ティッシュメンコ

 ポケットからティッシュが硬くなったやつが出てきました。まるで石のように硬いのです。ティッシュってこんなに硬くなれるんだなって感動しました。僕は駅へ向かって歩いていました。桜の花びらが舞っていました。春でした。

 あのティッシュはいつのティッシュなのでしょう。洗濯機に揺られてあんなになってしまったのでしょう。揺られていた時、ティッシュは一体どんな気持ちだったでしょう。あ、前の方から友達のたかしくんが歩いてきました。高校の同級生でした。

「おっ、たかしー。どこ行くの。」

「おお、ああちょっと駅に。」

「へえ!あのさあ、俺ポケットからティッシュが固くなったやつが出てきてさ!すげー硬いんだぜ!」

「ええ、実は俺も、俺もさっき出てきた。」

 たかしはそういうと、ポケットから硬くなったティッシュを取り出し、見せてきました。触ってみると、確かに硬いです。カッチカチです。


「すげーなこれ、運命じゃん。メンコやろうぜ。メンコ。」

「おお、そうだな。メンコいいじゃん。メンコ!!」

 私たちはその固まったティッシュを使ってメンコを始めたのでした。


 メーンコ!!


 バシッ!!


 バシシッ!!


 コロコロコロコロ、コロコロコロコロ


 当然そんな綺麗には行きません。なぜなら、固まったティッシュだからです。ティッシュメンコは転がって道路に飛び出していきました。


「ああ、俺のティッシュがー!!」


 たかしはそれを追いかけます。


 ブーン!!


 車もやってきます。


「ああっ!たかし、危ないー!!」


 ドーン!!


 たかしは車と衝突しました。衝撃でたかしは宙に浮きます。


 バラバラバラバラバラバラバラバラ


 タカシのポケットから大量のティッシュが固まったものがばら撒かれました。


 バラバラバラバラバラバラバラバラ


 ああっ、あんなにぃっ!!


 バラバラバラバラバラバラバラバラ


 宙に浮いたたかしのポケットから噴水のように湧き出るティッシュたち。


 バラバラバラバラバラバラバラバラ


 そしてそれらは棺桶のようにたかしを包み込みました。


 ふわふわふわふわ、ふわふわふわふわ


 ティッシュの塊たちに囲われ宙に浮くたかし。どんどんどんどん、高く登っていきます。


 ふわふわふわふわふわ


 あっという間にたかしは見えなくなってしまいました。大変なことなのに、私は見入ってしまいました。まるでノアの方舟が選択した生物たちを運んでいくようだったのです。


「たかしを、たかしを返せー!!」


 しばらくして正気に返った私は天に向かって叫びましたが、帰ってくる様子はありません。大変なことになってしまった。


「たかしを、たかしを返せー!!」


 それからたかしはしばらく帰ってきませんでした。もう見つからないと諦めかけていたある日、たかしがやってきました。


「た、たかし!!」


 たかしは全裸で、全身に固まったティッシュを纏っていました。それはまるで鱗のようでした。ニコニコニコニコ、嬉しそうに笑っていました。


「な、何があったんだ!!」


 たかしは笑うだけで、何も語ろうとはしないのでした。ただ時々、両腕をぶつけるような動作をしていました。キンキンとぶつかったティッシュが鳴っていました。たかしはティッシュの硬さを誇っているようでした。とても満足そうで、にっこり、にっこり。きっとティッシュでメンコをした罰なのです。私はたかしのことを思い涙するのでした。


 完

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