#29 ゆうせん
「おぉー、高い高いー」
ひでり山を見下ろして、ハクトウワシさんに抱えられたドードーさんが穏やかな声を上げた。
私も、アキちゃんに抱えられながら、宙に浮いている。
飛んでいるのは私と三人だけでなく、何十人ものフレンズが、一斉に空を飛んでいた。
下にいるフレンズ達は、何事かと驚いていることだろう。
博士に総括を頼まれた後、私はとりあえず会場予定地に行ってみようと提案した。
昨日まで必死になって作ったステージを、みんなにも拝見してもらおうと思ったのだ。それに、誰がどこで店を開くのか、どんな演技にするのかなど、大まかな予定も立てられるだろう。
「着いたのです」
博士の先導で、フレンズ達はステージの前に降り立った。
「この広場でフェスティバルを開催するのです。ステージもきちんとあるし、店もいくらでも開けるのです」
「おぉー、広いんだねぇー」
「ここなら楽しく歌えそうです! (ドヤァ)」
「いくらお客さんが来ても平気そうね」
フレンズ達は、思い思いに感想を述べる。この場所が気に入らなかったフレンズはいないようなので安心した。
ざわめきが落ち着いてから、私は次の指示を出した。
「フェスティバルまでの一ヶ月間、みんなにはこの場所を自由に使ってもらって、お店を開く子はその場所をそれぞれ決めてほしいし、ステージを使う子は譲り合いながら練習してほしいな。何か助けてほしいことがあれば、できる限り協力するから声をかけて。オッケー?」
フレンズ達は、元気良くはーいと返事した。
ひとまず私の出番はここで終わりかと思いきや、群集の中から手を挙げるフレンズが後を絶たなかった。
「フーカ! 私達の演劇を見てほしいのでありましょう!」
「待ちなさい! 私達のダンスが先だわ!」
「いや、ここはショウジョウトキ達の歌を聞いてもらうのが良いでしょう! (ドヤァ)」
フレンズ達は、どこまで私を頼れば気が済むのだろうか…。
確かに、ステージに出るフレンズ達の練習風景を眺めたいのは山々なのだが、私は聖徳太子ではあるまいし、一度に全てのフレンズの面倒を見ることはできない。
「ちょ、ちょっと待って、考えさせて…」
これは、順を追ってグループの面倒を見る必要がありそうだ。
しばらく考えた結果、先程博士の言っていた言葉を思い出した。
ひでり山の山頂で、イワシャコさんとキクイタダキさんに言っていた言葉である。
《とりあえず、後で四人の演奏を聴かせるのです。それで我々が認めてやれば出演しても良いですよ》
トキさんとショウジョウトキさんの歌声、そして、それを交えたイワシャコさんとキクイタダキさんのバンド演奏をまずは聴きたいと思った。そして、レベルによっては私が監修して、博士に認めてもらえる演奏にする必要がありそうだ。
ギターやドラムは扱ったことはないが、歌ならある程度は教えてやれるかもしれない。
「じゃあ、まずはバンドの演奏から聴こうかな」
私がそう言うと、バンド組以外のフレンズ達は目と口をぽっかり開けて、幼稚園児のように、えーっ?! っと嘆いた。
何でフェスティバルをぶち壊すようなメンバーを優先するのか、と言いたげな顔をした者ばかりである。
しかし、当のトキコンビは嬉しそうに、
「本当ですかっ?! (ドヤァ)」
「嬉しいわ、ありがとう」
と、ドヤ顔と笑みを浮かべていた。
「博士、四人の演奏を聴く前に、私がトキさん達に歌を教えても良い? 二人の歌がどんな物なのか分からないけど、きっと博士が認められるくらい上手くなるまで教えるから」
私が博士に提案すると、博士は少し驚いた様子で応えた。
「フーカ、本気なのですか?」
「うん、本気」
私の真っ直ぐな瞳を見つめて、博士は小さな溜め息をついた。
「全く…おまえは本当にアスカそっくりなのです。良いでしょう。ただし、フーカには他のことも担当してほしいので、三日だけあげるのです。それまでに、トキ達の歌をどうにかするのですよ」
少々強引な指示だが、私は承諾した。
「では、ここからはグループごとに動くのです。フーカは、きっと他のグループの面倒も見てくれるはずなので、待っているのですよ。それと、会場の準備を担当するフレンズは、我々の所に来るのです」
博士の指示に、フレンズ達はステージに向かったり他の場所へ飛び立ったりと、ばらばらに動き出す。そのどさくさに紛れて、何人かのフレンズが私に耳打ちしてきた。
「二人の歌に殺されないようにな…」
「想像以上にすごいからね!」
「冗談抜きで、500メートル離れるのよ」
「フーカ、健闘を祈るわ…」
二人の歌はどれだけ凄まじいのだろうか?
期待とまでは行かないが、少し待ち遠しくなっている自分がいた。
正直に言うと、音楽に関わることは出来るだけ避けたいのだが、所詮ここは夢の中だ。
私を引きこもりにさせる要因を作るような子は、この世界にはいないだろう。
きっと、だが。
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