スカイインパルスからのいらい

#1   であい

 眩しい光から解放され、そっと目を開ける。

 開けた瞬間、私は目の前の景色に口をぽっかりと開けた。

 ごつごつとした山々をバッグに、真っ白な雲海が、果てしなく広がっているのだ。

 とても美しい風景だが…

 

 …ここはどこだ?


 振り替えると、あの光はもうなかった。

 私が飛び込んだ直後に、消滅してしまったのだろう。

 異世界に転移するなんてことは非現実的過ぎるので、自分は今、夢を見ているのだと思うことにした。

 そもそも、半年間も部屋から出ていない奴が、ホイホイと外に飛び出せるはずがないのだ。

 これは夢だ。

 私は、スマホを眺めたまま寝落ちしたのだろう。

 

 それにしても、本当に壮大な景色だ。

 山やロープウェイから見たことはあるものの、ここまで大規模な雲海は見たことがない。

 ちなみに私が今立っているのは、山の中腹の展望台のようだった。

 木の板が平行に貼りついて、足場や柵を器用に作り上げている。

 人工物があるということは、この世界には人、あるいは人同等の知能を持った何か、がいるに違いない。

 夢から覚めるまで、この世界の住人を探してみることにした。

 スマホばかり見ている私の脳内のことなので、宇宙人のような面白おかしい住人がいそうな気もする。

 この展望台は、木々がうっそうと生い茂る山道と繋がっているようだった。

 猛獣でも出るかもしれないと思うと少し怖かったが、死んだとしてもそれは夢の中の話であって、現実では生きていることだし、おじけずに進んでみることにした。


「あ、あの…」

 

 ふと、私の肩に何かがそっと触った。

 

「わっ?!」

 

 私は声を上げて、飛び上がる。

 

 声のした方を見ると、とんでもなく綺麗な中学生くらいの女の子が一人、不安気な顔をして突っ立っていた。

 綺麗、というのは、顔立ちもそうなのだが、一番美しいのはその服装と髪の色である。

 クリーム色のベストに青い袖を通し、赤いグラデーションのかかったスカートを履いている。何よりも綺麗なのは、青くきらきらと輝いたロングヘアーだった。

 そして、頭の両側にくっついているのは、獣耳ではなく、羽…?

 こういう場合は、獣耳がつくのが一般的ではないだろうか。

 見た感じ、獣人というよりも、妖精のような外見だ。危険な生物ではなさそうなので、とりあえず安心する。

 私の脳内に、こんなに綺麗な住人がいるとは…

 

 …なんて、歓心している場合ではない。

 その綺麗な女の子は、私に何か言いたそうにもじもじしている。

 かなり引っ込み思案な性格のようだ。

 私から話を振らないと、話してくれないタイプと踏んだ。


「あ、あの、いつからいました…?」

 

 とはいえ、私も声を使って話すのは半年振りなので、かなりドキドキする。

 人見知り同士の会話は、かなり気まずい。

 女の子は一瞬ビクッとしてから、口を小さく開いた。

 

「あ、あの、気づいたら私ここにいて……私も何でここにいるのか分かんないんですけど、私一人かと思ったらあなたが隣にいたので、こ、声をかけてみたんです…」

 

 女の子はそう言い切ると、そっと胸を撫で下ろした。

 せっかく高くて可愛い声なのに、早口なのがもったいない。

 思ったりよりも話してくれそうな子で良かったが。

 しかし、今はそんなことを考えるよりも、聞きたいことが山ほどある。

 

「…え、隣に私がいた?」

「はい、いました…」

「気づいたらここにいたの?」

「はい、いました…」

「…私と一緒だ…」

 

 私と同じ境遇だった、ということは…

 

「…もしかして、光の中に飛び込んだ?」

 

「…え?」

 

 突拍子もない質問に、女の子は目を丸くした。

 そして、しばらく目線を泳がせてから、

 

「私、さっきまでの記憶が全くないんです…私が誰なのかも、何でここにいるのかもさっぱりで…」

 と、答えた。


 き、記憶喪失?!

 なるほど、私の脳は、この子と一緒に冒険でもしてほしいのか。

 何だか悪くない展開になってきた。

 最近だらだらと過ごしていた私にとっては、良い退屈しのぎになる。

 

「記憶がないの?」

「はい……あっ、で、でも、一つだけ言えることがあって…」

「えっ、な、何?」 

 

 私は期待して、彼女の声に耳を傾けた。

 

「お、お腹が空いて、死にそうです……」

 

 瞬間、私は盛大にずっこけた。

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