ささやき戦術

「これ以上失態を見せるならば部署を移動させられる」


という脅しが、私に向かって発令されました。ただの脅しなのか、本気でやる気なのかはわかりませんが、どうやらバイト勢があまりにおしゃべりをしたりするなどしていたために目をつけられ、内部を入れ替えられる可能性が出てきたのです。しかも、誰が、どこの部署に左遷されるかなど一切の情報はないとのこと。これを聞くや隠者君も、


「それなら辞める、と言えば済む話に思えますが・・・

クーデターを起こしたら上の方たちはどうなることやら」


と呆れ顔の対症療法です。(クーデターなんて言葉を隠者君が口にすると恐ろしい)もっと主任をしっかりさせるとか、夜の監督を置くとかやり方があるでしょうがそうではなくバイトを左遷させるという上からの命令だそう。

とまれ、企業がいくらバカだと言ってもまあまあバイトにしては稼いでる方なので私も左遷(外れ部署などに配属されれば尚更)が現実味を帯びるとなると臨戦態勢に入らざるを得ません。事ここに至り、ちょっとした”策”を、仕掛けてみました。仕掛ける対象は、「二股でもいいから」発言で物議を醸した化け物女子大生の、側近の腹黒女子大生です。腹の内が読みづらい、したたかな人。この人に、エッフは悪魔のように忍び寄り、ささやきます。


「腹黒さん

初日、勤務した時に、他の男子や女子とバックルームで騒いだ記憶はあるかい」


「・・・ないですね」


「ふむ

もしかすると、その場に腹黒さんはいなかった可能性があるし、断言はできないのだけど

バイトがバックルームで騒いでいるのを店長に診られて、うちの部門の上司が注意されているらしいんだ

それで、もしこの状況が続くならバイトを別の部門に飛ばすかもしれないとさえ言っていた

だからあなたたちがもしバックルームで騒いでいたら注意するかもしれないけど、それは悪く思わないでくれ

とはいえこの職場にはブラックな部門もあって・・・せっかく来たのに、ブラックなところに飛ばされるのは流石にごめんでしょう?」


「そうですね」


「いくら性格が悪いとかなんとか言われようとかまわないから

腹黒さんには自分の利になるような行動をとってほしい、自分が評価されるような・・・

難しいかもしれないけど、

貴方はそういうのが得意な方でしょう・・・?」


腹黒女子大生は頷きながら


「はい。なんでですか」


と言っていました。なんでですかは恐らく、「なんでわかったんですか」の意でしょう。

私が腹黒女子大生が腹黒いという事に気づくのに時間はかからなかったのですが、その話はまたいつかということで。

嫌われてしまったかもしれませんが、やんわりと私語を諭すことができてちゃんと目を合わせて話してくれたので、嫌われたにせよ一目置かれたかもしれません。仕事が終わった後は隠者君と反乱を起こすとしたら・・・という恐るべき話をちょっとだけやったり・・・。ちょっと面白くなってきましたかね?





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