第4章 (8)~(14)サミュエル・メイナード・ヘルキャット編

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 第4章をざっくり分けるとしたら、「首都シャノン編」「サミュエル・メイナード・ヘルキャット編」「出港前のあれやこれや編」となります。


 以下の7話のエピソードが、今回ご紹介する「サミュエル・メイナード・ヘルキャット編」に該当いたします。



ー8ー 出港前夜

ー9ー サミュエル・メイナード・ヘルキャット(1)

ー10ー サミュエル・メイナード・ヘルキャット(2)

ー11ー サミュエル・メイナード・ヘルキャット(3)

ー12ー サミュエル・メイナード・ヘルキャット(4)

ー13ー サミュエル・メイナード・ヘルキャット(5)

ー14ー サミュエル・メイナード・ヘルキャット(6)




 ついに港町へと到着したレイナご一行。

 そのレイナご一行には、首都シャノンを出発する日の朝、初めて顔をあわせた2人のニューフェイスの魔導士も含まれていた。

 女性魔導士ミザリー・タラ・レックスと、そして男性魔導士ピーター・ザック・マッキンタイヤー(ともに25才)も、これからのレイナの旅――いや、ヒーローである”希望の光を運ぶ者たち”の旅に同行するのだ。


 ミザリーは、レイナから見ると外見はどこか「地獄のミ●ワ」を彷彿とさせる女性であった。造作的には美人とは言い難い彼女は、過去に外見だけば文句のつけようがない”マリア王女”に、面と向かって主にその外見について酷いことを言われていたとのことであった。

 ミザリーの性格はいたって穏やかで常識的ではある。レイナは、彼女のテキパキとした頭の回転の速さに驚き、いつか心の中まで見透かされてしまうのでは少しばかりの畏怖も感じてしまった。

 対するピーターは、”今の時点では”身なりも行動もどこかだらしなく、やる気のない居眠りこきであった。いよいよ明日には、アドリアナ王国の大地を離れ、二度と戻ってくることができないかもしれないという、この緊張状態にあっても、彼だけは自分のペースを全く崩すことはなく、スースーと規則正しい寝息をたてており、ルークたちヒーローに絶大な不安と不信感を与えていた。


 夜、食事を終えたレイナ、ルーク、ディラン、トレヴァー、フレディ、ジェニーは、ミザリーの許しを得て、時間限定で港町の祭に参加する。今宵は偶然にも、国王ルーカス・エドワルドの生誕日であり、各地で祭が催されていた。

 出港前の、このほんのわずかな安らぎのなか、レイナはジェニーとともに飲みなれないお酒を飲んでしまい、レイナは”未成年飲酒”という罪悪感に襲われてしまった。


 宿に戻る途中の道で、レイナのストールが突如飛ばされる。

 レイナ自身、しっかりと手でストールを押さえていたにも関わらず……


 飛ばされたレイナのストールを、”単なる通行人かと思われる若い男性”が拾ってくれた。

 その若い男性は、月明かりと祭りの賑わいの灯りの下で見ても、甘やかな顔立ちの結構な美形であった。だが、ジェニーは、あの男性の瞳の奥にある”何か”と、もしかしたら職業は魔導士なのではと推測していた。

 ※ジェニーは宿屋等で働いていた時に、様々な人を見ているので、大抵の人の職業は一発で当てることができるという特技を持っている。


 そう、ジェニーの推測通り、あの結構美形の若い男性は魔導士であった。さらにそのうえ、なんと彼はフランシス一味のサミュエル・メイナード・ヘルキャットであったのだ。



 ほぼ同時刻――

 久しぶりに登場することとなる人形職人オーガストが、港町での祭の賑わいのなか、魔導士サミュエル、そしてもう今宵のもう1人の協力者であるティモシー・ロバート・ワイズを待っていた。

 ※現時点で、オーガストとティモシ―は一度も顔をあわせてはおらず、互いの顔はまだ知らない。


 だが、待ち合わせ場所へとやって来たのはサミュエル1人だけであった。

 そのうえ、サミュエルは先にティモシーを、”獲物”がいる宿に送り込ませたとも……

 オーガストはティモシーの獲物が、”マリア王女”であるとは思いもよらず、自分も宿に連れていってくれとサミュエルにせがんだ。



 宿の2階に泊まることになったレイナは戸締りがきちんとされていることを確認し、ベッドに横になった。ちなみにミザリーと同室であり、寝る前にミザリーと少し話をすることに。

