第5話
「菅野、さぁっ…あ…」
時間は多分朝。まだ母が会社に行っていない時間帯だろうか。父はどうせコーヒーでも飲んで紅を更生させなくてはとせかせかしているのであろう。これが、通常の我が家と俺自身なんだ。だったんだ。
なのになんで俺は今河川敷で年上で昨日会ったばかりの人間に首を絞められているんだ?
「紅くん。きもちい?きもちいー?」
紅くん。紅くん。紅くん。紅くん。紅くん。やがて頭には俺の名前を連呼する声しか聞こえなくなっていた。首を絞める手は緩くなり、そして信じられないほど強く絞められるを繰り返される。少し時間が経つと菅野さんは手を今までで一番緩め
「生きたいよね。」
と、呟いた。気づけば跨っていたはずの足も隣でおとなしくなっている。
「…。」
「ごめんね。どうしても憎くて。でも愛おしくて。」
どうすればいいのかも分からない。彼はそう言った。そう言うと大きな雨粒を目からポロポロ流し始めた。
「本当は君のことずっと知ってた。君がよくここにくるようになってから、ずっと見てた。君なら僕の生きる理由になると思っていた。」
泣きじゃくり彼は続けた。「でも君は死にたかったし、僕は誰かを殺したいと思ってたものだから利害が一致してしまって。それでも僕は君が愛おしくて殺すことができない。どうしてもできない。でも、殺したいんだ」
河川敷の土手に生える草をぶちぶちと引き抜きながら菅野さんは大きく目を見開いて涙を流していた。しかし直ぐに頭を抱えて草をむしるのをやめた。
「じゃあ俺のこと殺してくれないんですか」
「善処はするよ…。」
「俺は菅野さんじゃないと嫌です。」
俺は菅野さんに殺されないくらいなら菅野さん殺します。そう言った。菅野さんは豆鉄砲を食らったような顔をすると言った。
「僕も、紅くんじゃなきゃやだよ」
菅野さんはそういうと腰をたたいて体勢を直した。
「半年、まってくれないかな。それまでは紅くんといたいし、紅くんのこと知りたい。知ってからちゃんと殺してあげたいから」
俺は静かに笑い微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます