本当にこわくない先輩 だましたはずが、だませてない(現代ドラマ)(7500字)


 1


「よろしければ一緒にお食事をしていただけませんか」


 あまりにも唐突なお誘いだった。冬休み気分に浮かれ始めた師走下旬の放課後、先輩と二人で学食横売店の肉まんを半分こして食べていたら、いきなりカワイイ女子から声を掛けられたのだ。


 一緒に肉まんを食べている先輩は小学校で一学年上、中学校で一学年上、高校で一学年上、そして現在、大学では一学年上ではなく同級生である。先輩が一年浪人してしまったからだ。

 同級生を先輩と呼ぶのもおかしな話だが、小学校の頃からそう呼んでいるので、今更別の呼び方を考えるのも面倒くさい。先輩も「よせよ、同級生だろ」などと反論したりもしないので、そのまま呼んでいる。


 当然の話だが僕も先輩も女性にはまったく縁がない。そんな二人にいきなり、しかも結構な美少女に声を掛けられたのだから驚いて肉まんが喉につかえてしまった。


「うぐっ、ごほごほ、いや急にそんなことを言われても……」

「いいぞ。一緒に食事をしてやる。腹いっぱい食わせろ」


 僕と違って先輩は平常心を保っている。『お食事』という単語に全神経が集中しているようだ。


「あ、いえ、その……」


 先輩の即答に戸惑う美少女。よく見るとその顔には見覚えがある。


「君、確か僕と同じ学科の人だよね」

「はい」


 やはりそうか。講義室でちょくちょく見掛けるあのだ。僕の選択した学科は文系の中でも特に女子が多い。男子は2割くらいしかいない。


「なんだ、おまえの知り合いか」

「知り合いというほどの仲じゃないですよ。会話をしたのはこれが初めてなんですから」


 先輩は理系だ。彼女を知らなくて当然である。


「それでどんな理由で僕を食事に誘ったの?」

「実は……」


 彼女の話は単純明快だった。仲良しの女友達とクリスマスイブにディナーの予約をしたが急に用事ができて行けなくなった。今からキャンセルしても払い込んだ料金は8割没収される。親しい友人は全て予定が埋まっていて代役は見つからない。どうしようか困っていると偶然僕らの会話が耳に入ってきた。


「さきほどまでクリスマスイブの予定を話していましたよね。クリスマスケーキは高くて買えないから4丁の豆腐に4つの梅干しをのせてイチゴクリスマスケーキの代わりにしようとか何とか。それが私の胸を打ったのです。ケーキを買うお金もない不幸なあなたを救ってあげたい。行けなくなった友人の代役としてあなたほど相応しい人物はいない、そう感じたのです」


 くそっ、恥ずかしい会話を聞かれてしまったか。梅干し豆腐ケーキだって意外と美味しいんだぞ。ヘルシーだし。


「なるほど。事情は飲み込めた。ならばその役目は我々が引き受けよう。安心してディナーチケットを二枚渡すがよい」


 先輩が手を差し出す。またも戸惑う美少女。


「いえ、あの、あなたたちお二人にお譲りするのではなくて、私と一緒に食事をしていただける方を探しているのです」

「そうか。ならば俺が行こう。こいつにディナーなんか食わせたら腹を壊すからな」

「えっ、でも見ず知らずの方とお食事は……」


 そう言いながら捨てられた子猫のような瞳でこちらを見つめる美少女。こうなっては助け船を出さないわけにはいかない。


「先輩、この人が声を掛けたのは僕です。誘っているのも僕です。だから食事は僕が行きます。それでいいよね」

「はい。ありがとうございます。それではクリスマスイブの午後6時、駅前広場でお待ちしています」


 美少女は深々と頭を下げて足早に去っていった。呆気に取られた顔で見送る先輩。


「つまり何だ、今年のクリスマスイブは俺一人で梅干し豆腐ケーキを食わねばならない、そういうことなのか」

「はい。どうやらそのようです」

「仕方あるまい。しかし慈悲深いおまえのことだ。俺のために保存容器を持参し、ディナーで提供される料理の半分をそこに詰めて持ち帰ってくれるのだろう。期待して待っているぞ」

