#47 ほのお
セルリアン。
どこかで聞いたことがある。
でも、それはほんの一瞬で、それがどんな存在なのかは、全く分からなかった。
響きがどことなくエイリアンと似ているので、パークを侵略しようとしている化け物…的な存在なのだろうか?
本来なら天敵にあたるはずの動物同士が仲良く暮らすジャパリパークにも、天敵はいるようだ。
『セントラルへ向かったお客様は、係員の指示に従って…』
アスカが緊急放送を終える前に、映像はブツっと切れてしまった。
しかし、すぐ別の映像に切り替わる。
これは…車の中?
アスカは、後部座席から運転席へ身を乗り出し、何かを訴えている。
『ヨシアキ君、急いで!!』
『分かってますけど、あそこまでだと飛ばしても三十分はかかるっすよ?!』
『良いから! 今は車しかない!!』
運転席にいるヨシアキという男性らしき者と会話を交わしている間に、また映像が切り替わった。
アスカが現場へ到着した後のようだ。
車から降りたアスカの先には、とんでもない風景が広がっていた。
まるで映画のワンシーンのように渦巻く、巨大な炎。それに黒煙が混ざり、暴風が巻き上がっているのが見て取れた。
炎の周りでは、たくさんのフレンズ達が野次馬のようにそれを眺めていた。それも、見覚えのある鳥のフレンズばかりだ。成すすべがなく、ただ呆然としているしかない…そんな雰囲気だった。
その中にいた博士が、アスカに気づきこちらへ飛んできた。
『ハカセ!』
『アスカ! ヒトは無事なのです!』
博士が指を差した方向を見て、アスカは一目散に駆け出した。
アスカが駆け寄った先にいたのは、数人の人間だった。
『ガイドの小田です! お子様は?!』
アスカが声をかけると、人々が一歩退き、中心でうずくまっている女の子が姿を見せた。
小学校低学年くらいだろうか。その女の子は、真っ赤な顔で目に涙を浮かべながら、アスカを見上げた。
『うちの子は、怪我もなく無事に助けていただけました。…ただ、その助けてくれたフレンズさんが…』
女の子の父親らしき男性が、申し訳なさそうにそう言ってから、右を見た。
アスカも、一緒になってその方向を見る。
『…っ! 分かりました、お客様は車でエントランスまで避難してください!! ガイドがご案内いたします』
アスカはそちらへ向かうのをためらうように息を飲んでから、人々を車へ案内した。
車を見送った後、アスカはすぐに博士に向き直る。
『ハカセ、この火は?!』
『セルリアンの暴走を、スザクが止めているのです! でも、抑えられるのが限界なのです!』
『スザク?!』
『他のフレンズでは、力を合わせても太刀打ちできないのです! ヒトを助けられただけでも幸運なのです!』
博士の表情は、別人のように必死だった。眉間にしわを寄せ、眉を吊り上げて、口を大きく開けながら、叫ぶように話す。
すると突然、炎の中から声がした。
『アスカ! 我の力でもこれが限界じゃ! 何か策はないのか?!』
『…ごめん、もう少し、頑張って…!』
『早くするのじゃ! このままでは、パークごと吹っ飛んでしまうぞ!』
これが、スザクさんの声なのだろう。
当然、中にいるスザクさんもセルリアンも、姿は全く見えない。
アスカは炎へ向かって『分かってる!』と叫んだ。
直後に、博士が悲鳴のような声を上げる。
『なぜ、あの三人を車に乗せなかったのですか!!』
博士は、先程あの男性が見ていた方向を指差し、必死に訴える。
『バスはみんな避難用に回ってて、ワゴン車しかなかったんだ! あれで定員いっぱいで…! 一時間したら、また来るから!』
『とにかく、治療はできないのですか?! 怪我はないのに、意識が戻らないのです!』
『それは、薬じゃ治らない!』
『なら、一体どうすれば…!?』
『それは、輝きが…』
その方向へ駆けながら口論する二人のバックで、突如、大きな爆発音がした。
その瞬間、炎の中から、スザクさんの叫び声が聞こえた。
『逃げろーっ!』
フレンズ達が羽を広げ、飛び立った瞬間…
炎と黒煙が猛スピードでこちらに迫り、映像はブツっと音を立てて消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます