第3章 (10)~(14) 仲間集めだ! 希望の光を運ぶ者たち、集結!

―10― 頑固じいさんと凍った騎士(2)


・ 死んでいたはずの青年・フレデリック(以下、フレディ)が目を覚ました。しかも起き上がった。フル〇ン寸前ともなり、彼自身もパニック寸前のフレディ。アダムは極めて冷静に、「お前(フレディ)の生きるはずであった時代は、とうに過ぎ去った」ことを告げる。

・ フレディはダニエルの推測通り、「200年以上の昔に生きていた者」であった。そして、アダムが言うには「悪しき方向に力を使う魔導士によって、肉体だけでなくその魂までもこの世界にとらわれていた7人の若者のうちの最後の1人である」とも……

・ アダムは、彼ら7人の呪い”一冬かけて1人ずつ”を解いている最中であった。まあ、日本風にいうと成仏させていた。だが、最後の1人であるフレディの順番が来た今年は、先ほど強烈な襲撃の気(ネイサンの気)を浴び、またアダム自身も強烈な防御の気を発してしまったがために、フレディへの術は中断され、なんとフレディは蘇生してしまった。

・ アダムの家が崩壊してしまったため、レイナたちは通り抜けたアレクシスの町の中心部まで戻ることに。宿の一室でレイナは、今までにあったこと――フレディのことも含め、アンバーからの遺品のノートに書き留める。

・ 朝。ルーク、ディラン、トレヴァー、ダニエルは宿の外で話し込んでいた。アダムとヴィンセント、2人の尋ね人には何とかたどり着くことはできた。だが、このアレクシスの町で合流すると口約束をしていたヴィンセントが今、どこにいるのかは分からない。その時、リネットの町で自分たちと同じ宿に泊まっており、ヴィンセントと”懇意”の仲であろう旅芸人の女性から声をかけられたルークたち。

・ 旅芸人の女性は、昨日の夜までヴィンセントと一緒(しかも同じベッドにいた)であったと。けれども、ヴィンセントは”下の肌着以外”を残して、どこかへ行ってしまったらしい……というか、消えてしまったようだ。

・ ヴィンセントがおかしな失踪をしたと聞かされたまま、ルークたちはアダムにレイナ、ジェニー、そして眠ったまま(眠らされたままの)フレディのいる部屋に呼び出される。アダムには「大切な者(ジェニー)をこれ以上の危険にさらす道には行けない」と自分たちと行動をともにすることをキッパリと断られてしまう。

・ アダムには断られ、ヴィンセントは明らかにおかしすぎる状況で行方不明となっている。とその時、部屋の中が光によって波打ち始めた。その光の中には、3人の男の輪郭が見え、首都シャノンにいるはずのカールの声までも聞こえてきた。カールとダリオの真ん中にいたのは、あのヴィンセント・マクシミリアン・スクリムジョーであった。しかも、ヴィンセントは手枷と足枷をつけられ、まるで捕らえられた囚人のような状況での再登場であった。



―11― ヴィンセントは一足先に


・ ヴィンセント再登場の日の夜へと、物語の時間は移っていた。アレクシスの町の飲み屋の貸し切りの個室にて、レイナ、ルーク、トレヴァー、ダニエル、カール、ダリオ、そして”首都シャノンよりカールとダリオの2人に連れてこられた”ヴィンセントの8人は、夕食をとっていた。

・ ヴィンセントが囚人のごとく、首都シャノンから現れた理由は2つあった。1つ目は「ヴィンセントが今朝、目覚めるとジョセフ王子のベッドの中にいたから」(えっ……?)であり、2つ目は「そのことにより慮外者だとの疑いをかけられ、拘束されたから」であった。

・ (ここからは回想)事の始まりは昨夜にさかのぼる。ヴィンセントはルークたちとの約束をちゃんと守り、リネットの町からアレクシスの町へと移動していた……のだが、アレクシスの町にて、リネットの町で互いの同意の元、熱い夜を過ごした旅芸人の女性と偶然にも再会してしまう。んでもって、ヴィンセントはまたしてもその女性と互いの同意の元、熱くめくるめく夜を過ごすことにしたのだ。

・ 女性とひとしきり汗をかいたヴィンセントは、事後のピロートークも終え、眠りの扉を叩き始める時、ルークたちから聞いた話を思い返していた。そして、自分もこれから先、謁見することになるであろうジョセフ王子とは「どのような人物であろうか」と、顔も知らないジョセフ王子のことを”考えずにはいられなかった”。

