第2話 刑事課主任、帰還
少秘警───森
青い髪をなびかせて隼は森の中を風のように駆け抜ける。行く手を阻む大岩も視界を妨げる木々も無意味。体をしなやかに動かして危険を回避する。
「くっ……‼」
本日四度目の岩を前転で飛び越えて岩陰に着地する。そのタイミングで頭上を長い黒髪が貫き、その直後に女が通り過ぎた。
「間一髪……ってところか」
だが休んでいる暇はない。すぐさま元来た道を戻り、女との距離を広げる。
気づくと隣を赤毛の少年が並走している。少年は顔も見ずに口角を上げた。
「何でこっちに来た薫!」
「うるせぇ逃げた先にお前がいたんだろ!」
「もうちょっと考えて動けよ!」
「本能で逃げてんのに考えられっか!」
「だよな!」
会話(?)の途中だった。全身の筋肉が硬直するほどの寒気が襲い、逃避本能が思考を圧迫する。前を向くと視界の端から木々が髪の毛に侵食されてみしみしと音を立てる。
か細い声が心臓を貫いた。
「──見 ィ ツ ケ タ」
声にならない悲鳴を上げて全速力で逃げようと足掻く。薫が二度舌打ちをして作戦を共有する。アイコンタクトでタイミングを合わせて左右に分かれた。
張り巡らされた髪の毛の網をくぐり抜けて青々とした森の奥へと逃げ込む。遠くで薫の雄叫びが轟く。強い風が吹き抜け、薫の脱落を知らせた。
──薫が捕まった?いや、ありえな……
背後に迫る足音。尋常じゃない速さで近づいてくる。恐怖を通り越した本能がイヤリングの鍼を引き抜かせる。振り向きざまに振った鍼の先から風刃が飛び出し辺りを薙ぎ払う。崩れていく森の一部の先には、何も無かった。誰もいなかった。
──思い過ごしか。
安堵して振り向いた時、心臓が凍りついた。
体がびったりとくっつきそうな距離に
──女の姿。
ギラギラと血走った目が隼を捉えている。避けるのではと思うほどに笑った口が言葉を紡ぐ。
「ツ カ マ エ タ♡」
悲鳴を上げるより先にしなる髪が口を封じる。手足を縛り、視界を覆う髪の毛の隙間から、髪の毛でがんじがらめの薫が見えた。女の不気味な笑い声が遠くなる。
髪の毛が全身の自由を奪うより先に隼は意識を失った。
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