無理なご乗車はお辞め下さい

「無理なご乗車はおやめくださ〜い。」


 慌ただしい駅構内。駅員の声が響きます。


「無理なご乗車をします。」


 人Aが言いました。


「だめですよ。無理なご乗車はだめですよ。」


 駅員さんが言いました。


「無理なご乗車は好きですか?」


 人Aが言いました。


「無理なご乗車は嫌いです。」


 駅員さんが答えます。


 ビリビリビリビリビリビリビリビリ


 不穏な空気が漂う。


 ビリビリビリビリビリビリ


 ポーーー!!


 とうとう電車がやってきました。満員電車のようです


 グオーッ


 扉が開き、ところてんみたいに人間が溢れ出てきます。


 グオーッ


 グオーッ、としている。


 しばらくすると、今度はホームに溢れていた人々が電車に乗り込んでいきます。信号が変わったみたいです。こんなにたくさんの人々乗り切れるのだろうか。しかし、


「無理なご乗車をします。」


 彼は全く動きません。微動だにしません。微動だにせず口をモゴモゴ動かして


「無理なご乗車をします。」


 と言っています。


「無理なご乗車はお辞め下さい。」


 アナウンスが流れても


「無理なご乗車をします。」


 と呟き続けます。


「無理なご乗車はやめなさい!!」


「無理なご乗車はやめろお!!」


「やめろ!!普通のご乗車しろ!!」


 事態を重く見た駅員さんたちが集まってきました。しかし、


「無理なご乗車をします。」


 彼は呟き続けるだけ。動こうとしません。やがて、ホームは彼だけになりました。電車はパンパンです。


「今から、無理なご乗車をします。」  


「やめろお!!」


「無理なご乗車やめろお!!」


 駅員の怒号が響きます。しかし、それを嘲笑うかのように彼はドアの前に立ち、しゃがみました。


「やめろお!!無理なご乗車はやめろお!!」


 続いて、ダンゴムシのような体制をとりました。


「無理なご乗車はやめろおおおお!!」


「おいいいい!!やめろおお!!普通のご乗車しろおおおお!!」


「今から、無理なご乗車をします。」


 くるりん


 駅員の静止虚しく、彼は前転をしました。満員電車に、前転で乗り込もうとしたのです。


 ガアッ


 足が、挟まっている。電車とホームの間に。そして、電車の扉は閉まり、今にも電車は走り出しそうです。


 ウィーーン


 ガアッ!!ガアッ!!


 焦る男!!しかし、声が響きました。


 ストーーーップ!!ストーーーップ!!


 トマレーー!!トマレーー!!


 この声は、駅員です。駅員の声です。電車の扉は開き、出発は数分先送りされました....。


「全く、しょうがないな。」


 男の救出を始める、駅員たち.....。


「こ、こんな俺のために.....。ありがとう.....。優しくしてくれて、ありがとう.....。言うこときかなかったのにさ......。こんなの、人生初めてだ。もう、どうでもよくなってしまって、こんなことをしてしまった.....。ありがとう、ありがとう。」


「ああ、もうこんなことをするんじゃないぞ。」


 駅員は呆れながらも笑顔で語りかける。


「俺も、駅員になる。駅員になるよ....。」


 男は駅員になる決意をしましたが、面接での駅員を志したエピソードみたいなところでこの話をしまくったので、無理でした。


 完

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