#48  いわかん

 私はしばらく、放心状態のままだった。

 

 ボスは、アスカに指示されてあの場面を録画したのだろうか?

 いや、ヘビクイワシさん達の演劇グループが作ったドラマかもしれない。

 だとしたら、わざわざアスカからのメッセージだなんてボスが言わないか。

 

 アスカやフレンズ達は、あの後どうなったのだろうか?

 アスカの緊急放送が本当ならば、セルリアンが現れたのは人間の入れない場所のはずだ。それなのに、あの場には複数の人間がいた。

 

 それに、その中の一人が発していた言葉…

《うちの子は、怪我もなく無事に助けていただけました。…ただ、その助けてくれたフレンズさんが…》

 

 あの女の子がセルリアンに襲われ、それを誰かが助けたと仮定すると、助けたフレンズがセルリアンに攻撃され、重症を負っていたのだろう。

 

 そして、最後にアスカが口にしたことも引っかかる。

 輝きが…、というところでスザクさんが叫び、その後に何を言ったのかは、全く分からない。

 輝きが、何なのだろうか?

 

 しばらくしてから落ち着いた私は、その場にしゃがみ込み、ボスと顔を合わせた。

 

「…ねぇ、さっきのは、本当にあったことなの?」

 

 しかし、ボスは私をまっすぐ見つめたまま、答えようとしない。

 

「……聞いてる?」

 

「終わりましたか?」

 

「わっ?!!」

 

 突然、背後から聞き慣れた声がした。

 相変わらず、博士には驚かされる。音もなく飛ぶことができるのは、フクロウ類の特権だ。

 

「は、博士…」

「ラッキービーストは、どんな話をしていたのですか? アスカは出ましたか?」

 

 博士は、そう問いかけ首を傾げた。

 彼女は、本当に何も知らないのだろうか…?

 私をここまで連れてきたのだから、ボスが何を言ったのか、既に知っているのでは…?

 

「博士は知らないの?」

「? 何をですか?」

「ボスが何をしたか」

「…さぁ…」

 

 私は立ち上がる。

 

「本当に? 本当に知らないの?」

「はい。一体何なのですか」

「昔、ここで何があったの? スザクさんがセルリアンと闘ったのは? あの女の子を助けたのは? あそこは一体…」

「だから、知らないのです。夢でも見ていたのですか? ロボットに化かされるとはヒトも退化しているのです、まったく」

 

 博士はため息をつくや否や、私の腰をすっと持ち上げ、そのまま飛び立った。

 

「わ?! ちょっ、聞きたいことはまだ…」

「スザク? 女の子? スザクは、そう簡単に姿を現さないのですよ。セルリアンが出たぐらいで、のこのこと助けに来てくれないのです」

「いや、あのセルリアンは尋常じゃないよ。スザクさんも苦戦してたんだから…」

「そこまで凶暴なセルリアンは、ホートクにはいないのです」

「で、でも…!」

「じっとしているのです。今度こそ落とすですよ」


 博士は、相変わらず涼しい顔をしている。


 この日から、私が見ているこの世界は、違和感でいっぱいになった。

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