第4章 (15)~(18)出港前のあれやこれや編

 長かった第4章も、ついに終局へ。

 しかし、ちなみに次章(第5章)は、1話当たりの文字数を減らしましたが、全体として見れば、も~っと長いのです。

 第4章のエピソード紹介の最後は「出港前のあれやこれや編」です。

 

 トレヴァーの回想によって、時間軸が過去へと遡ります。

 第1章の3話「北の町の3人の青年たち」から、伏線となっていた”悪魔王女・マリアがデメトラの町で行った所業”も、ついに明らかとなります。

 そして、第4章のラストでは、ルークとディランの昔の同僚たち数人も登場します。

 ルークとディランの元同僚たちは、今は海賊に――それも悪名高き”ペイン海賊団”の構成員となっており……


 以下のエピソードが「出港前のあれやこれや編」に該当します。


ー15ー 出港(1)

ー16ー 出港(2)

ー17ー 出港(3)

ー18ー 出港(4) ~港町の酒場におけるペイン海賊団の構成員たち~



 港町より遠く離れた首都シャノンにおいても、港町での暴動に気づき瞬間移動によって駆け付けた魔導士コンビ、カールとダリオ。

 サミュエルの炎を鎮火させることができた彼らが見たのは、負傷はしているも命だけは無事なヒーローたちの姿と、血だまりの中に倒れている死者(ティモシ―)の姿であった。


 と、そのうえ、お約束とばかりに、魔導士・フランシスも港町へと瞬間移動にて、絶世の大迫力を持つ女偉丈夫・ローズマリーとともに姿を見せる。

 だが、フランシスはカールやダリオたちとやりあいにきたわけではなく、単に今宵大暴れをしたサミュエルを回収にしにきただけであった。

 ※ヴィンセントからの一撃をくらい気絶していたサミュエルは、ローズマリーに軽々とお姫様抱っこされてしまう。

 サミュエルを連れて、フランシスたちが帰ろうとした時、オーガストが”自分も(マリア王女の魂のひとかけらがいる神人の船に)連れて帰ってくれ”と頼む。

 またしても、その馬鹿なオーガストの行動をルークたちは止めようとするも、オーガストのマリア王女への愛は揺るぎはしなかった。


 神人の船にて、留守番をしていたネイサンとヘレンは、オーガストまでもが戻ってきたことに驚く。いくらマリア王女のためとはいえ、さすがに今回の件によってオーガストがフランシスと行動をともにし続けることはあり得ないと思っていたのだから。

 部屋にこもったオーガストは、マリア王女を――愛しい女を腕に抱き、決して声を出すまいと、歯を食いしばり、愛する者を守る力を持たずに生まれた自身の身を呪いながらむせび泣いた。



 数日後――

 ショックが癒えないままのレイナであるも、サミュエルの妖しい魔法薬による高熱が続くミザリーの看病を行っていた。

 実はレイナ自身の体調も万全というわけではない。

 熱に浮かされたような眩暈、そして耳鳴りまでしてきている。そのうえ、なぜか同じ部屋にいないはずの”ヴィンセントの声”までも、レイナの魂に直接響いてきたのだ。

 その時、レイナたちの部屋の扉がトレヴァーによって、ノックされる。


 レイナがトレヴァーに案内された部屋の一室には、すでにルーク、ディラン、ヴィンセント、ダニエル、フレディが揃っていた。

 トレヴァーは、ティモシ―が”マリア王女”を殺そうとする原因となった過去の事件の目撃者である。

 トレヴァーは、マリア王女の中の魂であるレイナを気遣って、残虐趣味のヤバすぎるあの王女が以前にデメトラの町でしでかしたことを、今まで話さなかったのだ。それはトレヴァーの優しさであり、思慮深さであった。


 以下、トレヴァーの回想となる。


※※※


 約1年前の春。

 19才のトレヴァー・モーリス・ガルシアは、旅一座に属し、裏方の用心棒として一日一日の生計を立てていた。

 トレヴァーが属していた旅一座は、魔導士の力を持っている団長が危険をあらかじめ避けたルートを通っていたため、命の危険や踊り子たちの貞操の危機を感じさせるほどの輩には幸運にも直面はしてはいなかった。

 そして、トレヴァーは踊り子の1人である、ライリーという女性とも愛し合っていた。(しっかりと肉体関係あり)


 悲劇の地となるデメトラの町での最後の日。

 夕刻、仮眠をとっていたトレヴァーは、テント周りをウロウロとしてた地元の少年たちの声で目を覚ます。

 トレヴァーのキン肉マン具合にテンションがあがった少年たち。しばし、少年たちの相手となるトレヴァー。


 テントに戻ったトレヴァーに、団長が声をかける。

 この団長、魔導士としての力を持って生まれた者ではあるも、その力によって生計を立てられるほどではなかった。けれども、本人は気づいてはいなかったが、「未来の欠片を掴むこと(未来予知)」には、かなり卓越した力を持っていた。


 そんな団長は、自分の命が残りわずかだということを悟り始めている。事実、この数か月後、団長は鬼籍へと入る。

 そのうえ、団長は今日というこの日、この地へと近づいている「人の形はしているが人ではない者、何かの間違いで人の器に入ってしまった禍々しい死の匂いを孕んだ、空虚な何か」を感じ取っていた。

