子どもラジオ電話相談(ウンコ)(3700字)

 この作品にはとてもお下品な表現が多数登場いたしますので、そーゆーのが苦手な方は十分注意してお読みください。

 特に食事中の方にとっては大変危険な代物です。食べ終わってから読むことをお勧めします。



 カチッ(ラジオのスイッチON)


 ♪ぺーペぽぺぺぽー、ぺーぺぽぺぺぽー、ぺぽぺぽぺぽぺぽぺぺぺぽぺー。(オープニング曲)


「みなさんこんにちは。子どもラジオ電話相談夏休みスペシャルの時間です。今日のテーマは体の不思議です。回答していただく先生ですが、当初予定していた人体謎だらけ博物館館長のよくカラン先生は都合が悪くなりましたので、急きょ日本腸類研究所所長、運来うんこイスキ先生に来ていただきました。運来うんこ先生、よろしくお願いします」

「五分前に呼び出されてびっくりしています。本日は一所懸命フン張ってお答えしたいと思います」

「質問は電話の他に番組のホームページでも受け付けています。メールフォームから送信してください。それではさっそく電話をつないでいきましょう。最初のお友達です。こんにちは」

「こんにちわあ」

「お名前と学年を教えてください」

丹御においキニナル、3年生です」

「はい。ニナルさんはどんなことが訊きたいのかな」

「ウンコはどうして臭いのですか」

「えっ……」


(ちょっと、どうしてこんな質問を選んだのよ)司会のお姉さん、小声で文句を言いながらスタッフを睨み付ける。


「えっと、ウンコは臭いですよねえ。ニナルさんは毎日ウンコをしていますか」

「時々しない日もあります」

「そうですか。出ない日もありますよね。先生、回答をお願いします」

「ウンコは確かに臭いです。それには理由があります。他の食物と明確に区別するためです。考えてもみてください。もしウンコがフランスの最高級三ツ星レストランの高級スイーツのように甘くかぐわしい匂いを発していたらどうなるでしょう。『こ、これはきっと御馳走に違いない』と誰もが思い込み、口に入れてしまうのではないでしょうか」

「すみません先生。子どもにもわかるように簡単な言葉で答えてください」

「あっ、えっ、そうですね。まあ要するにお菓子と思ってウンコを食べないようにウンコは臭いのです。いえ、別にウンコを食べるのはいいんですよ。ただお菓子と勘違いしてウンコを食べる行為が許せないのです」

「え、ええっと、つまりウンコを食べないように臭いのですね」

「いえ、そうではなく、ウンコを食べるのならその臭気もまた楽しむべきだと申し上げ、ムグッ……」


 司会のお姉さん、運来田先生の口を強引にふさぐ。


「ニナルさん、わかりましたか」

「はい。わかりました」

「今日は質問をしてくれてありがとう。さようなら」

「さようならあ」


 ガチャ。


(先生、常識外れの回答は慎んでください)司会のお姉さんは小声で文句を言う。少し怒っているようだ。運来田先生は首を傾げている。


「それでは次のお友達です。こんにちは」

「こんにちわあ」

「お名前と学年を教えてください」

華麗井かれーイノチ。6年生です」

「はい。ノチ君の質問は何ですか」

「どうしてカレーとウンコは色が似ているんですか」

「えっ……」


(またウンコの質問じゃない。いい加減にして)司会のお姉さん、かなり機嫌が悪い。


「えっと、カレーもウンコも黄土おうど色ですよね。ノチ君は二つが似ていて困ったことはあるのかな」

「はい、あります」

「それはどんなことなのかな」

「ウチは猫を飼っているんですけど、ある日猫の餌皿にカレースープが入っていたんです。あれ、猫ってカレーを食べても大丈夫なのかなと思いつつも凄くおいしそうだったので、飲み干してやろうと顔を近づけたところウンコだとわかりました。それはカレースープではなく猫の下痢便だったのです」

「あらあら、うっかりウンコを口に入れてしまうところだったのね。では運来田先生、回答をお願いします」


(今度は真面目に答えてくださいね)司会のお姉さん、小声で釘を刺す。


「はい。ウンコとカレーの色が似ている理由は簡単です。ウンコはカレー同様とてもおいしい食べ物だからです」

「先生っ!」


 司会のお姉さんは口をふさごうとするが運来田先生は素早くその手をつかみ取る。


「カラリと揚がったトンカツ、ほかほかのホットケーキ、パリパリのポテトチップス。みんなウンコ色をしているでしょう。つまりウンコ色は美味なるものを代表する色なのです。当然ウンコもおいしいです。ノチ君、今度は猫のウンコではなく人間のウンコに挑戦してみてください」