・ 日が昇る直前の首都・シャノンにて。ベッドで寝返りを打ったジョセフ王子は、自分のベッドの中に何者かが潜り込んでいることに気づく。ジョセフが剣を手に飛び起きると同時に、侵入者も飛び起きる。ジョセフの瞳には、下の肌着の身を身につけた燃えるような赤毛で長身のすこぶる美しい侵入者(ヴィンセント)の姿が映っていた。

・ 一方、何が何だが分からないヴィンセントの瞳には、輝くばかりの金色の髪と冴え渡った青い瞳のいかにも貴族階級であることが分かる美しい若い男(ジョセフ)のが映っていた。しかも、駆け付けてきた寝起きのカールとダリオによって、ヴィンセントは自分がジョセフ王子のベッドにもぐりこんでいてしまったことを悟る。かろうじて、下の肌着を身に付けてはいたが、自分は半裸姿で王子のベッドに……もう絶対絶命。

・ が、完全なる窮地に陥ったと思われたヴィンセントだが、持ち前の機転と記憶力を生かし、リネットの町で出会ったルークたちから聞いたこと、一般庶民は知り得ない情報(マリア王女の肉体の中にいるのは別人の異世界からの少女やアポストルのことなど)をジョセフたちに話す。

・ 敵意のボルテージは一応、低くはなりつつあるジョセフ、カール、ダリオではあるが、この赤毛の美しい侵入者が本当にヴィンセント・マクシミリアン・スクリムジョーであるとの確証はない。

・ こうして、自分自身にも訳が分からないまま、一足先に首都・シャノンへと”行ってしまった”ヴィンセントは、遠く離れたアレクシスの町で、自分を待っている者たちの前に自分が真にヴィンセントであることを証明するため、姿を現すことになったのだ。



ー12ー カールとダリオへの経過報告


・ (前エピソードからの回想の続き)二度にわたりお騒がせする状況で現れたヴィンセントではあったが、本人確認がとれたため拘束はとかれた。ヴィンセントから、事の顛末(目が覚めたら王子のベッドの中になぜかいた)を聞いたルーク含み平民一同は青ざめる。ヴィンセントが下の肌着すら身に付けていなかったら、最悪、その場で斬り殺されていたかもしれないのだから。

・ 緊張状態はやっととけたかと思ったが、魔導士カールとダリオは、ヴィンセント・マクシミリアン・スクリムジョーが引き続き、妖しい人物(10人近い魔導士の魔力と集中力が必要とされるあれだけの距離を魔導士でもないのにたった1人で移動した)であるということには変わりはないと目配せしあう。(回想ここまで)

・ 夕食の時間へと物語の時は戻る。カールとダリオは、1か月もたたないうちにアダムとヴィンセントへと辿り着いたレイナ、ルーク、ディラン、トレヴァーの4人をねぎらう。そして、今、一緒にテーブルを囲んでいる黒髪の青年があのアリスの町の領主夫妻の長男・ダニエルであることを知る。デブラの町の庶民用の宿で働いていた少女・ジェニーもアダムの孫娘であったことも知る。

・ カールとダリオは、魔導士アダム・ポール・タウンゼントの激動の中にあった83年の人生について、首都シャノンの書庫にある文献にて知っていた。24才の時、サミュエル・メイナード・ヘルキャット含む悪しき魔導士たちが、”神人”(年を取ることもなく、鳥のように空を飛べ、魚のように水の中を泳げるこことは違う異世界の人たち)への殺人事件を起こした。その神人の中には、アダムが親しくしていた”トーマス”という男性もいたらしい。それから43年の月日が経ち、67才となったアダムは妻、娘、息子、娘婿、2人の孫娘と暮らしていた。だが、彼がちょうど留守にしていたある大雨の日、彼の家を崖からの落石が襲い、彼の2人の孫娘のうちの下の子であるジェニーだけが奇跡的に助かったと……

・ 引き続きレイナたちは、カール&ダリオの口より、後出しに後出しを重ねるような驚くべきことを聞く。実は、ジョセフ王子はレイナ、ルーク、ディラン、トレヴァーの4人の旅を「影生者」なる2人の兄妹に追跡させていた。けれども、レイナはもちろん、ダニエルの尾行に気づいていたルークたち3人ですら、その者たちの気配に気づかなかったと驚く。

※「影生者」とは、2018年5月時点でクドクド長文の本作にいまだ未登場であるも、”気を発する”魔導士とは反対に、対峙する対手に自分の目くらましのように肉体を見えなくすることができる人たち。一言でいうと、透明人間の力を持つ。出生率は魔導士よりも低く、この2人の影生者たちは兄妹――それも双子である可能性が高い。

・ そして、カールとダリオの話では、その「影生者」たちは、我がアドリアナ王国の王子殿下より直接の命令を受けたにも関わらず、前金だけ奪い取ってトンズラしたらしい。ありえない詐欺師兄妹。

・ ひとまず、夕食の時間はお開きとなる。レイナ以外の皆は、酒の匂いをプンプンさせながら宿へと戻る。そんな彼らであるが、明日にアダムからの衝撃の決断を聞くこととなる。そのうえ、あの蘇りし凍った騎士・フレディが今後の自分たちの旅路に深く関わってくるのだということも、まだ知らない……



ー13ー ゲイブはなぜ、現れない?


