第94話 お使いに行く。
「おーい、エンデル。何かやっているのか?」
俺は部屋に戻り着替えて大家さんから頼まれたお使いにゆくことにした。
「はーい、アキオさん。いまマジックバックの整理をしているのです」
「そうか、まだかかるのか?」
プノから送られて来た完成品を、整理している最中だという。
完成品に今度はこちらでも分かるようにナンバーリングしてゆくのだ。そうしておくとそのアンテナがどこに設置されたのか把握できる。
「もう終わるのです」
「そうか、一つ鞄を貰っていいか? たしか資機材用の鞄があっただろ」
「はい、えーと、確かこの辺りに……あ、あったのです。これですね」
エンデルは一つの鞄を探し出し俺に手渡してくれる。資機材③と書いてある。①②はもう既に使っているようだ。
それにしても数が多い。アンテナ用のナンバーは、70を越えている。まったく大掛かりだね。
「それ終わったら、何かやることあるのか?」
「えーと、特にはないのです。ピノーザはヒナたんさんのお手伝いをしているので、今日の所はこれで終わりです」
確かに予想以上に魔法の鞄が早く出来上がってしまったので、エンデルはそんなに仕事を割り当てられていない。
プノから貰った仕事も大半は終わって(魔法インクジェットプリンターの活躍で大量生産済み)いるので、暇になっているのだろう。
「なら一緒に出掛けるか?」
「はい!」
一緒に出掛けると聞いた瞬間、嬉しそうに返事をする。もう、可愛いんだから。
「それじゃあ着替えなさい」
「ええ~、この衣装ではだめなのですか?」
ゴスロリコスプレが相当お気に入りなのか、そのまま出かけようとする。
しかしそれはどうにも容認できない。
「それはちょっとやめておけ、目立ち過ぎる……」
「は~ぃ、ぶぅぶぅ~」
エンデルはぶーぶー言いながら着替え始める。
そこまで気に入るとは思わなかった。今度コスプレショップじゃなくて、ちゃんとした服屋さんで買ってあげよう。
そして俺達は出掛けるのだった。
「ええと、ここだな」
「うわー凄い所ですねぇ~」
電車で数駅のところ。エンデルと二人で訪れた場所は、どこかの建設機械の展示販売所のような広い場所だった。
屋外に建設機械、重機などがずらりと並べられており、とても壮観だ。
「この、きかい、ですか? これは何をするものなのですか? 魔物のような長い腕が付いてるものとか、あれなんかとても強そうなのです」
「ああ、油圧ショベル、バックホウ、向こうのやつがブルドーザー、かな? 土を掘り返したり、道路を作ったり。土木作業でよく使う機械だ」
大きな建設機械を見てエンデルは目を丸くして驚いている。
強いか弱いかといえば強いのだろう。油圧重機相手に人間の力なんてゴミみたいなものだ。
「これを買うのですか?」
「どうもそうらしいな……」
大家さんが指定した場所に行くと、一人の胡散臭いおっさんが待っていた。
「こんにちは。
「あ、これはどうも。柊様の注文なさった建機ですね。ささ、こちらです」
「はい、お願いします」
大家さんの代わりに来たと言うと、胡散臭いおっさんは、掌でゴマをするような仕草をしながら、気持ちの悪い笑みを浮かべた。
ちなみに柊とは大家さんの苗字だ。おんぼろアパートのコーポ柊もその苗字から取っている。
「これです整備はちゃんとしてあります。十分動きますよ」
「はあ、そうですか」
胡散臭いおっさんは、2台の機械の前にゆき、それが大家さんがお買い上げしたものだという。大きなブルドーザーと、道路を締め固めるローラーが付いた機械だ。振動転圧ロードローラーというのかな?
