第2話

そんな波乱万丈な天川紅の新しい人生が切り開かれる瞬間であるにも関わらず、家でコーヒーをすする彼の父、忠(ただし)は母の裕子(ゆうこ)に紅の愚痴をこぼした。

「紅はもう少し立派な人間になれないのか」

裕子は家事の手を止め頭を上に曲げると

「紅にも考えがあるのよ、今はそっとしておきましょう。」

と納得のいかない様な声で呟いた。どちらも学校にはいってほしいものだ、と共に思っていたが口には出さなかった。それを彼に言ってしまうと追い詰める事になることを知っていたからだ。

「更生させる施設にでも連れて行くか」

「お父さん。」

「…すまない、だが私もどうしていいのか分からんのだ。」

忠はついに頭を抱え、机とにらめっこをし始めてしまった。

「紅にも紅なりの考えがあるから、親として見守りましょう。ね」

それを慰める様に裕子は微笑み、続けて言った。「菅野さんに協力してもらえるよう頼んだし、話しかけて貰うよう言ったし、きっと大丈夫よ。」

カウンセラーみたいなものだし、と裕子は笑う

「菅野…?」

ええそうよ。広いリビングに響くように父の頭に声が響いた。聞き覚えのある名前だ。

「それって、あの菅野沙耶か…?」

「?ええ、その子供なんだけれどもね」

みるみる忠の顔が青ざめていく。考察が終わると忠は裕子の両腕をひしと掴み、まるで神に助けを求めるような声で叫んだ。

「あ、あ、あいつに紅を委ねないでくれ!お願いだ!!」

泣き叫ぶそのだらしない姿に動揺しながら裕子は掴まれた腕を振り払い、逆に忠の腕を掴み大きく揺らした。

「お父さん、どうしたんですか!貴方はそんな取り乱す人じゃあないでしょ、しっかりして頂戴、何がいけないの!?」

「あいつぁ…あいつは駄目だ…」

震えた声は言う「あ、あいつは…一度そうやって他人の子供を殺し損ねて捕まってるんだ、二年前にな…。」

二人は顔を合わせ、ごくりと息を飲んだ。

「紅は今どこにいるの?」

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