「えっ! ま、まあ、善処します」


 と答えてみたもののそんな恥ずかしい真似はとてもできない。だからと言って手ぶらで帰ったら機嫌を悪くするだろうし、帰りにスーパーのお惣菜でも買っていくか。どこまでもワガママな先輩だ。


 2


 かなり緊張していた。クリスマスイブに女子と二人で街を歩くなどという行為は初体験である。しかも化粧と衣装のせいだろうか、彼女の美少女レベルは先日に比べると格段にアップしている。こちらは一張羅のジャケットとセーターを着てきたが、どう考えても不釣り合いだ。


「来てくださって本当に嬉しいです。クラスの集まりとかコンパとかイベントとか全然参加していただけないでしょう。ですから今回も断られると思っていたのです」


 ああ、他の学生はみんな僕のことを『付き合いの悪い男』と思っているんだろうな。無駄な出費は控えたいし、それ以上に他人との交流が嫌いなだけさ。先輩の他に友人と呼べる存在は皆無だからな。


「もし先輩、じゃなくて僕と一緒にいたあの人が傍若無人な振る舞いをしなかったら、せっかくのお誘いも断っていたと思うよ。あのままじゃ君が気の毒だから、まあ、仕方なく引き受けたって感じかな」

「それならあの方にお礼を言わなくてはいけませんね。うふふ」


 先輩にお礼だって。これはまた随分とお人好しな性格だな。そんな考えでは社会に出た途端、悪い奴らに騙されるぞ。


「ほうほうクリスマスイブにデートかね。羨ましいアベックじゃのう」


 背後から老人のようにしゃがれた声が聞こえてきた。アベックっていつの時代の言葉だよと思いながら振り向いた僕は全身が凍り付いた。

 ドテラを羽織り白いあごひげを生やしているが、どこからどう見ても先輩である。こんな所で老人の振りなんかして何を考えているんだろう。


「もしかしたらこれからお洒落なレストランでディナーでも楽しむつもりなのではないかな」

「そうですよ。先輩だって知っているでしょう」

「先輩? はて、誰のことかな。さっぱりわからぬ」


 どうやら正体はバレていないと思っているようだ。こんな変装で騙せると本気で信じているところが実に先輩である。仕方ないので騙された振りをしてあげるか。


「まさかお爺さん、付いて来る気じゃないでしょうね」

「いやいや、そんな無粋な真似はせぬよ。それよりも大切なのはお土産じゃ。ほれ、これを持って行きなされ。ここに御馳走をたくさん詰め込んでお土産として持って帰れば必ずや天からの祝福があろうぞ」


 老人に扮した先輩は巨大なタッパーを僕に押し付けると、足早に夕暮れの街へ消えていった。


「今の人って、先日一緒に肉まんを食べていたあの人ですよね」


 美少女も気づいていたか。まあ当然ではあるが。


「うん。僕の幼馴染で一年上だけど今は同級生の先輩なんだ。唯一の親友と言える人物かな」

「素敵な方ですね。あれほどの好人物にはなかなか出会えません。良いお友達をお持ちですね」


 先輩が好人物だって。何を言ってるんだこの娘は。人を見る目が無さすぎるぞ。本気で将来が心配になってきた。


「ヒューヒュー、お熱いなあ、そこのお二人さん」


 背後から中学生のようなからかいの言葉が聞こえてきた。嫌な予感に襲われながら振り向いた僕はあまりの馬鹿馬鹿しさに全身脱力状態に陥った。

 今度は詰襟の学生服を身に着けた先輩が立っていた。中学生に変装しているつもりのようだ。こんなもの、どこから引っ張り出してきたんだ。


「ああ熱い熱い。こっちまで汗が吹き出しちゃうよ。ねえねえ、もしかしてこれからディナーでも楽しむつもり? いいなあ。羨ましいなあ」

「羨ましくても付いて来るなよ。中学生は家でおとなしくケーキでも食べていなさい」


 今回も騙された振りをしてやるか。きっと一人だけ仲間外れにされて寂しいんだろうな。構って欲しい気持ちはわからないでもない。


「そんな失礼なことはしないよ、それよりも大切なのはお土産なんだよ。ほら、これを持って行きなよ。ここに御馳走をたくさん詰め込んでお土産として持って帰れば必ずや天からの祝福があろうぞ」


