第22話 行ってらっしゃい

『兄ちゃん、珍しいね。失敗するなんて』


 ……ん、まぁな。


『学校で習ったよ!『猿も木から落ちる』ってヤツでしょ?』


 ハハッ、そんなとこ。でも取り返しのつかねぇ失敗だ。


『そうだよね。命は一人一つだもん。でも兄ちゃんは優しくて強くてカッコいいから、次は失敗しないもん!』


 そうだといいな。兄ちゃん、そろそろ仕事に行かねぇと。


『そうなの?気をつけてね!ボクもきっと兄ちゃんみたいになるから!』


 ならねぇ方がいい。オレは良い兄ちゃんになれなかったから。


『そんなことないよ!兄ちゃんはいつだって誰かのために怒れる人だもん!いつだって正義のヒーローだよ!』


 ……そっか。そうか。なら兄ちゃん、頑張るからな。




「次こそ本物のヒーローに」




 薫はそう呟いた。そして、写真の向こうの弟に手を合わせて玄関を出た。誰もいなくなり、しんとした部屋の中で、細くたなびく線香の煙が、薫の背中に手を振った。

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