第3話

天川手記3話



「ちょっと、菅野さん。どこにいくんですか。」

菅野さんがさっきから無言に鷲掴んだ手を強く引いて辞めない。足の歩幅も俺の二倍以上大きく、付いていくのが困難だ。

「あそこの橋の下に綺麗なとこがある。」

そういって目を先程より一層輝かせるともっと強く手を引く。

「あそこには目立って綺麗なものがないし、草原だらけだし入りたくありません。」

「綺麗だって。みてみなよ。」

「菅野さん!」

俺は大きく手を横に回し、払い、青くなりかけた腕を横目に流すと改めて口を開いた。

「俺をどこにつれていくつもりなんですか。」

自分でも菅野さんに対する恐怖が細く震えた声になっているのが分かる。

「どこって。」

彼は怪しくそして、柔らかに笑った。目の前に橋を支える太い橋脚が姿をみせる。その大きく白い橋脚の隅には小さな川が細々と流れていた、

「ここ。」

菅野さんは振り放された手を次は俺の手のひらを握り、ほら、と次は曇りのない笑顔を見せた。目の前には小さな石が反射して星の海が見えた。無論それは川であり天の川ではない。暑いこの季節には充分な涼みスポットで、何を変なことを妄想していたんだと俺は自分に落胆した。

「俺知ってるんですよ。」

ちりちりと頭のなかで花火が弾ける。普段歩いていなかったせいか、貧血気味になっている脳が一人でに話した。

「何が?」

「菅野さんが、どんな人だって。何をしたかって」

「…。」

何を言ってるんだ。何を言っているんだ。俺は。こんなこと言うなんて自殺も同然じゃないか。

「2年前、殺人未遂で逮捕されてますよね」

言ってしまった。

「…うん、そうだね」

しかし彼は意外とあっさり答えた。なぜお前が知っている…!殺してやる!みたいな台詞が飛んでくると思っていたのに。

「俺も殺しますか?」

俺は菅野さんに近づきカメラに触れた。優しく。優しく。

「馬鹿な」

「殺したいんでしょう、人を」

その手はカメラからカメラの紐へ、そして胸にまで登る。橋の下とはいえ電車のレールの間から漏れる光は暑い。

「紅くん…?」

菅野さんはたじろいたところか俺の目を見て怯えている。細かく動く唇が息を吸うのを妨害する。

「俺はね、別に必要とされてないし、頭悪いし、生きてて需要ないから死にたいと思うんだよね、だから菅野さんがちょうど俺の事さぁ」

一度そう途切るとわざと背伸びをして菅野さんの耳元で嘲笑して淡白な声で言う。

「殺してくれるかと思ったのに」

はうっあ…。菅野さんはそう情けない声を出すと膝から崩れ落ちた。

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