本当にこしゃくな代物、依り代のパワードスーツ(現代ファンタジー)(7600字)

 快晴のゴールデンウィーク初日、僕は河川敷にいた。

 抜けるような青空と爽やかなそよ風。

 絶え間なく聞こえてくる川のせせらぎは日常の喧噪を遠くに追いやってくれる。

 ああ、ここは別天地だな。たまにはこんな風にのんびりとした時間を過ごすのもいいものだ、なんて思っていた僕の気持ちは、有無を言わさず耳に入ってきた傍若無人な言葉によって一遍に元の日常へ引き戻されてしまった。


「おい、いつまでバカンス気分に浸っているんだ。始めるぞ」


 傍若無人な言葉を吐いたのは先輩だ。


 先輩は小学校で一学年上、中学校で一学年上、高校で一学年上、そして現在、大学では一学年上ではなく同級生である。先輩が一年浪人してしまったからだ。

 同級生を先輩と呼ぶのもおかしな話だが、小学校の頃からそう呼んでいるので、今更別の呼び方を考えるのも面倒くさい。先輩も「よせよ、同級生だろ」などと反論したりもしないので、そのまま呼んでいる。


「本当にやるんですか。効果があるようには見えないんですけど、これ」

「俺を信じろ。今回は自信作なのだ」


 大威張りで胸を張る先輩。事の発端は二週間前の日曜日にさかのぼる。

 その日、先輩のアパートで昼食を済ませた後、テレビで映画を鑑賞した。地球に襲来したエイリアン「ギタイ」と防衛軍の戦いを描いたSF作品だ。ハリウッド映画だが原作は日本のラノベらしい。


「うはっ、戦闘シーンの迫力、半端ないですね。それもこれも兵士たちが着用している機動スーツが凄いからでしょう。まるでロボットが戦っているみたいだ」

「ふっ、大げさだな。あんなのただの強化服だろ。現代の最先端科学技術を駆使すれば簡単に作り出せる程度のもんだ」


 いつものように大口を叩く先輩である。普段の僕ならば「はいはいそうですね」と言って聞き流すのだが、映画の感動を台無しにされた気がして、つい突っかかってしまった。


「へえ~、そんなに簡単なんですか。でもさすがに先輩ひとりでは作れないですよねえ」

「いや、俺ひとりで作れるぞ。あんなガラクタ服よりもっと性能のいいパワードスーツをな」

「言いましたね。じゃあ作ってくださいよ」

「おう、作ってやるとも。千円くれ」


 右手を差し出す先輩。千円は惜しいがここまで来たらこちらも引き下がれない。財布から千円札を取り出し先輩の手にのせた。


「約束ですよ。あの機動スーツより凄いのを作ってくださいよ」

「おう、すぐに作ってやる。待っていろ」


 そうして二週間が経過した今日、ついに自称「世界最強パワードスーツby先輩」が完成したのである。


「ここは巨石がゴロゴロしている。スーツの性能を検証するにはもってこいの場所だ」


 僕と先輩がいるのはアパートから自転車で三十分ほどの河川敷だ。巨岩は言いすぎだが、それでも城の石垣に使えそうな大岩があっちこっちに転がっている。どれもこれも余裕で百kgはありそうだ。


「では始めようか。まずはスーツを着用せずこの岩を持ち上げてみろ。軽すぎては検証できんからな」

「いや見ただけで持ち上げるのは無理だってわかりますよ。余計な体力を使わせないでください」

「馬鹿者。憶測で物事を判断してはいかんといつも言っているだろう。いいからトライしてみろ」


 仕方なく大岩に手を掛けて力を入れる。ビクともしない。


「ほら、無理でしょう」

「よし。次はスーツを着用してやってみろ。簡単に持ち上がるはずだ」

「でもあの、これ本当にパワードスーツなんですか」

「そうだ。紛れもなくパワードスーツだ」


 とてもそうは思えなかった。なにしろ手も足も胴体も頭も全てダンボールでできているのだから。どこからどう見ても幼稚園の玄関に立っていそうな園児手作りのダンボールロボットである。


