第7話

菅野さんからの連絡が三日ない。自分から誘うタイプでもないのは重々承知していたが何か気になる。

にしても暑い。

午前9時の河川敷。

何処へ行っても菅野さんの姿は見えないままだった。急にありえもしない選択肢が次々に浮かぶ。死んだのかもしれない。もしかしたら親に出禁されたのかもしれない。頭の中は不安だらけでいっぱいになっていく。今日の河川敷は風もなければ人も少ない、だから自分で自分に不安を仰がせるには絶好だった。

「あれ、五十嵐じゃん」

ふとした綺麗な声と聞き覚えのある名前が頭をとおる。しかし思いも出したくもない声な気がしてならない。

「え、五十嵐紅だよね?ね、最近どうなの?元気してた?」

中学の時にクラスを仕切っていたギャル女。確か名前は沢口鼎(サワグチカナエ)

長い腰下まである金髪は変わらずクルクルで目ん玉は加工しているのかぎゅるんぎゅるんに大きくなっている。お前はほんとに人間か。てかなんでここに居るんだ。

「まぁ、それなりに。」

「あ、れっ。そこの人新しい友達?」

「は?どこ」

ギャル女は指をさす。

「ほら、ここじゃん、後ろ、五十嵐の」

小さく後ろで座っていた菅野さんはこっちをみるなり「あ、バレちゃった。」とニコニコ笑った。冗談じゃない。俺が思考回路を広げて頭の中で心配してる間ずっとこの人はそばにいたのか…?

「…沢口。また今度話すから帰って」

何かが募る。

「えぇ〜なんでよ〜せっかく会えたんだからもーちょいゆっくりはなそーよー。私ガッコさぼってるから暇なの〜!付き合えっ!」

「は?帰れっつってんだろ。…あ、ごめん。ごめん、急になんか…いや、帰って欲しいんだ、ほんと、」

沢口は普段見ることのなかった俺の姿を見て驚き、「またね。」と苦笑するとそそくさと赤い自転車に跨ってペダルを踏んだ。

彼女がいなくなった途端沈黙が訪れた。

さっきまで色のなかった河川敷に色が着々とついて、また生きて居る感じがした。そしてほっとしている自分がいる。だがそれと同時にムカムカとした感情が自分の胸を熱くしていた。未だ笑って済まそうとしている菅野さんに嫌悪すら感じてしまっていた。

彼の隣に座る。

久々に感じた心地よい場所が俺の胸を更に侵食してく感じがする。

「俺、怒ってるんですけど。」

「会わなかったから?」

見透かしたような目でこっちを見る菅野さんは膝に手を置き直すとため息をついた。

「紅くん、苗字五十嵐っていうんだ。嘘ついてたの?」

「え、いや。親が再婚とかそんなんです…」

そういえば俺が中学一年の時、俺は確かに苗字は五十嵐だったのだ。

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