砂星のひかり

あれくとりす

プロローグ

#0   ひかり

 ドォォォォォォンッ!!

 

 それは、世界を終わりへと導くような、轟音だった。

 しかしこの時、私の中の世界は、終わりではなく、始まりへと進んでいたのかもしれない。

 半年間、カーテンすら開けていなかった私が、窓を開けたのだ。

 世界が終わるということは、そのくらい凄いことなのだろう。

 

 窓から身を乗り出すと、庭のすぐ向こう側の雑木林から、白い光が輝いているのが見て取れた。

 私はぎょっとして、あまりの眩しさに目を細める。

 光は木々の隙間からぱあっと溢れ出し、絶えることなく輝きを発し続けていた。

 見た感じ、火事ではなさそうだが、非常に眩しい。

 あんなものを見るのは始めてだからか、今にも吸い込まれそうなその光に、だんだんと興味がわいてくる。

 

 数秒間、誰かが光の存在に気付くのを待っていたのだが、外からは誰の声も足音もしない。

 隣の部屋の母も、ぐっすり眠っているようだ。

 あんなに大きな音だったのに、誰も気付かないのはさすがにおかしい。ぐっすり眠っていたとしても、あの轟音ではみんな飛び起きるだろう。むしろ、家中の窓から人が身を乗り出して、外の様子を確認をするはずだ。私のような夜行性型人間で、夜中にスマホをいじくっている人もいるはずだろうに。

 

 久々に外の空気に触れたせいか、いつの間にか頬がひんやりと冷たくなっていた。

 あの光に私しか気づいていないのならば、私が消防を呼ぶべきなのだろうか。いや、警察の方が良いのか。私はスマホを握りながら、少し考えた。

 見に行ってみよう。

 その瞬間、私はありえない行動に出た。

 堂々と部屋を出て、そのまま玄関から庭へと足を踏みこむ。

 今まで出なかった勇気が、今、あの光のおかげで、ぽっと出た。

 人ってこんなに単純なものなのか…と、自分でも不思議に思う。

 きっと、半年間も部屋に閉じこもっていたせいで、とうとう精神がおかしくなったのだろう。

 夏の雑木林はかなり薮っぽいが、私は構わず草木を掻き分けながら光へと向かった。小さい頃によくここで隠れんぼをしたから、薮の中を歩くことには慣れている。


 光の前に行き着いた私は、立ち尽くした。

 木と木の間の比較的広い空間に、その光は大きく浮かんでいた。

 しかも、周辺の草や笹が、無造作になぎ倒されている。

 何かが墜落したのだろうか?

 だとしたら、この光以外にも、何かが落ちているはずだ。

 私はとりあえず、スマホのカメラで光を撮ることにした。


 シャッターボタンを押そうとした、その瞬間。

 

 ガサガサッ!

 

 足下から、突然、小さな何かが飛び出した。

 私は、わっと驚きの声を上げて退く。

 一瞬のことでよく分からなかったが、その小鳥のような何かは、光の中へと吸い込まれるように飛んで行き、溶け込むように姿を消した。

 その様子を見て、私は目を見張った。

 この光の中に入れる、ということか?

 アニメのようなファンタジックな展開に、息を飲む。

 とりあえず写真を撮ろうとスマホの電源を点けたのだが、何と、今度は光が小さく縮み始めた。

 私は慌ててシャッターボタンを押した後、光の中へと飛び込んだ。

 

 …え、飛び込んだ…?

 

 眩しい光に目を閉じながら、私は今さっきとった行動を思い出す。

 いくら興味があるからって、無意識に飛び込んじゃダメでしょ…!

 と、後悔した時には、私はすでに光の中をくぐり抜けていた。

 

 着地した瞬間、私は違う世界にいた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る