 ※読者にはお分かりかと思うが、↑は言うまでもなくマリア王女のことである。


 そして、団長は以下のこともトレヴァーに告げる。

「……本当に近い未来のことだ。お前は数奇な運命の船に乗るだろう。今のお前からは、とても信じられないような……偶然のようであるが、幾つもの必然の出会いが待っている。その出会いには何か、俺たちが住む世界とは異なる世界の魂も絡み合ってくるようにも”感じるんだ”」とも――



 その時、先ほどの少年たちがトレヴァーを呼びに来た。

 王子様と王女様がこの先にある裏道を通るらしいから、兄ちゃんも一緒に見に行こうよ、と。


 トレヴァーが少年たちに連れられていった場所には、すでにデメトラの町の民たちが集まっていた。

 その中には、あのティモシ―と彼の妻、そしてまだ赤ン坊の彼の娘がいた。

 

 王子殿下一行が、この場所へと近づいてくる。馬の蹄、そして規則正しい足音たちに、緊張と畏敬による静寂は刻々と張りつめていく。

 アドリアナ王国第一王子 ジョセフ・エドワードは、馬の足を止め、平民たちに自らねぎらいの言葉をかける。

 王子・ジョセフの美貌と威厳に、民たちは一瞬、言葉を発することができなかったが、すぐに皆、慌てて再び深々と各々の頭を下げる。

 トレヴァーのジョセフの美しさに見惚れるも、どこか冷たそうで年よりも老けて見えるとの感想を抱いてしまっていた。


 そして、ついに――

 余に並ぶ者なき美貌と名高い王女、マリア・エリザベスが乗った場所がやってくる。

 彼女の姿を見た全ての者たちの時は……止まってしまった。


 マリアの絶世の美貌については、作中で幾度となく描写されているため、詳細については割愛する。だが、トレヴァーも、いやトレヴァーだけでなく、このアドリアナ王国の大地に跪いた平民たちは、自分たちと同じ人間とは思えぬまさに”天の上にいる者”の美より目を離すことはできなかった。


 けれども、マリアはジョセフとは違い、自分に敬意を示し、跪いている民たちを一瞥することもなく、フルシカト。

 と、その時――

 赤ン坊を抱いた母親(ティモシ―の妻)が、マリア王女に駆け寄った。

 ”娘に祝福をさずけて欲しい”と。


 かなりの無礼な振る舞いではあったものの、マリアは無垢な赤ン坊(ティモシ―の娘)に、女神のごとき慈愛に満ちた笑みを見せる。

 マリアは赤子に触れようとする。

 トレヴァーとティモシ―の2人は、そのマリアの妙な動き――彼女の手首に巻かれたブレスレットの装飾部にそっと手を触れたことや、一瞬、マリアがニヤリと唇の両端を耳に近づけていくような、美しさなど微塵もないゾッとするような表情を見せたことに気づく。


 トレヴァーが戦慄したとほぼ同時に、マリアが赤ン坊に危害を加えようとしていることに気づいたジョセフが「よせっ!」と制止しようとする。

 だが、間に合わずマリアは赤ン坊に触れてしまう。

 その後――

 人間とも思えぬ呻き声をあげた赤ン坊は、まだ柔らかい背骨が折れるのではと思うほどに体を反らし、内臓の色を思わせるピンク色の吐瀉物をゴフッと吹きだし始め……死に絶えた。

 その小さな肉体に絶大な苦痛を味あわせられた、惨たらしい死に様であった。



 ※※※


 トレヴァーの回想は、終わった。

 レイナ含め、彼の話を聞いた誰もが、ティモシーの愛娘は、おそらく毒物か何かでマリア殺されたのだとしか思えない。部屋の中は、さらに陰鬱な空気のなかに落とし込まれたかのようであった……



 本来の出港前夜に起こった事件により、”希望の光を運ぶ者たち”の出港日は伸びていた。

 いまだ体調が万全でない者も多数いるが、一刻も早くユーフェミア国を救わんがために、このアドリアナ王国の大地を離れることになった。



 ルークたち”希望の光を運ぶ者たち”は出港した。

 民衆の盛大な歓声に包まれ、海原へと漕ぎだすその英雄たちを見ていた1人の少年が、その民衆の中よりそっと抜け出した。

 少年は、”左脚を引きずりながら”港町のとある一角にある、酒場を目指す。

 少年の名は、ランディー・デレク・モット。

 彼は、ルークとディランの昔の同僚であると同時に、あの悪名高き”ペイン海賊団”の見張りボーイとなっていた。

 ※視力はすこぶるいい、このランディーであるも、幼い頃の事故の後遺症で足をひきずっているため、ペイン海賊団の戦闘員ではない。



 酒場に駆け込んだランディーは、ペイン海賊団構成員&リーダー格の戦闘員であるジムとルイージに、先ほど出港したばかりの船の甲板にルークとディランがいたことを告げる

 ちなみに、黒髪のそこそこハンサムだが人相悪いジムと、そばかすと赤茶けた髪ののっぽのルイージも、ルークとディランの昔の同僚である。だが、正直、ルークたちと奴らの仲は最悪であった模様。


 ランディーからルークたちの話を聞いた、このジムとルイージは”自分たちが襲撃し奪った囚われの船と、海上の本船との挟み撃ち”で、ルークたちを追いかけることに。

 しかも本船には、ルークとディランの元・親方であるマイルズという中年男と、彼らの昔の同僚がもう1人いる。

 ”いつ身に付けたのか”抜群の弓矢の腕を誇るエルドレッドという名の青年が……


 希望の光を運ぶ者たち”は、ついに出港した。

 そして、彼らを追いかける悪しき海賊たちも、彼らを追いかけ、出港するのだ。

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