 この時、第4章の終わりと第5章にて登場する、悪名高き海賊団「ペイン海賊団」のことも、レイナは彼女の口から聞く。

 レイナたちが部屋の明かりを消そうとした時、突然、扉がノックされた。

 ノックの主は、”ワイズ”と名乗った。宿の者であり、寒いだろうから毛布を持ってきたという、彼の入室をミザリーは断る。

 けれども、言い知れぬ不審さを感じたミザリーは、扉の外を念のため確認しようとドアノブに手をかけ……

 だが、それがいけなかった。

 扉の前で息を潜めていたワイズと名乗った男が――そう、”マリア王女”に恨みを持つティモシー・ロバート・ワイズが、部屋へと押し入ってきたのだ!



 ミザリーはワイズに鳩尾を殴られ気を失ってしまう。

 ティモシーに強烈なビンタをくらったレイナは吹き飛び、壁へと激突する。

 レイナは、この侵入者ティモシー・ロバート・ワイズが”マリア王女”にまだ赤ン坊だった愛娘を殺され、その復讐のために忍び込んできたのだと知る。レイナは、”自分はマリア王女ではない”と必死で訴えるも、全く聞く耳をもたないティモシーに首を絞められ……


 その時、トレヴァーとアダムが、レイナが今にも殺されんとしているこの部屋へと姿を現す。彼ら2人は、偶然にもレイナたちの部屋での不審な物音と悲鳴らしきものを聞き、駆け付けてくれたのだ。

 アダムは、この侵入者(ティモシー)が魔導士(サミュエル)の力を借りて、この部屋に忍び込んだのだと感じ取った。

 そして、この宿へと迫り来るサミュエルの気配をも、アダムはすでに感じ取っていた。

 憎い娘の仇(マリア王女)を前にして、興奮しまくっていたティモシーは、サミュエルの魔力によって、どこかへ移動させられたらしく、突如部屋から消失した。意識を取り戻したミザリー、そして別室にいたジェニーとともに1階へと避難するレイナたち。


 アダムに少し遅れをとったが、(1階のルークたちと同じ大部屋でグーグー寝ていた)ピーターも、サミュエル――ピーターのネーミングでは「炎の魔導士」の襲撃の気配に気づき、飛び起きた。

 いや、ピーターだけでなく、魔導士ではないルーク、ディラン、ヴィンセント、フレディの肌も鳥肌だった。明らかに何者かが、この宿へと襲撃をかけようとしていると――

 気配を感じたのに間髪入れず、ドオオン! という轟音とともに宿は揺れた。宿の中より幾つもの悲鳴が協奏曲を奏でるがごとく響き渡ってきた!


 宿の外へ避難しようとしたレイナやルークたちの前に、魔導士サミュエル・メイナード・ヘルキャットが瞬間移動にて、オーガストとともに姿を現す。

 サミュエルの瞬間移動は、フランシスのように余韻を残すものではなく、あっさりとした合理的なものであった。

 そのうえ、サミュエルはアダムと同じ年(83才!)であるはずなのに、彼はどう見ても外見は25才前後のままであり、話し方もその外見に比例したものであった。


 アダムを挑発するサミュエル。そして、マリアの肉体を自分の元へと保護しようとしたオーガストが”レイナ”へと手を伸ばしてくる。

 サミュエルに”宿の外へと”移動させられていたらしいティモシーまでがこの場に乱入し、オーガストとティモシーは卑猥な言葉を吐きながら、床を転がり合い、すったもんだの騒ぎに……

 面食らう一同。

 現れた侵入者のうちオーガストとティモシ―は、1人の女を巡っての愛と憎しみ、相反するものに突き動かされていた。そのうえ、そもそも2人は今、この場で初めて顔を合わせたようでもあった。

 


 サミュエルの今宵の目的はアダムだけであり、他2人(オーガストとティモシー、そしてマリア王女)は、単なる添え物。

 魔術を使い、アダムも含め、レイナやルークたちをを炎でグルリと取り囲んだサミュエル。しかも彼は、それだけではなく、妖し気な薬を使って宿の中の者たちの肉体の自由を奪い、蒸し焼きにしようともした。