ちなみに俺はどういう目的で重機を買ったのか聞いていない。
どちらにしてもここは新車を売っているような場所ではなかった。機械のメーカーもバラバラだし、中古販売店なのだろう。
「それで、運搬車はどちらに?」
「えっ? そんなの手配していませんが?」
魔法の鞄に入れる予定でいたので、そんな運搬車など考えてもいない。
とはいえ、部外者にあまり見せて良いものではないよね。魔法の鞄に吸い込まれるものが大きすぎる。こんな重機が入るのかどうか俺でも疑問に思うほどだ。知らない人はもっと疑問に思うだろう。というよりも、信じてくれないだろうね。
案の定胡散臭いおっさんは運搬車がないのを驚いたが、
「えっ? それじゃあどうやって……あっ、そうでした。柊様が電話で何があっても知らぬ存ぜぬで通せ。見て見ぬふりだ。と言っていたので、わたしはなにも見ません知りません。さあ、背中を向けているのでどうぞご自由に」
胡散臭いおっさんは、日光東照宮の三猿のような格好で背中を向けた。
きっとこの人も大家さんに脅されているのだろう。もし見たことを他に漏らしたら、大変なことになると。もしかしたら取引以前に命までなくなるようなことを言われているのかもしれない。大家さんマフィア説が真実味を帯びて来る。ゴッドマザーかよ……。
もう、大家さんあなたは本当に何者なんですか? 本当はマフィアより怖い存在では?
「は、はい分かりました」
俺は駐機されていた、二台の重機を魔法の鞄に仕舞う。
音もなく二台の大きな機械は一瞬でカバンの中へと吸い込まれてゆく。まったく、いくら慣れたとはいえ、こんな大きいものが鞄に入るなんて、俺でもびっくりだ。
「ではありがとうございました」
「へっ?」
用が済んだので胡散臭いおっさんに礼をして帰ろうとすると、おっさんは振り向いた瞬間目を瞬かせた。
「ど、どこに消えた?」
「はい、余計な詮索は身を滅ぼしますよ?」
「あぅ、そ、そうだった……わたしは何も知らない、うん、なにも見ていない。最初からなかったんだよ……うん、そういうことだ……」
おじさんはプルプルと頬を引き攣らせながら自分に言い聞かせている。
まあ仕方が無い。今までここにあった大きな機械が忽然と消えたんだ。信じられないのが当たり前だ。
「それじゃあ俺達はこれで失礼します。問題があるようなら柊さんまでお願いします」
面倒なことになりそうなので、多くは語らない。後は大家さんに任せるのが得策だ。
呆然と佇む胡散臭いおっさんを残して、俺とエンデルは次の場所へと移動するのだった。
「あの方、とても驚いていたのです」
次の場所に移動中エンデルは楽しそうにそう言った。
「俺だって最初見た時はあのおっさんと同じだったぞ」
「そうなのですか?」
「ああ、こんな小さな鞄から数倍の大きさの魔導書とやらが出てきた時には、小便ちびるかと思ったよ。ともあれ、あのおっさんには悪いことしたな。規模が魔導書とやらとは桁違いだ。あんなでかいものが消えてしまったら、俺なら大便漏らすかもしれないぜ」
「そうなのですね。でもウ〇チは排泄場で漏らしてくださいね」
「漏らさねえよ! 例えだよ例え! それだけ驚くってことだ」
もう、だから女の子がウ〇チ言うな。さめざめとしちゃうよ。
しかし、考えれば考えるほど魔法の鞄とは便利なものである。しかし反面、とても危険な物にも思える。
今まで考えもしなかったが、悪いことに使おうとすれば、簡単に使えてしまう。
高級車をガメて転売したりなんかして、なんでも盗み放題だ。
根が善人な俺で良かったね。悪人だったら大変なことになっていたよ。魔法の鞄で窃盗団を作るね絶対。
しかし鞄に入れられるには入れられるけど、俺には魔力が無いから取り出せないんだけどね。異世界人がいなければ、入れたものが紛失してしまう最悪な鞄でしかないのだ。何とも使えない鞄だ。
ということで、大家さんに頼まれた残り数軒を訪問して同じような事をした。
土舗装固化材なるものを数トン。燃料満載のタンクローリーを二台。他諸々。
なんとも大掛かりだね。異世界で土木工事でも始める積りらしい。
ともあれ、大家さんの用事を済ませ、帰宅する俺達だった。
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