第120話 破壊の神
偵察機リーパーが、何者かによって撃墜された。
ドローンからの映像でも、その爆発はすさまじく、きのこ雲が上空高くまで昇ってゆくのが見えた。確かに有事の時の為に2発は実弾を搭載していたからね。燃料も満タンに近かったので、爆発としては規模が大きくなったのかもしれない。
「至急リーパーのデーター解析、それと待機中のドローンも全機出動、未確認飛行物体を捉えるんだ!」
大家さんの指示が飛ぶ。
それを聞いて一斉に動き出す社員たち、俺達も行動に移す。
「エンデルはプノに連絡し、念のため全員を安全な場所に移動するように伝えろ」
「はいです!」
「ピノは至急予備の偵察機を準備するように指示を出せ。敵が何者か分からないから、ミサイルも装填させることも忘れるな」
「了解!」
「その他は送られてくる映像をチェック。発見次第そいつに全機カメラを向けろ」
「「「──了解!」」」
魔大陸側の方は今の所何もしなくてもいいだろう。マオや後輩山本君、エル姫とフェル姫もこちらに集中させる。川原専務は既にリーパーのデーターのサルベージを開始していた。
未確認飛行物体が何かは分からないが、近代兵器である偵察機を簡単に落とす火力があるということに脅威を感じざるを得ない。
まさか異世界の事がどこかから漏れ、こちらの世界から戦闘機を投入されたのかも知れないし。などとありもしない考えも浮かんできてしまう。
しかし、簡単に偵察機を墜落させるなど、それしか考えられなかった。
数分だろうか、全員が一致団結して動いていると、
「見つけた!」
「こちらも見つけました!」
ピノと川原専務が、同時になにかを見つけたらしく、その映像を大型スクリーンに映し出した。
「──‼」
全員その映像を見て声が出なかった。
真っ黒な巨体、長い首、長い尾、広げると全長よりも長いかと思われる巨大な翼を持った、
「竜、ドラゴンか……?」
今の映像では距離感が掴めず、どのくらいの大きさか判断できないが、それを差し引いても迫力だけで巨大だと判断できる。きのこ雲の周りを飛んでいる距離的尺度で見ても、相当な大きさだと判断できるのだ。
「計測結果出ました。全長約30m、翼幅約40m、推定重量30t超え」
「ワォ~! ドラゴンねぇ! これを見られただけでも来た甲斐があったよー」
川原専務の報告に、アイリーンさんが場違いにはしゃいでいる。
それにしても優に偵察機の3倍以上の大きさである。そんなのがなぜ攻撃してきたのかも不明だが、どこか嫌な予感がしてならない。体重30tを超える生き物が空を飛んでいる事実にも驚愕する。マッコウクジラが空を飛んでいるようなものだ。マジでファンタジーな世界だ、信じられない……。
「おいおいおいおい、マジでドラゴンかよ……」
「アキオさん違います、ドラゴンはドラゴンでも、あれは……」
エンデルが顔面蒼白で俺の腕にしがみついて来た。
「どうしたエンデル?」
「あれは……
「「「「
エンデルの言葉に反応したのは、異世界人全員だった。
エンシェントドラゴンというのがどういったものか知らないが、この驚きようは半端ではない。異世界には普通のドランゴンもいるようだが、このエンシェントドラゴンというのは別格なのだろうか。
しばしエンデル達異世界人の話に耳を傾けていると、だいたいのことは分かった。
それぞれ別な話もしているが、統合して纏めてみると、エンシェントドラゴンとは、世界を崩壊させるような力を持った凶暴なドラゴンという話でまとまった。
数百年から数千年単位で目覚め、世界を破壊してはまた眠りにつく。それを繰り返しているということだった。
ちなみに向こうの世界の地震、地揺れを起こす犯人は、このエンシェントドラゴンと言われているようで、寝返りを打ったり、大鼾をかいていると地揺れが起こるのだと信じられているようである。にわかには信じられないけど……。
だからあの地震の時、エンデルが何かを心配するような感じだったのだろう。
目覚めたら最後、数か月で世界を滅茶苦茶に破壊して回り、そしてまた眠りにつくといったことを過去何度も繰り返しているという話だ。人々の間では【破壊の神】【世界再生の神】などともいわれているらしく、恐怖の対象と共に、神聖な対象としても見ている嫌いがあるそうだ。
エンデルの話では、以前目覚めたのが500年ほど前。
ただその時は世界を破壊しつくす前に封印されたという。500年前とは、奇しくも魔王が封印された時とだいたい同じ時期だ。
魔王が世界を荒らしまわり、その影響で【破壊の神】であるエンシェントドラゴンが怒って目覚めたという説もあるようだが、詳しいことは分かっていないようである。
それが本当ならマオのせいだな。今回も元凶はマオにあると言ってもいいのかもしれない。後でお仕置きだな。
勇者が魔王を封印した直後、エンシェントドラゴンが目覚め、その当時の大魔法使い。【深淵の魔女】と呼ばれている女性が、渾身の大魔法を駆使して封印したということだ。
「すげえなその魔法使い」
一人の力で、そんな世界を破壊するような化け物を封印するとは、考えも及ばない。
「でもよくそんなこと知っているな。500年も前の事を」
「その資料は聖教国にも残っています」
俺が感心して尋ねると、エル姫さんが当然のようにそう言った。
そして、
「それに大賢者エンデル様は、その
「おおーっ! スゲーなエンデル! そんな奴の血を引いてるのか⁉」
「はい、なのです……」