「やっとわかりましたよ。スーパーへ行くたびに『自由にご利用ください』って書いてあるダンボールを大量に持ち帰っていた理由が。これを作るためだったんですね」

「そうだ。なにしろ予算が千円だからな。材料に金はかけられん」

「それで、これどんな仕掛けなんですか。駆動装置とか電源とかワイヤーとか全然見当たらないし、そもそも金属部分がまったく存在していないじゃないですか。十kgの米袋をのせただけで潰れるでしょう、これ」

「うるさいな。説明は後だ。早く着て早く持ち上げろ」


 急かす先輩。渋々ダンボールを身に着ける。両足、胴体、両腕、最後に両目と口の部分に穴が開いたダンボールをかぶって準備完了だ。


「さあ、やれ!」

「ふん!」


 大岩はビクともしない。当たり前だ。こんなものをパワードスーツと言い張る先輩の厚顔無恥が情けなくなる。


「ダメです。今回も失敗ですね」

「いや、これはまだ完成していない。これからが本番なのだ。はあ~、ノウマク、サマンタ、サムソン、ソワカ、きえええー!」


 奇怪な言葉を発しながら先輩がダンボールを叩いた。あくまでも自分の失敗を認めたくないのだろう。実に見苦しい。


「先輩、もういいですよ。千円でパワードスーツが作れるはずないんですから。脱ぎますよ」

「待て。今、この瞬間にスーツは完成した。もう一度持ち上げてみろ」

「いや、だからもういいですって。時間の無駄です」

「いいからやれ!」


 強情だなあ。何度やっても同じなのにと思いながら岩に手を掛け力を入れる。


「あれ?」


 信じられないことが起きた。大岩が軽々と持ち上がったのだ。


「うむ、成功だな。ははは、どうだ俺のパワードスーツは」

「い、いったい何が起きたんですか。どんな原理でダンボールにこんな力が出せるんですか」

「簡単だ。このスーツは魂を宿すことができるのだ。一種のしろだな。俺は今、怪力サムソンの魂を召喚し、このスーツに宿らせた。そのおかげでサムソンと同等のパワーを発揮できるようになったというわけだ」


 怪力サムソン、旧約聖書に登場する古代イスラエル人。ロバの骨だけで千人を打ち殺した怪人だ。

 それにしても小癪なパワードスーツだな、動作原理が魂を宿らせることだなんて。しかも科学技術は全然関係ないじゃないか。先輩も妙な特技を持っているもんだ。


「おい、今度は大岩二個でお手玉遊びをしてみろ」


 言われるままに二個の岩を交互に放り投げてキャッチする。まるで重さを感じない。感動が込み上げてきた。


「す、凄いですよこのスーツ。間違いなく先輩の最高傑作です。大量生産すれば僕らは大金持ちになれ、え、なに? 急に重く、あ、あれ、うわあー」


 何が起きたのだろう。いきなり岩が重くなった。二個の岩を胸に抱いたまま仰向けに倒れそうだ。


「おっと、危ない」


 先輩の声。腕から岩の重さがなくなった。頭のダンボールを取ると大岩を持って先輩が立っている。


「ふうむ、やはりあのウワサは本当だったのか」

「ウワサ? 何のことですか。いやそれよりもどうして急に力がなくなったんですか」

「髪を切ったからだ。おまえはダンボールをかぶっていたから見えなかっただろうが、サムソンの魂を召喚したら頭部のパーツに髪の毛が生えたのだ。で、その髪の毛をむしってみたら怪力が消滅してしまったというわけだ。ついでにサムソンの魂もどこかへ行ってしまったようだな」


