疑問を代弁するかのように聞く。

「知らぬ。たった今、初めて見た。だが、彼女がヒトであることくらいは分かる。アスカにそっくりだが、違うヒトのようじゃな」

 スザクさんは、何もかも知り尽くしたような目で私を見ている。本当に、何も知らないのだろうか?

 

「きょ…今日ここに来たのは、私が頼み事があるからです!」

 ウグイスさんが、声を震わせた。かなり緊張しているようだ。

 スザクさんは、ウグイスさんを見下すように見る。

「ほう。何だ、言ってみよ」

 ウグイスさんは一息置いてから、静かに答えた。


「…花火を、上げさせてもらえませんか?」

 

 瞬間、スザクさんの額に皺がよった。

「…花火、じゃと?」

 覚悟を決めたようで、ウグイスさんは話を続ける。

「はい。今度、このチホーでフェスティバルを行おうと思っております。その際に、花火を上げたいのです」

「それで、ここまで来たのか?」

「そうです」

「……………」

 スザクさんは、しばらく何かを考え込んでいる様子だった。私の方をちらちら見てくるように感じたのは、気のせいだろうか?

 

「…確かに、我は花火を持っている」

「ほ、本当ですか?」

「だが、きちんとした目的があって持っているのじゃ。そんな、遊びに使われるようなものではない」

 スザクさんの言葉に、ウグイスさんは一瞬俯いたが、また顔を上げる。

「どんな目的ですか?」


 ウグイスさんが問いかけたはずなのに、スザクさんは私の方へ近づいてから、両手を腰に当ててかがみ、私を下から見ながら答えた。

 

「フウカと言ったか。おぬし、我ら四神の役割を知っているか?」

「え、いや、えっと、パークを、守る、的な…?」

 私はスザクさんの顔と少し距離を置いてから答えた。

 動揺する私に対し、スザクさんは平然とした顔ぶりで、「まぁ、間違ってはいないな」と返した。

「四神は、パークに重大な危機が訪れたその時に、フレンズとパーク自体を守護するべくその危機に対処する。賢いヒトなら分かるであろう? 我が花火を何に使っているのか」

「へっ…?」

 突然訳の分からない質問をぶつけられ、私の焦りは倍増した。頭の中が真っ白になる。

 正直に言います、さっぱりです…だなんて調子のこいたことを言ったら、祟られる気がする。だが、本当に分からない。

 私がしばらく目線を泳がせ、考え(たフリをし)ていると、スザクさんは引きつった表情を少しだけ緩め、

 

「アスカは、何て答えたと思うか?」

 

 と聞いてきた。

 

 スザクさんは、不敵な笑みを浮かべていた。

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