竹林の行方(昔話)(1400字)
天下泰平の世とは言っても争い事が絶えぬのは人の世の常。
それでも日之元村の住民は人が好い者ばかりでしたので、昔のわだかまりを捨てて近隣の村と付き合っていこうとしていました。一方、南高来村の人々は戦国時代に様々な大名から虐められた恨みを捨てきれず、事あるごとに日之元村へ文句ばかりを言っていたのです。
今現在、揉め事の種となっているのは二つの村の境にある竹林です。この竹林はずっと昔から日之元村の領地にあるものでした。竹細工の材料にしたり、筍を狩って菜にしたりと、村人たちはこの竹林を随分と重宝してきました。
しかし戦国の世の乱戦でほとんど焼かれてしまい、今ではただの笹薮になってしまったので、今では足を踏み入れる者もいなくなってしまったのです。
そこに目を付けたのが南高来村の人々です。突然、
「あの竹林は太古の昔から我が南高来村の領地である。単なる竹林ではなく『独林』という固有名称まであるのだ」
などと言い出して勝手に占領。竹林にのぼり旗を立てたり、小屋を建ててそこに常駐したりと、わがままし放題をやり始めたのです。
もちろん日之元村の皆は異議を申し立てましたが、そんな声に耳を貸すほど南高来村の人々は素直ではありません。殿様にも申し出ましたが、
「そのような小さな笹薮のことでお上の手を煩わすでない。互いに話し合って解決するがよい」
などと言われて、一向に取り扱ってくれません。そんなわけで二つの村はなかなか仲良くなれないまま日々を過ごしているのでした。
ところで南高来村の北にもうひとつ村がありました。
最近は、
「長距離高威力火矢の開発こそが緊急の課題である」
などと言い出して、毎日のように火の付いた矢を南に向かって発射するのです。
もっとも貧弱な技術力ではそれはたいした脅威ではありませんでした。矢が着弾する頃には火が消えてしまっているからです。しかも矢は大きな音をたてて飛んでくるので、注意していれば滅多に当たることはありません。
大変な迷惑には違いないのですが、止めろと言って止めてくれるような村ではないので、南高来村も日之元村も半ば諦めていたのです。
しかし最近、そうも言っていられなくなりました。何年も火矢を放っているうちに技術力が向上したのでしょう。火が消えないまま矢が着弾するようになってきたのです。
「これはマズイ。今のうちに何とかしないと……」
二つの村がそんな危機感を抱き始めたある日、遂にそれは発生してしまいました。事もあろうに北高来村の放った火矢が、例の竹林に着弾してしまったのです。
「大変だあ、水、みずぅー!」
南高来村の者たちは大騒ぎです。一所懸命消火作業にあたりましたが、努力の甲斐なく竹林は完全に燃え尽き、跡形もなくなってしまいました。それを見た日之元村の者たちは、口々にこう言ったそうです。
「仲違いの象徴だった竹林は北高来村のおかげで消滅した。これで南高来村との関係も良くなるだろう。北高来村の火矢は迷惑以外の何物でもなかったが、こんなところで役に立つとは……どんなモノにもその存在理由があるものだな」
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