髭剃り、髭ソーリー

 ブイィィィィイイン、ブイィィィィイイン


 髭をブイィィイン、髭をブイィィイン。


 気持ちいい。芝刈り機に芝を狩られている時、地面もこんな気持ちなのだろうか。気持ちいい、気持ちいい。


 髭をブイィィイン、髭をブイィィイン。


 すると何やら声がする。


「ひげ、ソーリー、ひげ、ソーリー。うぅっ、うぅっ、ひげ、ソーリー、ひげ、ソーリー。」


 どうやら髭剃りから聞こえるよう。髭剃りが髭に謝っているのだろうか。髭を剃って、ごめんなさいという気持ちなのだろうか。


「君、優しいね。髭に謝るなんてね。」


 私は髭剃りに言った。


「いいや、優しくないよ。刈られた髭からしたら、刈り続けてるやつに謝られたって、ムカつくだけでしょう。うぅっ、うぅっ。私は自分の罪悪感を癒すため、自分のために謝っているんだ。うぅっ、うぅっ、ひげ、ソーリー、ひげ、ソーリー。」


 ブイィィィィイイン、ブイィィィィイイン


 私は髭を剃り続ける。


 ひげ、ソーリー、ひげ、ソーリー


 髭剃りは変わらず謝り続ける。しかしだ。髭剃りを操作しているのは私。髭剃りは何も悪くない。彼は為すすべなく髭を剃っているのだから。謝らなければいけないのは私だ。足の裏から罪悪感が上ってくる。ああ、ひげ、ソーリー、ひげ、ソーリー。視界がにじむ。涙が頬を伝う。その時、


「毛根は生きてるから大丈夫。謝らなくてもいいよ。」


 髭が言った。


 パァ〜〜〜〜


 視界が、ひらけて行く!!!!!


 完

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