第4話
と、いうのが昨日の俺の身に起こった不思議な体験だった。まるで俺が俺じゃないような喋り方で菅野さんをみるみる追い込んでいく。そして菅野さんは俺の手を両手で大切に握り苦渋を飲むように本音を吐きだしたのだ。「殺したいんじゃなくてね、僕は殺してほしいって頼まれたから殺そうとしたんだよ」と。そこから。つらつらと出るわ出るわ。だから僕は悪くないんだと。目をそらして。汗を流して。怯えて。怯えて。俺に必死に弁明を求めた。哀れな人間だなと、そう思ってしまった。
俺は笑った。
「俺を殺して下さいよ。」
俺は優しく彼をなでた。
「あんたは悪くありませんよ。」
俺は何かに満たされた気がした。
「俺は好きですよ、菅野さん」
菅野さんの目は恐怖と後悔に溺れていたがそういうとすぐに安堵の表情を見せた。彼が可愛く見えたときだった。
何度脳内再生されたのか。
ベッドで蒸し暑いシャツをパタパタと揺らす。時計はもう午前を3時を指していた。
「また明日会おうこの時間、この場所で。」
菅野さんは夏とは思えないほど冷たい手で俺の頰に触れ、言った。
その言葉が脳裏を泳いで遠のいては近くなる。なんども思い出すあの時の支配と依存されたような表情がたまらなく愛おしくなった。
「菅野、さ…」
掠れた声と同時に目が細くなる。そしてとんでもないほどの多幸感に襲われ包まれてしまった。もう抜け出せない。
俺はその日は寝ないまま朝から河川敷へ自転車でいった。菅野さんは相変わらず首から一眼レフのカメラを下げにこやかに笑って待っていた。
「おはよ、紅くん。」
「おはようございます」
菅野さん。
そうこの人の名前を呼ぶだけでゾクゾクする。一人でに息が荒くなるし、ニヤケが止まらない。
「紅くん…?」
「あ、あはは。すが…いや、お兄さん、俺のこ、俺のこと、いつ。こ、殺してくれりゅ…くれるんです、か?」
どうしよう上手く喋られない。言葉がどうしても途切れて続かない。でも何か話さないと気まずくなりすぎる…。
菅野さんはその場に座り寝転び、
「ここいい寝心地だよ」
と俺の手を引いた。彼なりの気遣いが見えてわかる。彼の手に引かれるままゆっくり草原に寝転ぶと草の香りがして、目を瞑ると草を揺らす風の音が聞こえた。
「そうですね…」
いつも体験していることだけど誰かが隣にいるだけでこんなにも違うことに自分でもびっくりする。そのまま二人今日も寝ることになるな。そう思った。
その瞬間。
自分の腕力より強いであろう力が首にかかった。驚いて飛び起きようにも、そのちから以上に強すぎてかなわない。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
苦しいなかうっすらと目を開けた。
目の前にうつっていたのはカメラを下ろした菅野さんが俺にまたがりよだれを垂らし。
笑って首を絞める姿だった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます