第2話

『お客様にご連絡致します』

『西22番ドック発、中央駅行き急行列車は諸事情につき現在緊急停止しております』

『繰り返します。西22番ドック発————』


 車両前方のスピーカーから流れるアナウンスを聴きながら、俺は改めて彼女——"あい"に向き直った。


「……で、その爆弾とやらの場所は"視えて"るの?」

「ううん。私の『未来視』じゃあ、あんまり細かいところまでは見通せないんだよねぇ。だからハルトの『遠隔感応』で探して貰おうと思ったんだけれど」

「うーん。『遠隔感応』は元々テレパシー用のスキルであって、エリアサーチはその付属品みたいなものなんだよね。君の言う爆弾が思考するっていうなら感知できるだろうけれど」

「あはは、流石に爆弾にAI付けるほど人でなしじゃあないと思うなぁ。まぁ私たちも彼らも法律的には非人間なんだけどね。でもそっかぁ、私感応系入れてないからいまいちその辺の知識がなくって」

「……一応、『接触感応』で探せはするよ。ランクはB+しかないから一車両ずつで良ければ」


 おっけー。とうなづいて、あいは席を立った。それから窓の上に掲示された車両の全体図を見上げ、私はあっち、と後ろの車両を指で指し示す。確かこの列車は7両編成、ついでに、表示を見る限りここは4両目だ。俺は一旦能力を切り、立ち上がる。先程大雑把に探った感じ列車の前と後ろ両方で騒ぎが起こっていた。となると実行犯は二手に分かれているのだろう。俺も、おそらくはあいも戦闘に使えるような能力は入れていないはずだけれど——あぁ、そういえば。

 豪華なメンバーがどうとか、言っていたか。


「うん。二両目に"ルカさん"と"カグラさん"が乗ってるよ。五両目には"和佐さん"と"眠谷さん"がいる。豪華でしょう?」

「……偶然?」

「偶然偶然。ただちょっとだけ物騒な」


 軽い足取りで後方の連結部分に向かって歩き出したあいは、俺の横を通り過ぎてからくるりと振り返った。スカートの裾を翻して、未来を予知するという彼女は得意げに言う。


「大丈夫だよ。なんにも問題はないから、安心して。何故なら私は、この先の展開全てを知っている」


 ——なんてね。


 そうして彼女は、なんのためらいもなく後方車両へと続くドアを開けた。無人の車内は静まりかえっていて、誰の姿もない。最初からそのことを知っていたのだろう彼女が車両に足を踏み入れ、手を離した途端支えを失ったドアが自然と閉まる。その隙間で、片手でピースサインを作り悪戯っぽく笑う彼女の姿を見た。

 がこん、とドアが閉まるのを見送ってから、俺は前方の連結部分へと歩き出した。耳を澄ませてみてもなんの音も聞き取れない。残念なことに感覚強化系の能力は俺にはない——が、まぁどうということはない。先行き不透明も、行き当たりばったりなのもいつものことだ。


 俺は、目の前のドアを開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る