#53 こーひー
図書館の中心にたる、本棚に囲まれた小さなテーブル。
ずずず…と、コーヒーをすする音が小さく響いた。
カップを口から遠ざけて、ヤタガラスさんはほっと溜め息をつく。
「なるほど、『さとう』を入れると甘くなるのか…」
初めて知る味に満足げなヤタガラスさんとは裏腹に、ハシブトガラスさんはさっきから慌てている様子だった。
「ヤタガラス様、『さとう』は体に良くないとアスカさんが…」
「アスカは今いないのだろう? それに、そこにいる彼女が許可しているのだから問題ない」
「ヤタガラス様がそんな勢いで頼んだら、誰も断れないですよ…」
「まぁ、気にするな。それにしてもお前、本当にアスカと瓜二つだな」
ヤタガラスさんが、ハシブトガラスさんの気遣いを棒に回して私に話しかけた。
私たちの背後に突然現れたカラスコンビは、私のことをアスカと勘違いしたようで、すぐに館内へ入れてくれた。ハシブトガラスさんはウグイスさんとアキちゃんは入れるべきではないと言ったが、ヤタガラスさんが「アスカの連れなのだから受け入れるべきだ」と言った瞬間から、黙り込んでしまった。
その後、私がアスカではないことを説明し、納得してもらえたと思いきや、突然、コーヒーを入れてくれと頼まれたのだ。
「アスカのことは、何も知らないのか?」
ヤタガラスさんはそう聞いてから、またコーヒーをすすった。ジャパリまん以外のものを飲食するフレンズは初めて見たので、新鮮さを感じる。アスカがコーヒー好きだったらしく、二人にも淹れ方を教えてくれたらしい。
「うーん、今のところは何も…」
私は曖昧な答えを返す。
ハシブトガラスさんがあまりにも丁寧にヤタガラスさんと話すので、私も一緒になって敬語を使うべきなのだろうか。
「それで、スザクに会いに行きたいのだな?」
「あ、はい。聞いてるかもしれないですが、一ヶ月後にホートク地方でフェスティバルを開こうと思っていて……それで、ウグイスさんが花火を上げたいと言ったので、花火のルーツを知ってるスザクさんに会いに行きたいなと」
「なるほど、花火か…」
ヤタガラスさんはしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「スザクは、私と違って全く人前に姿を現さないフレンズだ。それでも、パークに何か緊急事態があれば、フレンズの前に出て来る。ただ、奴はヒトのことをあまり信用していないようだったぞ」
「えっ? じゃあ、アスカも…?」
どこかで「スザクはアスカを気に入っていた」と聞いた覚えがあるのだが、気のせいだろうか?
「いや。アスカだけは違った。前にイベントがあった時は、アスカの後ろをのこのこと歩いていた。あれは不思議だったな…私にも理由は分からぬが」
やっぱり、と私は頷く。
「頼まれたからには、私もできるだけ力を貸したいところだが…」
「えっ、本当ですか?」
「あぁ。だが、その前に一つ、聞いておきたいことがある」
「? 何でしょう…?」
ヤタガラスさんは、カップを片手に私を見た。
「お前がどこから来たのか、だ」
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