 ああ、そうか。サムソンの怪力の秘密は髪の毛にある。生れてから一度も髪を切らなかったのに悪女デリラに切られた途端、神の力を失ったんだっけ。


「どうしてそんな危険なことをするんですか。ウワサを確かめたいんなら岩を持っていない時にしてくださいよ」

「それじゃ怪力が消えたかどうかわからんだろ。まあいいじゃないか。ケガはなかったんだし、はっはっは」


 笑いながら両手に持った大岩を放り投げる先輩。パワードスーツなしでもあの岩を持てる先輩の怪力が恐ろしくなる。


「さてと、では次の実験に移るか」

「まだやるんですか。今度は何を持ち上げるんですか」

「パワーの実験は終了だ。今度は、そうだな、水中での動作を検証してみるか。おい、頭のダンボールをかぶれ」


 言われるままに再度スーツを装着すると先輩が呪文を唱えだした。


「はあああ~、かっぱかっぱ、こっちのキュウリは甘いぞかっぱ。来ないとかっぱの川流れ、きえええー!」


 訊くまでもない。今度は河童の魂を宿らせたようだ。


「よし、さっそく検証だ。川に入って泳いでみろ」

「でもこれ紙製ですよ。濡れたら破れるんじゃないですか」

「案ずるな。河童の魂が宿った瞬間、このスーツは水に対して無敵になったはずだ。さあやれ!」


 半信半疑で川に入る。ダンボールに変化はない。防水加工された合羽を着ているみたいだ。


「おい、いつまで川の中に突っ立っているつもりだ。おまえは河童なのだ。泳いでみろ」

「はい」


 流れに身を横たえる。何もしていないのに動き始めた。それも上流に向かってだ。


「うわあ、これは便利ですね。しかも凄いスピード、時速三十㎞くらい出てるんじゃないですか。もう船は必要ありませんね」

「さすが河童だな」


 驚いた。知らぬ間に先輩も僕と同じ速度で横に並んで泳いでいる。競泳選手でさえ時速十㎞も出せないのに、先輩の身体能力はどうなっているんだ。


「ああ、気持ちいいなあ。夏休みになったら大海原を思いっ切り、うっ、ごほっ、ごほごほ」


 なんてこった。スーツの中に水が入ってきた。いつの間にか僕の体はびしょ濡れになっている。


「先輩、水が、水が中に入ってきました」

「そりゃ入るだろ。スーツは隙間だらけだし頭部のパーツには穴も開いているんだから。だが大丈夫。お前の体はびしょ濡れでもスーツは絶対に濡れない」

「息が、できない、苦しい」


 スーツが大丈夫でも僕は全然大丈夫じゃない。頭のダンボールを取り外すこともできない。まずい、このままでは間違いなくおぼれ死ぬ。


「助けて、たす、け……」

「ちっ、情けない奴め」


 急に体が浮かび上がった。頭部のダンボールが外される。目の前には青空。口を大きく開いて息を吸う。


「ほれ、助けてやったぞ。しかし情けないやつだな。息なんか一時間くらい止めたって死にはしないだろう」

「先輩基準で考えないでください。それよりも早く河川敷まで連れて行ってくださいよ」


 先輩に抱きかかえられたまま川岸に戻る。ダンボールは濡れていないが僕の服はびしょびしょだ。


「はっくしょん。うう、寒い。先輩なんとかしてくださいよ。風邪をひきそうです」

「うむ、ならばこのスーツでなんとかしてみよう。おい、頭のダンボールをかぶれ」


 言われるままに再度スーツを装着すると先輩が呪文を唱えだした。


「はあああ~、ふうじんふうじんシナツヒコ、風の又三郎は熱風を吹かせたまえ、きえええー!」


 ふうじん……風神のことだろうか。きっと風に関係する魂を召喚したんだろうなと思う間もなくダンボールに温もりを感じ始めた。


「おお、急に暖風が吹いてきましたよ、先輩」

「うむ。これで服も乾くだろう」

「先輩、風に乗って体が浮かび上がりましたよ」

「風の精霊だからな。空を飛ぶことくらい朝飯前だ」


 浮いていた。ダンボールと一緒に僕の体は宙を舞っていた。まるで風になったような気分だ。


「ああ、気持ちいいなあ。秋になったら高原の澄んだ空気の中を飛び回りた、えっ、急に高度が!」


 どうしたことだろう。さっきまで風のように空を飛んでいたのに、まるで急降下爆撃機のように落下し始めたのだ。


「落ちる、先輩、助けて!」

「ちっ、情けない奴め」


 降下速度が緩やかになった。先輩が受け止めてくれたのだ。と言っても地上までまだ五mくらいある。先輩がジャンプして抱きかかえてくれたのだろう。走り高跳び選手も顔面蒼白なジャンプ力だ。