「はい、わかりました」

「ノチ君、ちょっと待って。今日の先生は少しおかしいみたいなの。ウンコは口にするものじゃないのよ」

「えっ、そうなんですか」

「そうなのよ。だからノチ君も絶対に食べちゃダメよ」

「いや違う。ウンコは食べても……」

「先生は黙っていてください!」


 司会のお姉さんの圧倒的な剣幕に押され、運来田先生は口を閉ざしてしまう。


「はい、それでは質問を終わります。ノチ君、今日はありがとう。さようなら」

「さようならあ」


 ガチャ。


「先生、これ以上不埒ふらちな回答を続けるつもりならこちらにも考えがありますからね。覚悟してください。それからあんたたち、もう少しマシな質問を選びなさい!」


 怒りが頂点に達しているのかマイクに入るような大声で運来田先生とスタッフを叱り飛ばすお姉さん。その顔は般若のように恐ろしい。


「それでは次のお友達です。こんにちは」

「こんにちわあ」

「お名前と学年を教えてください」

鮟鱇あんこウメエ。4年生です」

「はい。メエさんの質問は何ですか」

「どうしてアンコとウンコは言葉が似ているんですか」

「えっ……ちょっと何回ウンコを持ち出せば気が済むのよ。もうウンザリだわ」


 司会のお姉さん、机をドンと叩く。いよいよ物に当たり始めた。しかも口を尖らせたまま何も言わない。仕方がないので運来田先生が話をつなぐ。


「ふむ、メエさんは二つの言葉が似ていることで何か困ったことがあるのですか」

「あります」

「どんなことですか」

「あたしはアンコが大好きです。ある日町へ遊びに行って見知らぬ店の前を通った時、『アンコ最中もなか1個10円』という看板が目に入りました。これは買わなくちゃと思って3個買って家に持ち帰りました」

「ふむふむ、それで」

「あたしの好きなのはアンコで、最中の皮は好きじゃないんです。それでアンコだけ食べようと最中を割ったらアンコの色が黄色いんです。そう、それはアンコではなくウンコでした。変だなあと思って包み紙をよく見ると『アンコ最中』ではなく『ウンコ最中』と書かれていました。言葉がよく似ているので見間違えちゃったのです」

「そうですか。それはラッキーでしたね」


 司会のお姉さんの眉がピクリと動いた。しかし何も言わない。完全にヤル気を失くしている。


「もしかしてその最中を売っていた店の名は『運来田和菓子店』ではありませんか」

「ええ、はい。確かそんな名前だったような気がします」

「ふふ、何を隠そう、その店は私が経営しているのです。ウンコを世間に広めるために5年前に設立しました。メエさん、その最中は食べても大丈夫です。どんどん食べなさい」

「はい、わかりました」

「黙りなさい、この変態!」


 司会のお姉さんが大声をあげた。清楚な面影は微塵もない。もはや別人だ。


「ウンコなんか食えるわけないでしょ。アホ言ってんじゃないわよ。糞食らえ、このバカタレが」

「馬鹿を言っているのはあなたの方です。ウンコは極めて有効な食物なのですよ。コアラの糞は離乳食。ウサギの糞はビタミン摂取。人糞を原料にした漢方薬だってあります。見なさい。ここに持って来たのは人のウンコから精製された薬、人中黄じんちゅうおうです」


 運来田先生は懐から黄土色の物体を数個取り出して机に置いた。


「言うまでもなく原料は私のウンコです」

「いやあー!」


 悲鳴を上げて録音ブースから飛び出す司会のお姉さん。運来田先生は清々した顔で話を続ける。


「ですからね、メエさん。これからはアンコと同じようにウンコも味わってくだ……おい、君たち、何をするんだ」


 突然録音ブースに雪崩れ込んできた数名のスタッフ。運来田先生の手足を拘束する。


「放せ、こら、痛いじゃないか。ああ何をするつもりだ。それは私のウンコだぞ。やめろ、暴力反対。話せばわかる……」


 強引にブースから排出される運来田先生。スタッフの一人がマイクに向かう。


「メエさん。今聞いたことは全部忘れてね。ウンコは食べちゃダメだよ」

「はい。わかりました」

「今日は質問してくれてありがとう。さようなら」

「さようならあ」


 ガチャ。


 ……

 しばらく沈黙。

 ……


「失礼しました。この時間は予定を変更してモーツァルトの楽曲を放送します。なお子ども電話相談は日を改めて放送します。ご了承ください。では最初の曲です。ケッヘル231、6声のカノン『俺の尻をなめろ』変ロ長調。今回は日本語訳でお楽しみください。どうぞ」


 ♪俺の尻をなめろおー

 ♪愉快にやろうぜえー

 ♪不平不満は無駄無駄無……


 カチッ(ラジオのスイッチOFF)




 ※作者注

 この作品はフィクションであり登場する人物、団体名は全て架空のものです。N〇Kの「子ども科学電話相談」にすっごく似ていますが全然関係ありません。よろしくお願いします。

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