・ 物語の視点はジェニーへと移る。ジェニーはアダム、そして町の有志の人々のありがたい手助けのもと、少年魔導士ネイサンにぶっ壊された自分の家の残骸を片づけているところであった。

・ ジェニーが1才の時に遭遇した”不幸な事故”によって、彼女はアダムと2人きりの家族となっていた。アダムやフレディへのことへとジェニーの思考はうつっていく……フレディは、この王国の直系の王族に仕えるカールとダリオの話が聞きたいと自ら申し出たらしい。そして、アダムもカールとダリオを信用して、フレディを彼らに預けたと。

・ ふと、ジェニーは自分のすぐ近くにいたアダムの様子が明かにおかしいことに気づく。アダムは、魔導士ネイサンが”乗っていた木の板”を手にしたまま、体を(恐怖ではなく怒りで)ブルブルと震わせ、血が滲むほどに唇を噛んでいた。空に浮かぶことができるその木の板は、ただの木の板ではないということか?

・ その時であった。首都シャノンへと行く(もしくは戻る)支度をしているはずだと思っていたに、自分たちの元へと手助けに駆け付けてくれた者たち――レイナ、ルーク、ディラン、トレヴァー、ダニエル、ヴィンセント、そしてカールとダリオ、フレディの10人の姿に、アダムのジェニーは驚く。

・ 家の残骸を片づけながら、器用に話をするカールとダリオへと物語の視点は移る。新たなフランシス一味(ネイサンとローズマリー、そしてヘレン)の話をする彼ら。どうやら、ネイサンは数年前に首都シャノンの魔導士(アンバーパパ)が自ら足を運んでアドリアナ王国直属の魔導士にスカウトした子供じゃないかと……

・ 思いっきり身元が割れているっぽいネイサン。もしかしたら、自分たちの同僚となっていたかもしれない者が敵となり、まだ子供であるとはいえここまでの惨状にできるほどの力の持ち主であることに複雑な思いを抱く彼ら。

・ そして、カールとダリオはこうも思う。フランシス一味のうち4人は明らかに魔導士であるのに、ルーク、ディラン、トレヴァー、ヴィンセントの誰1人として、魔導士の力を持っていない。ヴィンセントの摩訶不思議さはともかくとしてだ。さらに”せめてゲイブが現れたら、この止まってしまったような物語の流れも変わるような気はする”とも。

・ 視点はやっと影の薄い主人公であるレイナへと移る。自分とルーク、ディラン、トレヴァー、ヴィンセント、ダニエル、そして”フレディ”は、カールとダリオとともに首都シャノンへと向かう決意を決めている。残酷に人生を断ち切られ、その後、蘇生してしまった凍った騎士にも、その魂の中にくすぶる続けている情熱が蘇ってきたらしかった。フレディの決意を、アダムとジェニーはまだ知らない。

・ それに、レイナはこうも思う。1回目の手紙に名前が書かれていたルーク、ディラン、トレヴァーに加え、2回目の手紙に名前が書かれていたアダムとヴィンセントも揃ったというのに、あのアポストルからの少年・ゲイブは、一向に現れない。レイナは、あのゲイブが持ってきた2回目の手紙の一部を心のなかで反芻した。

・ レイナは2つの仮説を脳内で立てていた。もしかしたら、アダムとヴィンセントを探し出す過程で出会うこととなった2人の青年(ダニエルとフレディ)も、”ともに船を漕ぎゆく英雄”として数えられているのではないか。そしてルークたちは、ゲイブをただ”待つ”のではなく、ゲイブを”呼ぶ”ことこそ、物語を切り開く鍵となるのではないかと……



ー14ー 希望の光を運ぶ者たち


・ 物語の道標となるゲイブはまだ現れない。だが、いつまでもこのアレクシスの町で立ち止まっているわけにはいかないと、レイナたち”11人”は、首都シャノンへと行く決意を新たに、とうに日が暮れた今、同じ部屋に集まっていた。レイナ、ルーク、ディラン、トレヴァー、ヴィンセント、ダニエル、フレディ、カール、ダリオ、そしてアダムとジェニーの姿もあった。