 おい、最後が老人言葉になっているじゃないか。さっきの演技とごっちゃになっているぞ。


「バイバーイ!」


 またも巨大なタッパーを僕に押し付けると、中学生に扮した先輩は足早に夕暮れの街へ消えていった。


「どう、これでも好人物だって言える?」

「もちろんです。だからこそ今日まで友人付き合いをしてきたのでしょう。良い人でなければ長続きするはずがありません」


 むむっ、そう言われると反論できないな。考えてみれば不思議だ。ズボラで横柄で頑固で屁理屈ばかりな先輩と、どうして僕は仲良くしているんだろう。もっとマシな人物は周囲にたくさんいるのに。


「あら~、そこのお二人さん、お似合いのカップルねえ」


 背後からゲイバーのママさんみたいな声が聞こえてきた。二度あることは三度あるのことわざを思い出しながら振り向くと、案の定、今度は女装した先輩が立っていた。スカートの下に見えるすね毛に覆われた生足が気持ち悪い。


「クリスマスイブに男女が向かう先と言えば高級料亭のディナーしかないわよね。あたしもお腹ペコペコよ」

「ああ、そうですか」


 真面目に答えるのが馬鹿らしくなってきた。クリスマスイブに高級料亭は合わないような気がするぞ。


「そんな時に大切なのは、お・み・や・げ。はい、これ持って行ってちょうだい。ここに御馳走をたくさん詰め込んでお土産として持って帰れば必ずや天からの祝福があろうぞ」


 だから最後が老人言葉になっているって。これで本当に騙せていると思っているんだろうか。先輩の思考回路はどうなっているんだ。


「じゃあねえ~、帰りはホテルなんか寄らずにまっすぐ帰るのよ」


 またも巨大タッパーを僕に押し付けると、ゲイバーのママさんに扮した先輩は夕暮れの街へ消えていった。


「なんだか自分が信じられないよ。あれほどの変人なんて滅多にお目に掛かれないのに、気が付けばもう10年以上も付き合っているんだから。しかしこのタッパーどうしようか。邪魔でしょうがないよ」

「レストランにはコインロッカーがあるはずです。そこに預ければどうですか」


 行き付けのレストランなのか。つまり日常的に利用しているってわけか。こんな機会でもなければ一緒に歩くことすらできない金持ち娘のようだな。


「あっ、あのお店です」


 華やかな電飾に彩られた店先には人だかりができている。20人はいるだろうか。


「あれは……」


 僕の足が止まった。そこにいるのは見覚えのある人物、大学の同じクラスの面々ばかりなのだ。


「やあ、罰ゲーム、ご苦労さん。まさか本当に連れてきてくれるとは思わなかったよ」


 その中のひとり、クラスでリーダー的存在の女子が手を振った。隣にいた美少女は僕の傍を離れるとボス女子に向かって駆けていく。


「罰ゲームだって……」


 心の中に闇が広がった。まさか、彼女は僕を騙していたのか……


 3


「やっぱり来ちゃったかあ」

「言ったでしょ。あんなカワイイ子に誘われて断る男子なんかいないって」

「よし、賭けは俺の勝ちだな」

「結局あいつも下心丸出しのオスに過ぎなかったってわけだ」


 クラスの奴らの声が聞こえてくる。事情はほとんど飲み込めていた。友人付き合いを一切拒否してきた僕を引っ張り出すために、無料ディナー券を餌にしてこんな茶番を企てたのだ。