「は~、助かった。危うく転落死するところでした。それにしてもどうしていきなり落ち始めたんだろう」

「完全な無風状態になったからだ。その瞬間、風の精霊の魂は帰還し、ただのダンボールになってしまったんだ」


 なるほど。このスーツ、素晴らしい発明品だと思っていたけどそうでもないようだな。克服すべき欠点は山積みのようだ。


 ――ウーウーウー、カンカンカン!


 遠くから消防車の音が聞こえてきた。遠くには煙も見える。


「火事だ! 先輩、火事ですよ」

「言われなくてもわかる。おい、俺たちも現場に急行だ。このスーツが役に立つかもしれん」

「そうですね。行ってみましょう」


 直ちに韋駄天の魂を召喚。スーツを着用した僕は駆け足で、先輩は自分の自転車と僕の自転車の両方にまたがって、煙を噴き上げている場所へ向かう。

 韋駄天スーツはとんでもなく速かった。時速八十㎞は出ていた。そして先輩の自転車もそれと同じくらいのスピードが出ていた。先輩の脚力、異常すぎる。


「うわあ、盛大に燃えてますね」


 僕らが現場に到着した時にはすでに消火作業が始まっていた。燃えているのは保育園。避難してきた園児や保育士が手当てを受けている。休日保育ということもあり園児の人数は少ない。今日が平日でなかったのが不幸中の幸いだな。


「大変、ボケ太君の姿が見当たらないわ」


 保育士のひとりがうろたえている。どうやら逃げ遅れた園児がいるようだ。


「お願い、誰かボケ太君を助けて!」

「いや、しかしこの火勢では」


 消防士の絶望に満ちた声。園舎は完全に火に包まれている。いくら熟練のレスキュー隊でもこの中へ突入するのは無理だろう。だが、


「おい、どうやら俺たちの出番のようだ。頭部のダンボールをかぶれ」

「はい。お願いします、先輩」


 さっそくスーツを装着すると先輩が呪文を唱えだした。


「はあああ~、灼熱のサラマンダーよ蜥蜴とかげよ、燃え盛る業火こそがおまえの住処。出でよ炎の申し子よ、きえええー!」


 今度はサラマンダーか。まあ順当な魂だろうな。


「準備はできた。行け! そしてボケ太を救え!」

「はい!」

「ちょ、ちょっと君、待ちなさい」


 消防士の制止を振り払って僕は園舎に飛び込んだ。ダンボールに変化はない。さすがサラマンダー。この程度の炎では燃えるどころか焦げ目ひとつ付かないようだ。


「あっ、いた」


 どうやらお昼寝の時間だったらしい。ひとりの園児が布団をかぶって眠っている。こいつがボケ太だな。この火の中でも平然と寝ていられるとはかなりの大物だ。


「さて、ここからどうやって避難しよう」


 燃え盛る火の中を通らねば外へは出られない。しかしそんなことをすればボケ太は焼け死んでしまう。ダンボールにこいつを入れるだけの空間はない。考えていると先輩の声が聞こえてきた。