・ アダムも自分たちと行動をともにすることを決意した。(現時点ではまだアダムの”詳細な”過去については語られていないが)”誰か”を救えなかった悲しみもまた、一度はルークたちと行動をともにすることを断った彼の腰を上げさせたに違いない。そして、たった1人の家族(ジェニー)を連れて、危険が待ち構えている道へと赴くことを決めたアダムは、これから先も全身全霊で彼女を守り抜くつもりなのだろう。

・ テーブルの上に地図を広げたカールとダリオは、どのルートがより安全で、より首都シャノンに近い道となるのかを事前に打ち合わせる。各地を転々としながら生計を立てていた者たち――特に実際の地形などを誰よりも知っているに違いないトレヴァーの意見も、彼らは参考にしようとしていた。

・ とある町――”デメトラの町”の農村部を通り抜けるルートを、カールから提案された時、トレヴァーは別の道を探したほうがいいと苦々しい顔をする。トレヴァーは、カールとダリオにさりげなく目でコンタクトをとった。どうやら、デメトラの町でもマリアは何か人道に反することしでかし、その実際の場面をトレヴァーは目撃していたようだ。あの女は、まさに歩く災いである。

・ 一瞬の間があいた時、フレディが口を開く。彼は自分を含んだこの面々が、悪しき奴らに狙われていることは理解しているが、彼は実際に一度も悪しき者の顔を見たこともなければ、奴らと対峙したことはない(アダムの家をネイサンが襲撃した時も、彼は凍てついた眠りの中にまだいたのだがから)ため、どんな奴らかとルークたちに問う。そして、話は約200年前にフレディ含む7人の若い騎士たちに、強力で陰険な呪いをかけた魔導士についてに……フレディの話では、その魔導士は”白髪頭のもう90近いと思われる爺さん”であったとのことで、あのフランシスではないらしかった。

・ そして、彼らの話は「なぜゲイブが現れない」へと。影の薄い主人公であるレイナがやっとこの時になって口を開く。レイナ自身、自分が今から彼らに伝えることが正しいであるとの保証はなかった。だが、彼らに伝えなければならないとの思いが、レイナの魂の底より湧き上がってきているような気がしていた。

・ レイナは、「ゲイブちゃんをただ待つのじゃなくて、ルークさんたちが彼を”呼ぶ”ことが鍵になるのでは……」と伝える。単に啓示に従うのではなくて、自分たちの意志を持ってゲイブを呼ぶということ。しかも、レイナが伝えたかったのはそれだけではない。アポストルからの手紙に名前を書かれていたのは5人であったが、”ともに船を漕ぎゆく英雄全員”は他にもいるんじゃないかと……そう、つまり、アダムとヴィンセントを探し正す過程において、ルークたちと出会い、今もこの場にいる2人の青年――ダニエルとフレディもその英雄たちの中に数えられているのではということだ。

・ この場にいる者は皆、レイナの意見を無視するわけでもなく、馬鹿にするわけでもなく、ちゃんと聞いてくれた。そのうえ、同意までしてくれた。ルーク、ディラン、トレヴァー、アダム、ヴィンセント、ダニエル、フレディの7人は円陣を組み、ゲイブを呼んだ。

・ わずか十数秒の後、まばゆい光(ゲイブが現れる光)が光の波のごとく、部屋のなかを満たしていった。レイナの推理は見事に当たっていた。英雄1人1人が確固たる意志を持ち、助けを必要とする者たちへ希望の光を運ばんというその思いこそが、確かにゲイブを呼んだのだ。

・ 地上にて、希望の光を運ぶ者たち7人の集結。そして、彼ら7人が新たなる啓示を受けるのであろう光景を地上より遥か離れた神人の船にて、フランシス含む悪しき者たちは覗き見をしていた。ちなみにサミュエルはこの時も不在であり、フランシス、ヘレン、ネイサン、ローズマリー、オーガスト、マリア王女の6人で揃って覗き見のさざ波を見ていた。

・ なんとレイナの”頑張り”を褒める(?)フランシス。そのうえ「地上では追い風(アポストルからの新たなる啓示)も吹いてきたようですし、私たちも彼らとと平行してこの船を進めるといたしますか」と……次章にも奴らは不気味に絡んでくる気満々であるのだ。

 


 お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

 ちなみに、第3回目となる啓示内容は次章で明かされます。

 そして、次章はついに……この第3章終了時点まで、”声だけの出演”であったあの魔導士がついに姿を見せます。

 そのうえ、アドリアナ王国側からも”希望の光を運ぶ者たち”とともに旅出つこととなるニューフェイスの魔導士が2人登場します。

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