 迂闊だった。クラス一の美少女が食事に誘ってくれる、そんな都合のいい話が現実に起きるはずがないじゃないか。しかも小説や映画で使い古された策略だ。どうして気づけなかったんだ。


「君は僕を騙したのか」

「ごめんなさい」


 深々と頭を下げる美少女。先ほどまで天使に見えていたその姿は、もうずる賢い小悪魔にしか見えない。お人好しは彼女ではなく僕のほうだったようだ。


「あたしからも謝る。許してくれ。それに彼女は悪くない。嫌がる彼女に無理強いさせたのはあたしなんだからね」


 ボス女子の言葉が真実なのか嘘なのか、それはもうどうでもよかった。一刻も早くこの場から立ち去りたかった。


「いいよ。騙された僕も悪いんだ。冷静になって考えれば簡単に気づけたのに。これでもう用はないんだろ。帰らせてもらうよ」

「待ちなよ。確かにあんたを騙してしまったけど、それには目的があるんだ。あんた、これまで一度もクラスのイベントに参加していないだろう。うちのクラスは女子が多い。男子には一人でも多く参加して欲しいんだ。それにあんたのことも心配だった。いつも一人で講義を聞き、他の学部の学生と飯を食い、一人で図書館へ行き、一人で帰る。そんな生活が見ていられなかったのさ」

「余計なお世話だよ。孤独には慣れているんだ」


 ずいぶんと上から目線な言い方だな。そこまで普段の僕を知っているのならわかるはずだ。一般学生並みの学園生活をエンジョイできるほど金と時間に余裕がないんだよ。


「どうだい、せっかくここまで来たんだ。今晩はあたしたちに付き合ってくれないかい。これからこの店で飲み会をやる予定なんだ。クリスマスディナーとまではいかないけどそれなりの料理も出る。もちろんお代は払わなくていい。あんたもタダ飯が食えるからここに来たんだろう。それなら腹いっぱい食べて行きなよ」


 怒りが込み上げてきた。「貧しいおまえに施しをしてやる、ありがたく受け取れ」そう言われているのと同じじゃないか。それほどまでに見くびられているのか、この僕は。


「勘違いしないでくれ。ここへ来たのは食事に釣られたんじゃない。困っている彼女を助けたかっただけだ。それにこんな気分で食事をしたって美味しく味わえるはずがないだろう。飲み会は君たちだけで楽しんでくれ。帰るよ」


 これ以上話をしていても不愉快が募るだけだ。元来た道を歩き出した僕の背後からため息や不満の声が聞こえてくる。まったく下らない計画を立てたものだな。誰一人幸せになれなかったじゃないか。


「雪か」


 今晩は特に冷える。体だけでなく心まで凍てつきそうだ。使い道のなくなった3つの巨大タッパーを胸に抱えて僕は帰り道を急いだ。


 4


「あら~、クリスマスイブに一人でお出掛け。寂しいわね」


 先ほどのゲイバーのママさんが声を掛けてきた。先輩、まだこの辺をうろついていたのか。さっさとアパートへ帰ればいいのに。


「もしかしてカワイイ女の子に食事に誘われて喜んで付いて行ったら、それが大嘘で一人で帰るハメになっちゃった、とか?」


 くそっ、店の前の会話を全て聞かれていたのか。これ以上傷口に塩を塗られるのは真っ平御免だ。


「放っておいてください」

「あら、図星だったみたいね。あたしってこう見えて勘がいいのよ」


 勘がいいも何も全部聞いていたんだから知っていて当然だろうに。まだ正体がバレていないと思っているみたいだな、先輩は。


「でもね、怒っちゃダメよ。女の子は男の子を騙すために存在しているの。お化粧もおしゃれも喋り方もそうでしょう。だから今夜のことは水に流してあげなさい」

「こちらの気持ちも知らないでわかったような言い方はやめてくれませんか」

「おお、怖い。退散退散。あっ、これは要らなくなったみたいね。返してもらうわ」


 ゲイバーのママさんに扮した先輩は巨大タッパーをひとつ取ると夕暮れの街へ消えていった。両手は若干軽くなったが心はますます重くなった。あの先輩のことだ。このまま手ぶらでアパートへ行けば何も知らない振りをして、


