天井撮りのさとし

 カシャカシャ、カシャカシャカシャ


 おお、カメラマンが撮っている。カメラマンが撮っている。


 カシャカシャ、カシャカシャカシャカシャ


 撮っている。撮っている。カシャカシャカシャカシャ撮っている。


「こんにちは、撮っていますね。」


「はい、撮っていますよ。」


「ところで、何を撮っていますか?」


「天井です。天井を撮っていますよ。ウキーッ!!」


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャカシャカシャ

  

「へえ、ところであなた、名前はなんていうんですか?」


「さとし!!さとしじゃっ!!ウキーッ!!」


 この日から私は彼のことを『天井撮りのさとし』と呼ぶことにした。


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


 今日もサトシは撮っている。


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャカシャカシャカシャカシャ


 いつ見てもさとしは撮っている。


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


 あまりにもいつも撮っている。いつ見ても撮っている。あまりにも撮っている。どうしてそんなに撮っているのだろう。


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


「どうしてそんなに撮っているのだい?」


「へへへっ!!撮りたいからですぜ。」


 カシャカシャカシャカシャカシャカシャ、カシャカシャカシャカシャ


「どうして天井をそんなに撮りたいんだい?」


「えっ、えええっ、、それはぁっ、、、、撮りたいからですぜえっ。」


 おっ、動揺している。怪しい。どうやら『天井』というワードが鍵のようだ。


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


「かえる。」


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


「床。」


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


「天井」


「うぅっ!!」


 やはり、明らかに天井というワードに反応している。


「しまうま。」


 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


「イルカ。」

 

 カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャ


「天井」


「うぐぇえええっ!!」


 吐血した。赤い血が床にびしゃあっ!!まさかここまでとは。驚くべきことだ。天井撮りのさとしは『天井』が嫌いなのだろうか。しかし、彼は常に天井を撮っている。吐血した今ですら天井にカメラを向けている。震える手でカメラを天井に向けている。これはどういうことなのだろう。好きなのか嫌いなのかわからない。


「天井。」


「うぐえええええっ!!」


「天井。」


「ぎゃああああああああ!!」


「天井。」


「うきょおおおおおっ!!」


「天井。」


「ぐええええええ!!」


「天井。」


「っ..........。」


「天井。」


「........。」


 天井撮りのさとしは動かなくなった。死んだようだ。仰向けになって死んだ。目はぱっちり見開かれ、天井を見つめているようだった。


 完

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