薔薇色の未来
仕事中トイレでサボるのはもうこれで終わりにしよう。そう思いながらも1時間後にはまたトイレにいる。そんな生活を繰り返し、流転し流転し流転する。運命。流れる。時間は流れて流れて流れて僕は何も変わらない。いつまでこんな生活を続ければ気が済むのかと思う。チームのリーダーの人にはもう呆れられている。この前注意されたのに同じようなことを繰り返しているからだ。もう首にして欲しいと思っている。ああ、もう首にしてくれ。そして、俺はドラゴンだ。
「ガオーッ!!」
トイレの中で一人叫んでみるけどやっぱり俺はドラゴンじゃないし、人だし。
「ガオーッ!!」
そもそもドラゴンってガオーッ!!て鳴くのかな?これがわからないということはつまり私は所詮人。どこまで行っても所詮人。
「トイレでガオーッ!!と叫んでいる人がいるようです。やめましょう。」
ついにメールで送られてきた。フロアの全員に送られてきたメールだから名指しとかではないけれど。やっぱりトイレでガオーッ!!と叫ぶのは良くなかったみたいだな。辛。
「ごめんなさい。やめます。」
私は返信ボタンを押した。直後に過ちに気付いた。自首してしまったのだ。ああ、また、アホなことをやってしまった。ああ、ああ、憂鬱だ。何を言われるんだろう。ああ、帰って寝よう.....。
朝になりました。
「たかしさん。あなたは首です。」
まさかの首宣告です。なんてこった。理由を聞かなきゃな。
「ええ、なんでですか。酷いじゃないですか。」
ちょび髭の部長は冷めた目でこっちを見ている。
「だってたかしさん。トイレでガオーッて叫んでいたらしいじゃないですか。そんな人首でしょうが。当たり前でしょうが。」
「なんでですかーっ!!なんでトイレでガオーッて叫んだら首なんですかーっ!!不当解雇だーっ!!訴えてやる!!訴えてやるぞ!!」
「ああ、勝負だ。」
私たちは裁判で争うことになった。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ.......
〜時は流れ判決の時〜
ゴンゴンゴン
「トイレでガオーッて叫んだための解雇は不当解雇ではありません。」
なにぃっ!!
「やったーーーー!!」
部長は飛び上がって喜んでいる。すごい嬉しそうだ。まるで応援していたプロ野球チームが優勝した時のようだ。手をあげて万歳している。部長も人間なのだな。しかし納得いかない。
「なんでですか?理由を説明してくださいよ。」
「トイレでガオーッて叫んだからですよ。ドラゴンでもあるまいし。」
裁判長は言った。捲し立てるように。
「ドラゴン?ドラゴンはガオーッて鳴くのですか?」
「それは....わかりませんけれど....。」
裁判長は目を逸らす。そう、裁判長も所詮人、所詮人だ。
「でもダメと言ったらダメなのーっ!!」
まあそれは事実だ。裁判長がダメと言ったらダメなんだ。それがこの世の仕組み、秩序。もう私は諦めるしかない。
「部長!!お世話になりましたーっ!!」
私は家へ帰った。お家はいい。寝てられるから。ついに首になったのだ。職場のトイレにいる生活が永遠に続くかと思ったけどそうでもなかったか。私はループから脱した。そうそう、私にはもう薔薇色の未来しか待っていない。薔薇色の未来。薔薇色の未来。なんだろう。薔薇色の未来。いろんな女とセックスしまくる未来か?それとも豪邸に住む未来か?いずれにせよしっくりこないな。取り敢えず、花屋で薔薇を買ってこよう。うんうん。
駅前の花屋に入る。右隅の方に真っ赤な薔薇が咲いている。ああ、綺麗な薔薇。じゃあ早速、頂くとするかー。
「これ、下さい。」
「はい。こちらですね。」
伏し目がちな店員はニヤッと笑ったような気がした。
私は家に帰り薔薇を眺めた。なんて美しい薔薇なんでしょう。ご飯を食べている時も眺め、トイレにいる時も眺めた。すごく綺麗だ。ある日いつものようにトイレで薔薇を眺めながらガオーッ!!ガオーッ!!と叫んでいた時のこと。
「ガオーッ!!」
「ガオーッ!!」
ひらり、花びらが一枚中に浮いた。
「んっ!!」
なんだなんだと思っていると、ドアの方へ進んでいく。おお、この花びらを止めてはいけない。直感的に察した私はドアを開き、花びらを追った。急いでズボンを履いて。
ひらひらひらり
私は花びらと外に出た。
ひらりひらりひらりひらり
花びらは気を抜くと見失ってしまいそうなほど早く、私は走り出した。
「ガオーッ!!ガオーッ!!」
体の内から湧き出る叫び声。叫びながら走って花びらを追う。
ひらひらひらり、ひらひらひらり
ふわっ
気づくと私は、宙に浮いていた。なんだなんだ。なんだこれは。
「ガオーッ!!ガオーッ!!」
街を見下ろす。なんだか肌が鱗のようになっているのが見える....。ドラゴン....そう...私はドラゴンになったのだ!!
「やったー!!これで電車賃がかからずに移動できるぞー!!薔薇色の人生じゃ〜。」
私にとって薔薇色の未来とは、ドラゴンになって移動することで電車賃がかからない未来だったのだ。
完
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