「おや、いやに早い御帰還だな、土産もないし。何が起きたのか詳しく説明しろ」


 とか言い出すに違いない。そこでまた傷口に塩やら唐辛子やらを塗りたくられてしまうんだろうな。とりあえず今晩はアパートには寄らず自分の下宿へ戻るとするか。


「あれれ、クリスマスイブなのにお兄ちゃんひとりなの」


 先ほどの詰襟学生服の中学生が声を掛けてきた。いつまで道草を食っているんだよ。いい加減にアパートへ帰れよ、先輩。


「あっ、もしかしてカワイイお姉ちゃんに騙されちゃった、とか?」


 無視して歩き続ける。中学生先輩はしつこく追って来る。


「気を落としちゃダメだよお兄ちゃん。だってお兄ちゃんには待っていてくれる人がいるんだもの。大勢の人に騙されたとしても、たった一人、自分を信じて待っていてくれる人がいるとしたら、それだけで十分幸福なんじゃないかなあ」


 足が止まった。先輩、もしかして僕を慰めてくれているんですか。


「ねえ、もしそんな人の心当たりがあるのなら、このまま家へ帰ったりせず、その人のアパートへ寄ってみなよ。いつもの梅干し豆腐ケーキだけじゃなく、先日スーパーの特売で買った98円の鍋焼きうどんを作って待っていてくれると思うよ」


 鍋焼きうどんって、もう正体バレバレじゃないですか。本当に騙すつもりがあるんですか。


「先輩……」

「んっ、何か言った。センパイなんてボクは知らないよ。あっ、そうだ。もうこのタッパーは要らないよね。返してもらうよ」


 中学生に扮した先輩は巨大タッパーをひとつ取ると夕暮れの街へ消えていった。

 どうやら僕は先輩を見誤っていたようだ。僕だけでなく誰に対してもあれほど優しい人はいない。だからこそ簡単に騙されるし、傍から見れば愚かな行為も平気でやってしまうのだ。


「おやおや、クリスマスイブにたった一人でお散歩とは。何とも寂しいことじゃて」


 やはり来たか。僕は振り返ると、声を掛けてきた老人をしっかりと見据えた。


「はい。私の未熟さゆえに人に騙されてしまいました。けれどもそれは心の目をしっかり開いていれば回避できた過ちです。もう一度修行し直したいと思います」

「うむ。良き心掛けじゃ。さりとて騙した相手を悪く思ってはいかんぞ。彼らとて良かれと思って企てたのじゃからな。感謝の心を忘れぬことじゃ。これは不要になったな。返してもらうぞ」


 老人は最後のタッパーを手に取った。そうして雪が降ってくる夜空を見上げた。


「おまえさんにとってはほろ苦いクリスマスイブになったのう」

「いいえ、今年ほど嬉しいイブはありません」

「おや、そうかい」


 老人は奇妙な顔をしてこちらを見た。それからにっこりと笑った。


「きっとおぬしの知り合いも今晩は特別に鍋焼きうどんに卵を落として待っていることじゃろうて。冷めないうちに早く行ってあげなされ」

「はい」


 老人に扮した先輩は夕暮れの街へ消えていった。体はすっかり冷え切っていたが、想いのこもった先輩の言葉は暖炉のように僕の心を温めてくれていた。

 そう、今年ほど嬉しいクリスマスイブはない。ズボラで横柄で頑固で屁理屈ばかりな男、そんな人物とどうして今日まで付き合って来られたのか、その理由がようやくわかったのだから。


「ありがとう、先輩……」












 このお話とよく似た題名の作品「本当はこわい話4 だましたはずが、だまされる」は、

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881838525

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