第22話 尾を見せる猫

 ──どうしよう。

 ──どう話しかけよう。


 隼が医務室で事件の復習をしている横で、薫は明らかに不機嫌な顔でクッキーを貪り、防犯カメラの映像を睨みつけていた。

 不機嫌な顔で、甘い匂いを纏い、戻って来るなりエプロンを脱ぎ捨ててこのままだ。隣にいるだけで胃に穴が開きそうな上に、知らない間にパソコンの画面はヒビが入っていた。

 隼は気にしないふりをして写真を眺めた。



「おい」



 低音で放たれる二文字。それだけで大砲並みの威力があった。隼は少し驚いたのを隠そうとしたが、声をうわずった。

「なっ······なんだよ」

「ちょっとコレ見てみ」


 そう言って膝の上にがさつに乗せられるパソコン。薫が少し操作して、映し出したのはコンビニの防犯カメラだった。

 売り場から商品を手に取る少年がいた。周りを確認し、カメラに隠れてポケットに隠す。



 ──万引きだ。



 それに気づいた店員がバックルームに連行する。しばらくすると少年が、バックルームから出て来て店を後にした。その間、少年の顔はマスクと前髪が邪魔して一切見えていない。でも髪の色に見覚えはあった。


「······桜木か?」

「ああ、そうだ。んで、次な」

 次に見せられたのも、防犯カメラの映像だった。だがそこには堂々と万引きをする桜木の姿があった。先程の映像と同様にバックルームに連行される。


「だから何だよ。事件と関係ないだ──」

「変じゃねぇか?」


(··················変?)

 何が変なんだ。隼は眉を動かし、薫に説明を求めた。しかし、薫は画面に釘付けで、隼なんて一切見ていない。

 隼はため息をついて映像を見比べ、違いを探した。答えは存外すぐそこにあった。




「顔を隠してないのか!」




 前者は顔が分からないのに、後者ではばっちり映っている。むしろカメラ目線なくらいだ。

 更に後者は防犯カメラの記録日時が店長殺害時刻と一致した。普通ならアリバイの証明として片付けるが、どうもおかしい。


「何でわざわざ顔を出したんだ?」

「ついでに言うとオレさぁ、アイツの言動でちょっと気になるところがあったんだよなぁ」

「アリバイ証明? 本当にそうか?」

「······確かめねぇとな」

「······確かめるか」

 お互いにお互いの顔を見ない。まっすぐ前を向いて、何も言わない時間が流れた。

 視界の端で拳が揺れた。同時に振られた拳と放たれた声。ツッコむ者など、誰もいなかった。




「じゃんけんぽんっっ!」

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