第15話 核心に微笑む(薫視点)
「いったぁ!!?」
いきなり風が吹いたかと思えば、後頭部に鈍器のような衝撃が走る。その直後に硬いものが落ちる音。数歩よろめいた足下に隼の警棒が落ちていた。
──あンの野郎……っ!!
文句を……と思ったが、隼は一人で全生徒を相手にしている。楽しそうだが余裕がないのは見てわかる。
我慢することに決めた。
「聡明やめて!酷いことしないで!!」
柊馬が聡明の腕を掴んで悲痛な叫びをあげた。だが聡明は耳を貸さず、見向きもしない。それどころか柊馬を冷たく払いのけ、カッターを振り回す始末。
──全く、なんて奴だ。
「親友の話くらい聞いてやれよな!」
薫が警棒を蹴り上げ、聡明の頭を撃ち抜く。横からの攻撃に揺らぐ聡明だったが、態勢を立て直して落としたカッターを拾おうとした。カッターを足で払いのけ、襟を掴んで遠くの壁にぶん投げた。
柊馬は腰を抜かして地面に座り込む。震える手を握って涙を堪えていた。
「足リナイ、足リナイ……アトヒトツ、ソレガ大事……一番……大事」
弱々しく起き上がる聡明の瞳には薫が映る。壊れた人形のように言葉を繰り返しては、虚ろな目で薫を見据えた。警棒を拾って薫はガムを膨らませる。
聡明が走り出した。真っ直ぐに薫を狙ってきた。
拳が顔面に飛んできた。しゃがんで避けると膝が額を狙っていた。
「ぐっ……」
腕で防いで後ろに転がる。前を向くと聡明のひと蹴りが頭に当たった。
昏倒しそうな痛みと目眩。収まるまで待つ時間はない。飛ばしたカッターを握る聡明は躊躇なく歩いてくる。
「聡明って、なんか武術とかやってたか?」
柊馬に尋ねた。柊馬は首を横に振った。怯えながら薫に答える。
「柔道とかならやってないよ。やってたのはサッカーくらいかな」
──あっそ。どうりで強いと思ったよ。
聡明はカッターで薫の眉間を突く。後ろに下がって攻撃から逃れ、警棒を刀のように構えた。
目を閉じて呼吸を整える。かつて師匠に教わった剣術を思い出す。習ったものは基礎の基礎だ。古びてしまっても使い道はある。
聡明が再びカッターで突きを放つ。その瞬間を見極めて──
「せぇぇい!!」
一瞬の抜刀術。
見えぬ速さでカッターの刃を砕いた。聡明も膝をついて倒れた。柊馬が聡明に駆け寄った。聡明の体を揺すって声をかける。
薫は警棒を回して深呼吸した。首を回して呟く。
「あーぁ、失敗した」
聡明の目が開き、「足リナイ」とこぼす。
──おかしいな。普通なら全身を叩かれて起き上がれないはずなんだけど。つーか、三十分は気絶するはずなんだけど。
聡明は痙攣する体を無理やり起こす。
「足リナイ……足リナイ……足リナイ……」
「こりゃきっちり気絶させたほうがいいな」
じぃっと睨む聡明に睨み返して、薫は警棒を手の内で回す。しっかり握り直して聡明に歩み寄った。しかし警棒を振るうことはなかった。
「やめて紅夜くん!聡明を傷つけないで!」
庇うように両手を広げ、精一杯の怖い顔をする。
薫の前に柊馬が立ちはだかった。
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