 このサミュエルの襲撃シーンを、神人の船において”覗き見のさざ波”で見ていたフランシスは、独り言を言っているふりをしながら、魔導士ヘレンにちょっかいをかけ、彼女の心の傷をえぐってしまう。

 ヘレン”だけ”は自ら望んで神人の力を手に入れたわけではない。無理矢理、神人の力の元となる”もの”を取り込まされ、今もその幼き肉体という牢獄に閉じ込められているのだ。


 サミュエルの妖し気な薬によって、大半の者は床へと倒れ伏し、特に魔導士の3人――アダム、ピーター、ミザリーは嘔吐までしていた。

 しかし、なぜかヴィンセントとフレディの2人にだけはサミュエルの薬は全く効かず、彼らはピンピンしていた。そして、圧倒的な力の差があるにも関わらず、彼らはサミュエルに立ち向かおうとしていた。


 ピーターが隙を見て、サミュエルに渾身の気の一撃を発するが、残念ながら急所は外してしまう。だが、宿を取り囲む炎はなぜか弱まっていく。サミュエルはこの事象を引き起こしているのは”ヴィンセント”だと確信する。

 炎が弱まり、ミザリーが力を振り絞り、練り上げた気で宿の壁を破壊。外から新鮮な空気が流れ込み、何人かは体の苦痛が弱まり始めていた。


 オーガストとティモシーも、体の自由を取り戻しはじめていた。

 ”マリア王女”を守りに行こうとするオーガストと、”マリア王女”を殺しに行こうとするティモシーの上に、天井が崩れ落ちてくる。

 だが、間一髪のところでその天井のみならず、宿全体が一瞬で氷漬けにされたため、天井に押しつぶされることもなく、彼らの命は助かった。

 オーガストは自分を助けてくれたのが、フランシスであるのだと悟る。


 外に脱出することができたレイナ、そしてルークたちであったが……

 アダムにサミュエルが誘拐されてしまう。一同、パニックになるが、アダムは冷たい氷に覆われてしまった宿の屋上にサミュエルとともにいた。

 どうやら、サミュエル自身はもっと遠くにアダムを連れて行きたかったが、アダムがサミュエルの瞬間移動を妨害したらしかった。


 サミュエルは、自身も自家製の妖しい薬を吸い込み、苦しいはずなのに結構ペラペラと喋ることができており、以下のことをアダムに話してしまう。

 魔導士・フランシスは、魔導士としての力を持って生まれた者ではないということ。フランシスたちの計画は、サミュエルが生まれる前より下ごしらえに入っていたということ(その下ごしらえのうちの一つがフレディ含む凍った騎士108人?。

 さらに――

 フランシスとサミュエルたちは、59年前に神人たちを殺し、その肉を食べたため、彼らの不老という特性を手に入れたということも……

 人間が神人の肉を”食べて”その特性を手に入れた場合は、その食べた時のまま肉体の時間が止まり(このことの証明は魔導士ヘレンの存在である)、そして、”神人たちの骨”は船の一部としてリサイクルされ、命の尊厳など微塵もないまま、悪しき魔導士たちの道具(神人の船)として今もなお利用され続け……


 そのうえ、サミュエルはアダムが十数年前にジェニー以外の家族を失った”事故”が、事故ではなかったことを話してしまう。今はエマヌエーレ国にいるある魔導士の仕業であるとも……


 薬の苦痛に加え、ショックで茫然自失となったアダムをサミュエルが連れていこうとした時――

 戦意を失っていなかったアダムは、自分の分身を瞬く間に気で練り上げ、サミュエルに怪我を負わせる。

 けれども、神人の力を手に入れているサミュエルの傷はすぐにふさがり、アダムはブチ切れたサミュエルに魔術ではなく、なんと惨いことにその若い肉体の拳でフルボッコにされる。


 屋上の縁にまで追い詰められたアダムであったが、サミュエルの肉体から一時的に魂を抜くという荒業にて反撃する。

 ”肉体の操り主”を一時的に失ったサミュエルの肉体は宙を舞う。それと同時にバランスを崩してしまったアダムまで転落し……

 