「おい、窓を割るからそこからボケ太を外へ投げ出せ」

「えっ、どうして声が聞こえるんですか」

「通信機能くらい取り付けてあるに決まっているだろう。それよりも早くしろ。そこにもすぐ火が回るぞ」

「でも、園児を窓の外に放り投げるなんて無理ですよ」

「仕方ない。ならば奥義『複数召喚術』を使うか。はあああ~、必中の宿命を背負いし槍よ、今こそその力を見せつけるがいい。来たれゲイボルグ! きええええー!」


 ゲイボルグって確か槍だよな。槍の魂を召喚したってことか。何でもありだな、このスーツ。


「よし、これでボケ太を適当に投げても絶対に俺の腕に着地する。窓が割れたら投げろ」

「はい」

 返事をする間もなく窓が割れた。そこ目掛けてボケ太を投げると吸い込まれるように窓の外へ消えていった。


「やれやれ成功したみたいだな。さあ僕も帰ろうっと。あれ、何だか急に暑くなってきた」


 またも異常事態発生だ。全身が焼けるように暑い、と言うか熱い。


「先輩、どうなっているんですか。暑くてたまりません」

「そうだろうな。本来スーツにはひとつの魂しか宿らせられない。しかし無理やり二つの魂を宿らせたため、反発した魂は強制的に帰還してしまったのだ」

「えっ、じゃあ今このスーツは……」

「うむ、ただのダンボールだ」


 顔面蒼白になった。いや顔は火照っている。汗が噴き出している。吸い込んだ熱風が喉を焼く。


「冗談じゃないですよ。すぐ別の魂を宿らせてください」

「それは無理だ。複数召喚という禁忌を犯してしまうと、ペナルティとして七週間召喚不能になってしまうのだ。自力で帰ってこい」

「無理ですよ。こんな炎の中を歩けるわけないでしょう」

「情けない。それでも俺の後輩か。死にたくなければ頑張れ」


 ああ、なんてこった。熱にやられて頭がクラクラする。もう立っていられない。どうやら僕はここまでのようだ。


「おい、そんな所で寝るんじゃない。聞いているのか、おい、寝るな」


 先輩の声が遠くに聞こえる。こんなことなら貯金を全部使って高級ホテルのフルコースディナーを食べておけばよかった。後悔先に立たずだな。


「先輩、さようなら。両親には先立つ不孝をお許しくださいと伝えてください」


 僕は目を閉じた。なんだか情けない最期だけど人助けをして死ぬんだから無駄死にってことはないだろう。


「ちっ、情けない奴め」


 体がふわふわする。呼吸も楽になってきたし熱も感じなくなってきた。これが死ぬってことなのかな。まあどうでもいいや。


「ほれ、助けてやったぞ」


 これは天使の声かな。薄っすらと目を開けると先輩によく似た顔が目の前にあった。覚えているのはそこまでだ。


 * * *


 気が付くと僕は病院のベッドの上にいた。その後、看護師、医師、消防士、警察、どっかのマスコミの人などから入手した情報によると、僕は先輩によって救出されたらしい。


「驚いたよ、あの青年。バケツの水をかぶっただけで園舎に入り、君を抱きかかえて出て来たんだからな。最初から君じゃなくあの青年が助けに行けばよかったのにって皆で大笑いさ。ああ、それからボケ太君はケガもなく元気だよ」


 僕は両手に火傷を負っていたがたいしたことはなく翌日退院した。ボケ太君の両親からすごく感謝されたのがとても嬉しかった。


「やれやれ、たかがあの程度の火で気絶するとはなあ。おまえ、もう少し体を鍛えたほうがいいぞ」


 先輩の毒舌は相変わらずだ。誰のせいであんな目に遭ったんだと文句を言いたくなったがやめておいた。一応、命の恩人でもあるわけだし。


「それで先輩、あのパワードスーツはどうなったんですか」

「燃えたよ。完全に灰になっちまった。もう作る気はない。長所より短所のほうが多いからな。常人にはとても使いこなせないだろう」


 いい判断だ。先輩がいなければ僕は何度死んでいたかわからない。殺人スーツと言ってもいいくらいだ。


「しかし先輩の身体能力って凄いですね。あのスーツと同等の力を発揮していたじゃないですか」

「そうか? まあ俺の身に何かが宿っているような気はするんだ。しかしそれは俺自身ではどうにもできないことだからな」


 ああ、そうだった。先輩は魔王クロノス・パワードの魂を宿しているんだっけ。イベリコ豚と大豆とブドウを食べなくても能力が発揮されることもあるんだな。でもそれは先輩には黙っておこう。






 このお話とよく似た題名の作品「本当はこわい話9 白のパスワード」は、

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881838525

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