帽子屋とウサギ

第6話 事件発生

 今日は青空の下、そよ風が街を吹き抜ける爽やかな日だった。高く昇った太陽が漂う雲とほどよく共存し、気持ちが高鳴るような朝を演出する。



 小鳥のさえずる声と、薫のうめき声が聞こえる。

 ご機嫌な主婦の声と、不機嫌な隼の声が街を駆けた。



 道端で挨拶あいさつを交わす人々の眩しい笑顔を横目に全力でバイクをかっ飛ばす、爽やかもへったくれもない二人。パトランプを光らせ、けたたましいサイレンを鳴り響かせて車の列に割って入っていく。

 それよりも、殺気とも取れる雰囲気を振り撒く隼に、車は道を譲っているようだった。

 バイクを運転する隼の後ろで薫は豪快にあくびをした。



「今日も良い天気だなぁ。車が少なけりゃあ、尚良し。仕事がなければ殊更ことさら良し」

「寝ぼけたこと言う暇があるなら仕事しろ。サボって神奈川行ってんじゃねぇよ」



 隼の叱責も聞かず、薫は「メンドクセー」とか何とか言いながらガムを噛み始めた。



 朝一番に入った通報が、出勤したばかりの隼に回ってきた。

 部屋で人が死んでいるとかで至急向かうように、と言われて準備をしていたが、肝心の薫の姿がない。急いで刑事課に向かうもそこに居らず、隼が慌てて電話をかけて、


「今どこだ!」

『ごめん、神奈川だわ』

「バカヤロコノヤロォォォ‼」


 といった会話をし、駅まで迎えにいくハメになった。だが、薫が帰ってきたのは駅に着いてから一時間後。呑気に土産まで買って帰ってきた。

 おかげで大変焦っている。お菊に叱られるし現場到着時間を過ぎてるしと、甚大な被害を被っていた。隼は腸が煮えくり返るような怒りを、必死に抑えていた。


「だぁ〜って、急に中華街行きたくなってよぉ。散歩してたらさぁ、なぁんか知らねぇジーサン助けてたしよぉ。ちゃんと人助けはしてたんだぜ。······あのさ、あんま怒んなって、ちゃんと駅まで帰ってきたろ?」

「署まで来いよサボり魔」


 呆れ、怒りつつも今に始まったことではないと隼は諦めた。やる気が底をついている薫を引きずって、現場に向かった。

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