 アダムとサミュエルが地面に叩きつけられる寸前、風穴などが見当たらない地面より突如、ゴオッと突風が吹きあがり、アダムとサミュエルの肉体は浮き上がり、助かる。

 殴られて血だらけのアダムと、気を失ったままのサミュエル。

 ルークたちはサミュエルを拘束し、衛所へと引き渡そうとする。


 その時――

 この宿での異常事態を、安全地帯よりうかがっていた善良な市民たちの間で悲鳴があがる。

 そう、1人の女をめぐる相反する感情にとらわれた2人の男たちの炎は、氷漬けにされることもなく、燃え上がり続けていたのだ。

 ”マリア王女”を殺そうとするティモシーと、”マリア王女”を守ろうとするオーガスト。



 殺意を剥き出しにしするティモシーに、ルークたちは必死にマリア王女の中の魂がマリア王女ではないということを説明するも、やはりティモシーは聞く耳を持たない。

 その時、気絶していたはずのサミュエルが覚醒。

 激怒し、暴れはじめた彼は、辺り一面を魔力でもって火の海にする。



 もう少しで火に巻かれるところだったレイナは間一髪、ルークとディランに助けられ、彼らとともに脱出しようとする。

 けれども、背後よりティモシーが酒瓶で彼ら2人の脳天に強烈な一撃をくらわせ、レイナはティモシ―にとらえられてしまう。



 時を同じくして、炎の海のなかアダムとジェニーも絶体絶命であった。

 アダムは、ブチ切れたサミュエルに、蹴りを喰らっていた。ブチ切れたサミュエルは、まさに単なるヤンキーであった。

 ジェニーは泣き叫びながらも、アダムを守るためにサミュエルに立ち向かおうとしていた。

 けれども突如、サミュエルは白目をむき倒れた。

 後ろから忍び寄ってきていたヴィンセントが、彼に一撃をお見舞いし、気を失わせたのだ。ヴィンセントに助けられたアダムとジェニーは、彼とともに炎の海からの脱出口を目指す。



 レイナ含む炎の中に取り残された者たちは、まだ地獄の中にいた。

 ティモシ―はやはり、レイナの必死の懇願と真実(この肉体はマリア王女であるも、自分はマリア王女ではない)に聞く耳をかさない。

 ”自分の目の前にいるのは、娘の仇だ。だから、殺す”と、この日を待ち望んでもいたティモシーに、レイナは地獄の業火のごとき、燃えさかる炎の中へと突き落される!


 けれども、レイナが灼熱の炎にその身を包まれる寸前、フレディが炎の中より飛び出て、レイナを抱きとめる。そして、フレディはレイナを両腕にかばったまま、ちょうどうまい具合に近くにあった噴水の中へと自らも身を投じた。


 フレデリック・ジーン・ロゴは、守り抜いた。

 彼が200年前より絶対の忠誠を誓い続けている、今はもうこの世にはいない国王ジョセフ・ガイの子孫の肉体と、異世界からやって来た1人の少女の魂を――

 

 それでも、まだレイナを殺そうとするティモシー。

 馬に乗り、駆け付けてきた衛兵たちにティモシーは幾本もの弓矢で貫かれる。

 即死というわけではなかったが、もはやこれまでと思ったティモシーは、”娘の仇である憎い女”の青い瞳に一生涯忘れられないような自分の死にざまを焼きつけようと……残っている力で自らの喉を一直線に引き裂き、自殺した。



 この光景を神人の船で見ていた少年魔導士・ネイサンは短い悲鳴を発して目を逸らし、フランシスは冷静なままであった。

 とその時、悪趣味な覗き見をなおも続けるつもりであったフランシスとネイサンは、この港町に首都シャノンからカールとダリオが瞬間移動によって駆け付けたことも知る。


 ※港町より離れた首都シャノンにおいても、優れた魔導士であるカール、ダリオ、そしてアンバーの父アーロンは港町での異変に気づいていた。城の魔導士たちは力を合わせ、取り急ぎカールとダリオを瞬間移動にて、港町へと飛ばしたのであった。


 フランシスが今から地上に降りるらしい。

 ネイサンは、優れた力を持つ自分を連れていってくれるのではと期待していたが、フランシスはなんと、あの暴力女のローズマリーを連れていくとのことであった……

 こうして、自分の力を試す機会をなかなか与えてもらえない、少年魔導士・ネイサンのフラストレーションはますますたまっていくのだ。

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