エンデルは俺に褒められモジモジとしながら赤くなった。
「じゃあ、エンデルにもその封印とやらの魔法は使えるんだろ?」
「はい、【深淵の魔女】と言われていたご先祖様が残した魔導書に、その魔法は記録してあります」
「そんじゃあサクッと封印できるってことだよな? な?」
俺が考えなしでそう言った言葉で、場はしーん、と静まり返った。
なんで静まり返ったかは分からないが、そんな世界を崩壊させるような危険な存在がいるのなら、エンデルの魔法でサクッと封印してしまうのが手っ取り早いだろうと思っただけだ。
「要君、君はアホなのか?」
「はい、アホですけど何か?」
大家さんの突っ込みに真顔で返した。
「エンデル君は向こうの世界ではなく、こちら側にいるんだぞ? どうやって封印するんだ?」
「え? だって魔法陣さえ教えれば向こうの人達でもなんとかできるんじゃ?」
「そう簡単だと今の話を聞いていて思えないんだが……だろ? エンデル君、エル君」
「はい、【深淵の魔女】が使ったと言われているのは、極大魔法なのです。いくら魔法陣を教えたとしても、それを発動できる者が……」
「おそらく聖教国中の魔導師を集めても、その魔法を発動させることは難しいでしょう。もし発動できる者がいるとすれば、エンデル様を置いて他におりません」
大家さんの問いに、エンデルとエル姫は神妙な顔つきでそう語った。
どうやらそれを発動できる魔力が集まったにしろ、魔力の質は人それぞれ違うので、誰かがそれを統合し、純粋な魔力にしないと魔法の発動どころか、一つ間違えば国一つが消し飛ぶぐらいの暴走を引き起こすそうだ。極大魔法とはそれだけ危険なものらしい。
魔力を統合する者も、それ相応の魔力を操れるような者でしかできないらしく、要はエンデルのような大賢者や賢者と呼ばれる者が必要だという。
おいおいおいおい。そんなに難しい魔法なのかよ。
いやいや、これ詰みじゃない?
「マジか~、それじゃあどうすることもできないのか? エンデルが帰る以外に、向こうの世界を救う手立てがないと?」
俺は溜息を吐きつつ眉間を摘まんだ。
こちらの世界は安全だからといって、他人事のように聞こえるかもしれないが、エンデル達の世界が戦争よりも危機的状況に陥ってしまったのだ。俺も真剣にならざるを得ない。
せっかく戦争が終ろうとしていたのに、どうして次から次へと問題が起こるのだろうか。この危機を乗り切る妙案は、今の俺には浮かんでこない。
百歩譲って、ここにいるエンデル達は安全だが、向こうの世界にいるプノや教皇は死んでしまう可能性が高い。ついでにシュリも。それを黙って見ていることができようはずもないのだ。
何とかして助けたい。そう考えていると、
「ヘイ、ヒナター! 予備機のリーパーの準備終わったようだよー! ここはひとつこちらの兵器がどれだけドラゴンに通用するか試すのも一興じゃない?」
アイリーンさんがウキウキしながらそういった。
異世界の一大事なのに、ちょっと不謹慎すぎる人だよ。
でも確かにそうだ。今はエンシェントドラゴンを封印することにしか思考を働かせていなかったので気が付かなかったが、封印よりも倒すことができれば、今後エンシェントドラゴンの影に怯えなくても済むんじゃね? と。
幸いこちらの世界の兵器、予備の偵察機とミサイルもあと数発残っているのだ。それでエンシェントドラゴンを倒そうではないか!
「うむ、仕方ない、その手で行くしかないか。エル君、エンデル君、その作戦で行こうと思うが、異論はないな? そちらの世界の神にも匹敵するようなエンシェントドラゴンとやらを倒すのだが」
「はい、神といわれているのも迷信のようなものですし、脅威以外の何ものでもありません。向こうの世界に倒せる手立てもない以上、こちらの世界の武器に頼るほかないかと……」
「ヒナたんさん、よろしくお願いするのです。プノーザを助けてください」
エンデルとエル姫は、封印の策がとれない以上、こちらの武器に頼らざるを得ないと心を決めたようだ。
「では悠長にしている場合ではないな。早速始めよう。どんな被害が出るか分からない。向こうの世界には、全員手分けして避難を呼びかけてくれ」
──はい!
大家さんの指示で全員が一丸となって行動に移る。
「こちら指令室。リーパー二号機、発進せよ。今回は訓練でも偵察でもない。空飛ぶドラゴンを全力で撃破せよ。繰り返す、訓練でも偵察でもない。実戦である。あのトカゲ野郎をぶっ殺せ!」
『
大家さんの女性とは思えない命令口調に、自衛隊員は素直に了解し、偵察機リーパーは、戦闘機リーパーとして実弾を抱えて離陸するのだった。
異世界のドラゴンと近代兵器。はてさて、勝敗の行方は……。
【余談】
「ところであのエンシェントドラゴンはどこから出てきたんだ?」
俺が疑問に思ってそう呟くと、エンデルがハッとした表情で口を開いた。
「あっ! あそこなのです。帝国軍を驚かす時、山の上で巨大な火柱を演出しましたよね? あの山の下に封印されていると、ご先祖様の魔導書にも書いてあったのです」
山頂に巨大なガスタンクを設置して、ミサイルで爆破した岩山……。
という落ちだった。
「おい! 大家さん! あんたのせいじゃねーか‼」
「ふっ、今更どうにもならん」
開き直りやがった……。
大家さんの計画が、エンシェントドラゴンが目覚める切っ掛けとなったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます