#30  あすか①

 静かな山脈の中に、アコースティックギターの透き通った音色が響き渡る。

 

 その音色に導かれてやって来たフレンズが一人、ギターを弾く女性の前に降り立った。

 大きな白い帽子を被ったその女性は、演奏を止めてフレンズの顔を見上げる。

 

「ん? あれっ、イワシャコじゃん」

 

「こんにちはっ。すごく綺麗な音が聴こえたから、飛ぶのは苦手なんだけど頑張って来てみたんだ」

 

 イワシャコと呼ばれたフレンズの言葉に、女性は少し照れ臭そうに笑った。

 

「えっ、そんなに良かった?」

 

「うん、すっごく良かったよ! これで音を出してるの?」

 

「そうそう。これはギターって言って、楽器の一つだね」

 

「がっき…! やっぱりヒトはすごいね! もっと聴かせて!」

 

「もちろんだよ」

 

 女性は、嬉しそうにギターを弾き始めた。その間、イワシャコは目を輝かせながら、ギターの出す音に耳を傾ける。


 ピックで弦を弾くスピードが、どんどん速くなる。

 

「すごい…!」

 

 ポロン…、と、虚しげに演奏が終わった瞬間、イワシャコは大きな拍手を精一杯した。

 

「すごい! ほんとにすごい! カッコ良い!」

 

「おう、ありがと。そこまで褒めてもらえるなんて、嬉しいな」

 

「これ、私にもできる?」

 

 イワシャコがギターを指差して問いかけると、女性は不適に笑いながら答えた。

 

「もちろんできるよ。たくさん練習すればね。私ぐらいできるようになりたいなら、メチャメチャ練習しなきゃダメだけど……」

 

「ダメだけど?」

 

「できるようになったら、フレンズの中でこれが演奏できるのは間違いなくイワシャコだけだね」

 

 その言葉に、イワシャコは蔓延の笑みを浮かべる。

 

「ほんと?! それって超格好いいよね?」

 

「そうだね、格好いいな」

 

「やりたい! 私、メチャメチャ練習するから、それ教えて!」

 

「…ホントにメチャメチャ練習する?」


「うんっ、頑張るから!」

 

「ホントのホント?」

 

「ほんとだって、信じてよっ!」

 

「よし、分かった。約束な」

 

 女性は強気に笑うと、重たそうに立ち上がり、抱えていたギターをイワシャコに差し出した。

 

「ほいっ。じゃ、私がギターをゼロから教えてあげる。と言っても、今日みたいな休みの日にしか相手できないけど」

 

「ありがとうございます、アスカ先生!」

 

 不器用にギターを抱えながらも、イワシャコは元気良く挨拶した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る